こんな朝の風景 朝、スマートフォンのアラームを止め、れいとが学校に行くために起きる。れいとはただの学生ではなく、学生ながらアイドルをしていた。伊夕星堂、れいとがリーダーを務めて所属しているグループの名前だ。自分がリーダーなんて、と思うが、まぁ何とかやれている、と信じたかった。
そんな時、ふと、メッセージアプリに連絡が来ていた。相手はその同じグループメンバーの夕貴からだった。内容は昨日話した通り、何時に行こうとの内容だった。そう、昨日、三人とも朝から仕事が入ってなかったため、一緒に登校しようと話をしていたのだ。その後、同じグループメンバーである星哉も起こさないといけないよな、との返信がきた。
「あー、星哉くんなぁ」
起きるかな、とれいとは考えた後にとりあえず星哉に連絡するために電話をかけた。何度か聞こえる発信音の後、留守番電話でよく聞く音声が流れて思わず苦笑いをする。
星哉が起きないのはれいとも夕貴もよく知っていた。いつかの頃、伊夕星堂で泊まりのロケに行ったことがあるのだが、けたたましいアラーム音の中でも、星哉が起きなかったのは、れいとと夕貴の間では有名になった。
起きなかった、と夕貴にメッセージを送ると、相手も電話をしたらしく、やはり出なかったと返信が送られた。一緒に行こうと約束までしていたけれど、と思いつつもう一回学校行く前に連絡をしようか、とお互い話が着いた。メッセージを送り終わった後、れいとは顔を洗いに行くために洗面所へと歩いていった。
準備が終わって、小さく行ってきますと声をかけた後に玄関の扉を開けると、ほぼ同時に隣の玄関が開いた音が聞こえた。その開けた相手は夕貴だった。伊夕星堂は三人とも、同じアパートで同じ階に住んでいるのだ。
「夕貴くんおはよ」
「はよー、あの後連絡したけどやっぱ出ねーわ」
「だよねぇ……」
はは、とれいとは笑いつつ星哉の扉をちらりと見る。れいとと夕貴は星哉の部屋の合鍵をお互いに持っている。因みに、星哉は二人の部屋の合鍵は持っていない。何故? と言われてしまうと、何故だろうか。
「どうする?」
「今まで起きた試しないし、もう行くか」
「だねー」
星哉の事なので遅刻はしないだろう、との判断で二人はそのまま学校に行った。通学路を歩きながら今日の練習は、や小テストの勉強忘れた、など他愛もない話をする。そして学校につき、教室に入って夕貴と話していた数十分後、勢いよく教室の扉が開いた。そこには少しだけ息を切らしている星哉がおり、ズカズカとれいとと夕貴に近寄る。
「なんで起こしてくれねぇの!? 今日は一緒に行こうつったべや!」
どうやら自分が置いていかれたことに怒っている様だった。二人が行った数十分でよく準備できたものだ、と思わず感心してしまうほどに。そんな星哉の発言に即座に返したのは夕貴だった。
「起こした起こした! 着歴みたんかお前!」
「僕も起こしたよ?」
朝だけで相当星哉に着信したのだ、溜まっているはずなのだが、そんな二人の言葉に星哉は首を振る。
「足りない! もっと一生懸命起こして俺を!」
「さてはまだ眠いな?」
「ふっ……」
夕貴の返しに思わず吹き出したれいと。一生懸命起こしたつもりなのだが、と笑いが止まらない。周りもいつもの伊夕星堂の会話か、と慣れている様子だった。
「星哉くんご飯食べたの? おにぎりあるよ」
「食う」
鞄の中からおにぎりを二個渡す。家を出る前に握ったのだ。食べなかったら自分が食べようと思っていたのだが、食べるならと星哉に渡す。ラップからおにぎりを出す星哉をみて、れいとが慌てて言う。
「星哉くん、ラップ使いなよ。零れるよ?」
「大丈夫」
「この前それでこぼしたでしょーが」
「大丈夫。もう零さない」
夕貴も呆れて言ったのだが、大丈夫、と一点張りの星哉。あまり固めに握っていないため、れいとからしたらラップに包んだまま食べて欲しかったのだが、そう言っている間におにぎりが少しずつ崩れ、米粒が落ちた。
「あ、やべっ」
「あー」
「ほらもー」
二人がだから言ったのに、と反応する横で慌てておにぎりを口に含む星哉。
「明日は一緒に行こうね」
「一生懸命起こしてな」
「もう俺らが明日泊まるか?」
そんな会話をしながら、今日も一日が始まった。