髪 風呂から上がり、髪をタオルで拭きながら着替えるみとら。風呂に入る時、必ずと言っていいほど一緒に住んでいる慈々とも入るため、必然的に慈々も一緒に上がった。髪に含んでいる水分をそこそこに拭き、服に着替える。きちんと髪をドライヤーで乾かす慈々に対し、ポタ、ポタ、と雫がおちる髪をそのままに移動しようとするみとらの服の裾を掴む慈々がいた。
「とら、髪乾かすから待って」
「……」
慈々の言葉に素直に待つみとら。みとらからしたら、髪なんてほっとけば乾くという考えなのだが、一緒に住むようになってから、みとらの髪を乾かすのは慈々の役目といってもいいほどに、きちんと乾かしてくれるのだ。
「とら、座って」
そう言われ、みとらは洗面所を出てすぐに置かれている折りたたみ式の椅子を手に取り、それを組み立てると座った。まずは髪の水分をとるために、慈々は新しいタオルを手に取り、優しく拭き始めた。
「なんでちゃんと乾かさないの、風邪ひくよ」
「引いたことないから大丈夫」
「そういうと風邪ひくよ」
あらかた拭いたのか、慈々はドライヤーを手にするとスイッチを入れる。大きな音と共に、温風がみとらに当たった。慈々の乾かし方が上手いのか、毎回気持ちよくて眠気が襲ってくるのだ。少しあくびをして、うつら、うつらと眠たそうな顔をするみとらの顔が鏡に映っているからか、慈々は少し笑う。
「子供みたいだね、とら」
「んー……そうか?」
「人前じゃ絶対に見せない顔だね」
「見せる気ないからな」
それにしても、慈々は乾かすのが上手い、とみとらは目を閉じる。それにしても、毎回のように自分の髪に触れる慈々の手つきが優しいのだ。みとらはずっと思っていたことを聞いてみようか、と思い口を開く。ドライヤーを使っているため、普段より声を大きめにして。
「慈々は俺の髪、好きなのか」
「好きだよ」
「初耳だな」
「俺と真逆の色だから」
その後に、だからなんで髪をすぐに乾かさないのか、って言い始める。なんでと言われても、とみとらは思いつつ、なら、と口を開く。
「これからも髪を伸ばし続ける」
「それは自由だけど、ちゃんと手入れしてよ……」
「慈々が触ってくれるなら、慈々がしてほしい、手入れ」
「とら……。そう思うなら尚更ちゃんと髪の毛乾かして」
元々、髪を伸ばしていた理由は、初めての任務で片目を怪我したあの日から、自分がこれからも無事で居られるように、という願掛けの意味合いで今日まで伸ばしてきた。なら、理由は増えたって構わない。
「慈々から乾かしてもらうのが好きだから、俺は」
そう言って笑った。