飴と愛と バレンタイン、二月に入った頃から、街中の至る所でバレンタインに関連する商品や催しがされており、テレビでもチョコレートの特集が増えていた。琥珀はテレビでそれらをみながら、丁度去年のバレンタインを思い出していた。去年、ずっと友達だと思っていた御手洗 鈴鹿からチョコレートを渡された日。本命だから、と言った彼の表情は嘘をついてるようには見えず、まさか自分のことをそういった風に思ってるとは知らず、彼に返事をするまで、相当悩んだものだ。結果、琥珀と鈴鹿は付き合うようになり、もう一年が経過する。
懐かしいな、と琥珀は笑って、綺麗にラッピングをした箱が入っている紙袋を手に取る。今日一日、鈴鹿と過ごす約束をしているのだ。その時に渡そうと思い、前の日から作った"あるもの"がこの箱の中に入っている。そろそろ時間だ、と琥珀は戸締りをしてから外へ出る。
鈴鹿の家へ着くと、暖かい空気が琥珀を撫でる。外が寒かったため、この暖かさにほっとするのだ。
「コーヒーいれるから」
そう言って鈴鹿はマグカップにコーヒーをいれて、琥珀に渡す。そして鈴鹿も飲み物を手にすると、琥珀の隣に座った。
「鈴鹿、これ」
琥珀が紙袋を鈴鹿に渡すと、鈴鹿も用意していたのか、紙袋を取り出して琥珀に渡す。
「琥珀、俺からも」
「なら一緒に見よう」
琥珀はなんだろうか、と中身をみて開けると、中には綺麗な青色をしたマカロンと、瓶にいれられた宝石のような飴が沢山入っていた。一方、鈴鹿のほうも中身を見て嬉しそうに笑っていた。
「綺麗……鈴鹿いいのか……?」
「いいよ。琥珀もマカロン選んでたんだな、手作りだろ? すげーうれしい」
そう、琥珀も鈴鹿と同じくマカロンを渡していた。去年のホワイトデーの時、手作りのマカロンを作って、鈴鹿の返事とともに渡した思い出深いマカロンだった。それにしても、鈴鹿もマカロンを選んでいたとは思っていなかった。
「味が合えばいいけど」
「琥珀の手料理で不味かったの一度もないから」
そう笑って食べる鈴鹿。琥珀も青色のマカロンを口に含んだ。食べてすぐブルーベリーの味と風味が口の中で広がっていく。ザラメが生地の表面に散りばめられているからか、それもまたいいアクセントになっていた。
「凄く美味しい……。なぁ、本当に俺の作ったマカロンでよかったのか……?」
正直、自分の作ったものより美味しさが断然に違うのを感じ取ってしまい、琥珀は少し申し訳なさそうに鈴鹿に聞く。鈴鹿はというと、少しムッとした顔をして琥珀の額を軽く突く。
「馬鹿、恋人が作ったものが一番美味いに決まってるだろ」
「……う、うん……」
鈴鹿の言葉に予想以上に照れてしまった琥珀は、照れを隠すために今度は飴を食べることにした。瓶の蓋を開けると、ふんわりと鼻に入る甘い香り。一粒手に取って見たが、何度見てもキラキラと輝いて見え、やはり宝石のように見える。口に含むと、甘い苺の味がした。
「美味しい」
「その飴、知り合いの飴屋の飴なんだ。琥珀気に入るかなって」
「凄く美味しい、あ、味のやつこの紙に書いてるんだな」
箱の中に入っていた小さな紙を取り出し、飴の味を確認する。コロコロ、と飴を舐めながらみていると、ふと鈴鹿がトントン、と琥珀の肩を軽く叩く。
「……? 鈴鹿なに?」
琥珀が振り向くと、そこには真面目そうな表情をする鈴鹿がおり、そして優しく触れるようにキスをする。そして、ぬるり、と舌が入り込んできた。
「んっ……」
何度もしてきたからか、耳に入る水音と鼻に入る鈴鹿の匂い、それだけで力が抜けそうになっていた。琥珀が舐めていた飴ごと、鈴鹿は琥珀の舌と絡めるように甘いキスをする。
そして、名残惜しそうに鈴鹿が離れる。口を離した時、透明な糸がスゥ、と伸びて消え、いつの間にか琥珀が舐めていた飴は鈴鹿がくわえていた。
「鈴鹿……その、キスするなら飴舐めきってから……」
「ごめん、したくなって……」
「……いいよ、怒ってないから」
琥珀は少し微笑んでから、鈴鹿に触れるだけのキスをして、そのあと飴の入った瓶を見る。
「……鈴鹿、飴の意味知って渡してたのか?」
「まぁ、うん」
「……そっか」
琥珀は笑って鈴鹿の顔を見る。飴を渡す時の意味は『貴方が好き』『貴方と長く一緒にいたい』とよく聞いていた。琥珀はもう一つの意味を思い出していた。飴は口の中で味が長く残る。それゆえ『愛が続く』という前向きなイメージがある。
鈴鹿との愛がこれからも続くのだろうな、と琥珀は嬉しそうに笑い、飴を眺めていた。