自室にて着替えをしていた理人。ぼぅ、と何も考えずに黙々とズボンを履き、シャツを手に取ろうとした時、なにか物音が聞こえた。音の正体は分かっていた、アイツだなと呆れつつため息を吐く。いつの間にかここの事務所兼自宅の合鍵を持っており、自分の事を『理人様』と呼ぶ相手───九子の顔を思い浮かぶ。
さっさと着替えるか、と思っていたのと同時に、自室の扉が開く音が聞こえた。
「理人様ー! ………!?」
それと同時に何かにあたる音が聞こえた、結構激しい音だったため、理人が思わずばっと振り向くと、九子が壁にもたれかかるように倒れていた。鼻からは鼻血が流れており、壁にぶつかったからか、それとも自分の半裸を見たからなのか、変に頭痛がしてきたため頭を押さえつつ、流石にこのままにしておくにもいかず、理人は優しく九子の体に手を回す。
いわゆるお姫様抱っこ、というものだ。これするの、二回目だななんて思いながら事務所のソファーに寝かせた。寝かせた後、ずっと半裸のままにもいかず、そのまま理人は着替えに戻った。
どのくらい時間が経っただろうか、理人が椅子に座り資料を読んでいると、九子の声が聞こえた。
「あ、あら、私……」
やっと起きたか、と理人は書類を置いた後、ソファーに近づく。
「起きたか、全くお前は……」
「あ! 理人様! 理人様の左半身には八個小さなホクロがあるのね!」
「……」
倒れるまでの短時間でそこまで見たのか? と思いつつ九子と目線を合わせるように、理人はしゃがんだ。
「あのな、ドアを開ける前にノックなり声をかけるなりしろ」
「はぁい!」
語尾にハートが着いているかのような返答を何度も聞く。本当に分かっているのだろうかと思っていると、九子がなにか気づいたかのような表情をする。
「はっ! 理人様の半裸を見てしまったから……これは責任を取って結婚……!」
「犯罪者になりたくねーから、今はいいわ」
「……今……!? 理人様!? それって……!?」
「さーな?」
九子の額にデコピンをして笑う理人だった。