月見 夜、ベランダに出て小さいテーブルと椅子を用意した琥珀。テレビで月が綺麗に見えると言っていたため、お月見をしようと思ったのだ、テーブルには軽くつまめるものとワインが一本。準備を終えた頃、月明かりに照らされて出来た影からサクリが出てきた。
「なんだ、一本だけか」
「まだあるけどとりあえずな」
琥珀は酒を飲まない、その事は目の前にいるサクリもよく知っていた。仲のいい相手とも滅多に酒を一緒に飲もうとしない琥珀が、珍しく月を見ながら晩酌しないかと誘ってきたのだ。琥珀はサクリに念を押すように言う。
「もし俺が酔って殴ろうとしたら殴り返していい、正当防衛として受け入れる。覚えてなくても」
「はいはい、飲むぞ」
いつの間にかサクリは椅子に座っておりワインを注いでいた、琥珀は少しだけワインを入れて飲む。ワインの味になれてないせいか、なんとも言えない顔をしてしまいつつ月見を見る。
綺麗な満月だった、あの時見たサクリの目のような金色の月が二人を照らしていた。この風景はサクリに合いそうだといつか描こう、なんて思いつつワインを飲む。どうやらサクリはいつの間にか一本飲み終わっており、場所を知っていたからか二本目を開けていた。
「……あれ、もう二本目……」
「お前が遅いんだよ」
サクリはそういうとまるで水を飲むかのようにワインを飲む、琥珀はというと、先程から頭がふわふわしてるような感覚に襲われていた。
飲んだ量はと言うと、やっとワイングラス一杯分、といったところだろう。ふわふわとしてくるかと思うとあくびをしてしまった、力が抜けるように椅子に深く座り込んでしまうと、うつら、うつらとし始めた。
サクリは寝そうになっている琥珀を横目で見ていた、というか、あまりにも酒の弱い琥珀に内心思わず呆れていた。
「……ん…………」
さっきから唸っていた琥珀が黙り込み、サクリは寝たなと確信した。案の定、その後小さな寝息を立てて琥珀は寝てしまっていた。それにしてもだ、いくら相棒だからといって敵派閥である相手にいささか無防備すぎるのでは、とワインを飲みながら琥珀を見る。
どうせ今寝ているこの相手は、自分のことを信用してるから、なんて言って笑うのだ。困った人だ、なんてサクリは思いつつ寝てしまった琥珀を横目に三本目を開けた、全部飲み終わったら寝ている琥珀を運ばないといけないのか、と思いつつサクリは月を見た。月は相変わらず二人を照らしながら光っていた。