お祝いのケーキ「レイフってほんとお菓子づくりだけは上手いよな」
「料理も練習してます、ちゃんと」
「あれで……?」
ここはレイフが住んでいる家。カウンターキッチンにてケーキの生地を混ぜているレイフを眺めているダミア。レイフは、料理の腕は壊滅的なのだが、何故かお菓子作りだけはプロ並みに出来ていた。とある意見では、きちんと測るからこそ作れるのでは、と言われていたが、それはそれでなぜ料理が出来ないのか不明である。
なぜ、レイフがケーキを作っているのか。それはもうすぐダミアの誕生日だったからだ。誕生日当日は、色んな知り合いからお祝いされるのを考慮して、少し早めに祝わせてほしい、とレイフが頼み、今に至る。
ケーキ一つ作るのにも気を使うところがあるのだ。それは分量を測るのではなく、獣人だからこその問題。食べられる食材と、食べてはいけない食材がある事だ。
ケーキだけではなく、お菓子によく使われるアルコールも、チョコレートも、干しぶどう、ケーキにホイップクリームを塗る前にぬるシロップも食べてはいけない種族がある。ダミアの種族を考えるに、これらを使わない方がいいだろう、とレイフは考えてレシピを探していたりした。
「なんか普通に店で買える食材で作れるんだな」
「気をつければ揃えるのは簡単なんですよ」
ダミアが興味深そうにシュガーベリーを手にする。シュガーベリーは春先によく売られている、小粒の赤い果物だ。名前とは裏腹に、そのまま食べると酸味が強いのだが、少し熱を加えると、酸味が消えて甘みが強くなる。よくジャムとして使われている果物なのだが、ケーキのデコレーションとして使う時もあるのだ。その場合、ケーキを甘めに作ると丁度よく食べれる。
「なんか……変わったケーキ作ろうとしてるのか?」
ダミアがレイフの買ってきた材料をみて言った。シュガーベリーにホイップクリーム、ケーキの生地の色を見て首を傾げていた。白と赤しかないような気がするのだ。もう少し、色んなフルーツなり、ホイップクリームなりつかうのかと思っていたのだろう、ダミアの疑問に笑って答えるレイフ。
「俺は食べたことないんですけど、とある地方ではスポンジ生地にホイップクリーム、そしてシュガーベリーで作られたケーキがあるって。俺らが知ってるケーキはカラフルですけど、そのケーキは白を基調としてるんですよ、その地方で作られたオリジナルのケーキって訳です」
「へー。文化が入って、その地方なりにアレンジしたのかな」
「興味深かったのでレシピ探して作ってみようって」
オーブンに入れて生地を焼いている間に、シュガーベリーを切っていく。そして、ホイップクリームを泡立てているのを眺めていたダミアは呟く。
「……ほんと、その手際の良さを料理にでもいかせたらな……」
「何か言いましたか」
「別にー」
レイフの冷たい目線から逸らしたダミア。生地が焼け、その生地を冷やしてからデコレーションに取り掛かった。生地を切り、ホイップクリームを塗ってからベリーをのせ、またホイップクリームをのせてから生地をのせ、周りにもホイップクリームを塗っていく。絞り袋で緻密にクリームを絞っているのを見て、本当になぜ料理ではあれほどまでに壊滅的になるのか、考えたが最後まで分からなかったダミア。
「出来ました」
「おー、シンプルって感じのケーキだな! ほんとに俺らの知ってるケーキとはまた違う感じだな。シンプルで美味そー」
綺麗にデコレーションされたケーキを前に、嬉しそうに笑うダミア。材料も、ダミアが食べても大丈夫なものしか使っていない。だが、材料の原産地に拘った結果、材料費が跳ね上がっているが、それを忘れるほどにダミアの反応が嬉しく、レイフは笑っていた。