雨の日の頭痛 夜中から降っていた雨は朝になってもやむことはなく、むしろ琥珀と創が学校に着く頃には本降りとなっており、制服やズボンの裾を濡らしていたり、タオルで拭いたりする生徒たちも大勢いた。二人は寮から来たため、そこまで濡れることなく教室へと行く。教室へ行き、ほか生徒に挨拶をしつつ創はふと、おかしいなと思った。
大体先にいる鈴鹿がいなかったのだ。チラリと机を見た時、カバンがさげられている様子から学校には来ているはず。何か用事で教室に居ないのだろうか、と思ったがどうもひっかかってしまう。
「創?」
「あー、琥珀、ちょっと用事で出るわ。スマホ持っとくからなんかあったら連絡して」
「え、うん」
琥珀にそう言うと、創は教室へと出ていった。鈴鹿が行きそうな図画工作室や、図書室、一応職員室も立ち寄ってみたが姿はなかった。生徒の賑わう廊下から外れたからか、遠くの方で生徒の声が聞こえるだけで、静かな雨の朝だった。
もしかしてな、と創は屋上までの通路を歩く。こんな朝から、しかも雨が降っているからか、さらにシン、と静かに、雨の音しか響かない。屋上までの階段を登り、踊り場に足を踏み入れた時、座り込んでいる人物を見た。その人物は、創が探していた鈴鹿だった。
「……鈴鹿? おい、大丈夫か?」
声をかけて近寄る、鈴鹿は頭を押えて蹲っていた。顔色も真っ青で、創の声が聞こえたからか、視線を創の方にむけたが、それもすぐに伏せてしまう。
「……頭痛いのか?」
そう言った時、ゆっくりと首を動かす鈴鹿。天気の気圧のせいで頭痛がしているのだろうか、と創は予測を立てた。琥珀もたまにだが、雨の日は頭が重いと元気が無い様子で言うのを思い出す。琥珀より重症だ、と創はゆっくりと鈴鹿を担いだ。
「保健室行こう、人と会いたくないだろ。会わないようにゆっくり行くから」
こんな所に蹲っていたのも、騒がしい教室では休まらなかったからだろう。創は難なく鈴鹿を担ぐと、あまり頭に響かないようにゆっくりと、通路を歩く。時間を見てなかったが、そろそろホームルームが始まるはず。それならば、あまり人と会わなくてすむとおもいつつ、保健室へ着いた。
「先生、体調悪いみたいで」
そう保健の先生にいいつつ、鈴鹿をゆっくりとベッドにおろした。顔色の悪い鈴鹿の額にそっと手を置いて撫で、心配そうに見る。
「江波戸君、貴方そろそろ教室戻らないと……」
先生が心配そうに言った時、創は無茶を承知で口を開いて、言葉を言った。
「……ん」
ぱちり、と鈴鹿は目を覚ました。目の前に移るのは白い天井に、ツンと鼻にはいる消毒液の匂い。窓からは生徒たちが帰る様子が聞こえてくる、清潔なベッドの上に横になっていた。
いつの間に保健室にきたのか、朝までの記憶はあるのだが、まさか放課後まで寝たのかと思いつつ起き上がる。朝感じていた動けなくなるほどの頭痛は一旦おさまっていた。
そして、その傍で創が腕を組んで椅子に座り、少しうたた寝をしていた。朝降っていた雨はやんでおり、夕日が創の綺麗な金髪を少し赤く染める。顔立ちの良さからか、自然な立ち振る舞いも相まって、誰しもが絵として題材にしたがるだろう。鈴鹿はそっと手を伸ばし、創を少し揺らす。
「……創」
「……んー…………」
鈴鹿が声をかけると、創は少し目を開け、眠たそうに欠伸をする。そして、鈴鹿を見て笑う。
「体調平気?」
「……だいぶ」
「ならいいや、体調悪いなら無理すんなよ」
そう言うと、鈴鹿の荷物を取ってくると一旦創は保健室を後にした。そして、保健の先生が入ってきて鈴鹿に話す。
「御手洗君もう大丈夫? 江波戸君ね、貴方が起きるまでそばに居ていいですかって頭下げたのよ。朝のホームルームからずっと。流石にお昼休みは灰野君と一緒にいたみたいだけど……」
「え? あいつが?」
「そうよ、他の教師にも言いに行ったみたいで。私も長年この仕事したけれど、江波戸君みたいな子は初めてね」
まだゆっくり休んでいいから、と言って保健の先生は用事があるからか保健室を後にした。鈴鹿はまさか創がそんな事を言ったのかと驚いていた、先程の創からはそのような事を一切言わなかったのだ。少しして、扉が空いたかと思うと、創が入ってきて鈴鹿の荷物を渡した。
「琥珀は?」
「琥珀は先に帰ってもらった」
「そっか……」
「……体調悪い時は、俺に言ってもいいよ」
ここまで我慢することないから、と創はそう言った。鈴鹿の様子を見て、自分が一日そばに居たのがバレたな、と苦笑いをする。
「んじゃ、帰るか」
そう笑って鈴鹿を気遣う創だった。