流れ星と共に「ダミア、キャンプしましょう」
唐突なレイフの提案からか、ダミアはウィンディの毛並みを梳かしていた手を止める。レイフの顔を見たが、どうやら本気らしい。
「え、なにどうした?」
「だからキャンプしましょう、この近くなら四天王も怒らないはずです」
「レイフってほんとたまに唐突に言うよな」
でも嫌とはいいませんよね、とレイフは言うとダミアは思わず笑う。レイフはダミアの顔を見て早速、と言わんばかりに荷物を取り出す。一体どこから出したというのだろう。中身を見ると、テント、寝袋……キャンプに必要な道具が一通り揃っていた。そもそも、そのセットに見覚えがある。
「え、これ旅してた時に使ってたヤツ?」
「はい、また使う時が来るとは思いませんでした」
お互いチャンピオンになってからというもの、旅という旅をしなくなった。それに比例して、使っていた旅道具も使わなくなったのだが……どうやらレイフは綺麗にしまっていたらしい。
「少し大きめなのでダミアも一緒に寝れますよ、寝袋も二つあります」
「レイフ、さては前から計画してたな?」
「さぁ、どうでしょうね」
レイフはそう笑うと、ダミアの手を引いてこっそりとリーグ内を出る。リーグの外はまだ明るかったが、このままではすぐに暗くなるだろう。もう場所に目星をつけていたからか、レイフは迷いなく歩く。少し歩くと、開けた所に出た。こんな所あったのか、とダミアは周りを見る。
「テントたてるのは久しぶりですね……」
「俺火の準備していい?」
「いいですよ」
火の準備といっても、ウィンディが技で出してくれるのですぐに確保できる。どうやら食料もレイフが一通り用意していた、本当に前から計画をしていたのだろう。レイフの方も、ポケモン達に手伝ってもらいながらテントをたてていた。レイフの言う通り、少し大きめのテントだった。それで時間が過ぎたからか、周りは夕焼けに包まれている。
「んじゃ飯の準備するかー」
「俺手伝いますよ」
「いやレイフは食器用意して」
レイフの料理の腕前を知っているからか、ダミアだけではなく、お互いのポケモンすら顔を青ざめる。その反応に、少し拗ねたレイフは食器を用意する。ダミアはキャンプといったら、とカレーを作り始めた。カレーを作りながらレイフを横目で見る。なぜ突然キャンプをしようなど言ったのだろうか、と思いながら。
すっかり周りが夜になる、火を囲みながらお互いにカレーを食べていた。
「相変わらず美味しいですね」
「レイフのはやばかったもんな」
一度、旅をしていた時レイフのカレーを見たのだが、この世とは思えないほどの色をしていたのは覚えていた。それを食べたあとの記憶が無い。恐らく、気絶したのだろう。
「……んで、なんで唐突にキャンプしようなんて言ったわけ?」
ダミアはカレーを食べながら聞く。レイフはその問にぼんやりと火を見ながらポツポツと話しだした。
「……少し、昔に戻りたくて。こんな感じに、旅してた頃に。チャンピオンが不満とか全くないです、ダミアとこうしてチャンピオンして……すごく楽しい。けど、なんでしょうね、唐突にキャンプしたいなって思って」
「なるほどねー」
「……チャンピオン失格でしょうか」
「そんなことなくね?」
ダミアの返答を聞いてレイフは笑う。実際、懐かしかった。旅をしていた頃を思い出す、こうしてテントをたてて、カレーを作って、たまに旅先でダミアと出会ってはバトルをして、一緒に寝たり。まるで昨日のように思い出すのだ。
レイフは空を見た、空は綺麗な星空が広がっており、宝石のように綺麗だった。レイフは知っていた、ここがよく星空が綺麗に見える場所ということに。ダミアを誘ったのもこれが含まれているのだが、それは言わなかった。ダミアも釣られて空を見て笑う。
「うお、綺麗な星だな……あ! 流れ星!」
「え、どこですか」
「ほらあそこ。あ、また流れ星」
「あ、今度は見えましたよ!」
二人がそう言った瞬間、流れ星がいくつも落ちる。まさか今日はそういう日だったのだろうか、レイフとダミアはじっと流れ星を見ていた、お互い声は出さずとも、思っている事は同じなのかもしれない。
星空は、二人を見下ろしていた。