クリスマスと指輪 世間話クリスマス、街中を歩くと街路樹に飾られたイルミネーションが綺麗に光っていた。そこを歩くのはほぼ恋人のため、歩くのがどこか気まずい。そんな中、琥珀は家にいた。というのも、本当ならクリスマスはディナーをしないかと話になっていたのだが、既の所鈴鹿の方に突然仕事が舞い込んだのだ。それがクリスマス終わるか終わらないかだったため、謝る鈴鹿に対し、なら家でゆっくりしよう、と琥珀が提案したのだ。そしてクリスマス当日、朝早くから鈴鹿が琥珀に連絡をしてきた。電話口からは申し訳無さそうな声を出していた。
「ご馳走作って待つから」
「ごめん琥珀……」
「……二人でゆっくり出来るの、嬉しいなって思ってるんだ」
「爆速で終わらせる」
鈴鹿の言葉に笑ってしまったが、仕事で疲れている鈴鹿を迎えるために頑張ろうと微笑む。そうして夜、鈴鹿に渡すプレゼントも用意しており、料理もできている。
先程連絡がきて、鈴鹿ももうすぐ帰ってくるとの事。鈴鹿と恋人という関係になって迎える初めてのクリスマスだ、年甲斐もなく沢山料理も作ってしまったし、プレゼントも用意した。鈴鹿に贈るプレゼントは、綺麗なヘアピンとヘアゴムだ。普段から使えるものかいいだろう、と考えたのだが、高価な物の方が良かっただろうか、と綺麗にラッピングされている袋を見てそう思っていると、扉の開く音が聞こえた。
鈴鹿だ、と琥珀は玄関まで行き出迎える。そこには少し息を切らしている鈴鹿がおり、靴を脱いでいた。
「おかえり、仕事お疲れ様」
「ただいま……疲れた……。いい匂いする」
「料理できてるから、俺は酒飲めないけど鈴鹿にはシャンパンも用意したし……」
そう言って鈴鹿と一緒に部屋に入る、テーブルの上に並べられた料理を見てすげぇ、と呟く鈴鹿の声を聞いて思わず笑ってしまった。なら食べる準備を、と琥珀が動こうとすると、鈴鹿が咄嗟に琥珀の腕を掴んだ。
「? 鈴鹿?」
「……琥珀、左手、だして」
「……? わかった」
なんだろうか、と琥珀は左手を鈴鹿に差し出した。すると、いつの間にか鈴鹿の手には小さな紙袋が握られており、その紙袋から小さな箱を取り出した。琥珀はその箱がなんの箱かすぐに分かった。指輪を入れることの出来る指輪だ、と。琥珀は突然の事で言葉が出なかったが、鈴鹿が優しく琥珀の手を握ると、そっと薬指に指輪を通した。
「鈴鹿、え、これ……」
「……婚約指輪……。前から頼んでて、早く渡したくて走って帰った。……琥珀、婚約指輪だけどさ、結婚指輪、絶対渡すから」
「……鈴鹿……」
勝手に涙が溢れてきたようで、琥珀は顔を手で覆った。色んな感情が込み上げてきた、本当に自分がこれを受け取っていいのか、どうしても自分を卑下してしまう。でも、この涙の名前を琥珀は知っている。
「……嬉しい……凄く嬉しい、幸せ……」
「……えと、琥珀……謝らないといけないことがたった今できた……」
「……?」
「……サイズ、間違えた……」
サイズ? と琥珀は改めて薬指を見る。すると、確かに少しサイズが大きかった。貰ったことが嬉しくて気づかなかったが、そういえばサイズを測ったのだろうか、と鈴鹿に聞く。
「そういえばいつの間にサイズ……」
「……琥珀が寝てる間に……あと手を握った時の感覚というか……」
「……っ、ははっ」
自分が寝てる間に手を握ったりした鈴鹿をイメージしてしまい、思わず笑った。鈴鹿はというと、サイズを間違えたことによってどこか申し訳なさそうにしていた。
「チェーンに通せばいいだろ? すごく嬉しいよ、指輪」
「……琥珀がそう言うなら」
「ペンダントなら、俺の心ごと鈴鹿に渡してるようで好きだし」
「……琥珀ほんとそういう所……」
鈴鹿が何故か手で顔を覆ったため、なんだろうかと首を傾げつつ、琥珀は嵌められた指輪を見てそっとキスをした。