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    sgmy_koko

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    べったーに置いてたやつです。構想は考えてるのでやる気になったら続くかもしれない。

    『VOY@ GER』と「タイムトラベルSF映画」が脳内でフュージョンした産物です。雨彦+クリスですが雨彦のクリスに対する執着がとても強いです注意 2021-07-26

    無題 2年前、古論を乗せた宇宙探査機「マリナー12号」は皆の夢と希望を乗せて地球を飛び立った。画面越しに見た男は、重要任務への責任感と未知なる世界への期待が混じりあった、立派な笑顔で搭乗前インタビューに答えていた。
     1年前、マリナー計画司令部は探査機の様子がおかしいことに気づいた。送られてくる観測データにノイズが入り始め、一度地球に引き換えさせる意見も出た。しかし古論によると探査機に異常は全く見られず、本人の強い希望もあり計画は続行された。
     半年前、マリナーからの通信が途絶えた。


    「座標を入力したら最後に日付を設定して、あとはこのパネルのスイッチを全部入れる。それで準備完了、そこの赤いレバーを引けば移動開始。わかった?」
    「ああ、大体把握した。何かしら故障が起きないことを祈るばかりだ」
    「開発者の前でそれ言う? ……くずのはさあ」
     本気であの計画を阻止するつもり?と、雑に髪を束ねた男が顔を覗き込んでくる。彼もよく髪を後ろで纏めていたなと思いながら、白衣を着たその肩を軽く叩いた。
    「心配しなさんな。ヘマやらかしてマシンが銃痕だらけになるかもしれないが、最低限形をとどめた状態で返すさ」
    「それはそれで嫌だよ。この子にいくらつぎ込んだと思ってんの、一応最先端技術の結晶なのよ? 世の中には内緒だけど」
    「わかってるさ。こいつの存在が知れ渡ると不都合な歴史や事件を改竄しようとする奴が出てくるからな、例えば俺みたいな」
    「そうそう、お前みたいな『誰も策を講じようとしないから自分一人で過去に戻り計画自体を潰すのでマシンを貸せ』なんて押しかけてくる奴が出てくるからね」
     深いため息を吐き出しながら、山下はキャスター付きの椅子を軋ませて伸びをする。前金代わりの缶コーヒーを渡すと、「おっ約束通りの品だね、はあー……これこれ……」なんて言いながら暖かいそれを目に当てた。下に覗く目元はいつもより隈が濃い。徹夜続きで最終調整をしてくれたのだと思うと、有難いと同時に申し訳なくなった。電話口の自分の声は、そんなに切羽詰まって聞こえたのだろうか。
    「……今どこにいるんだろうねえ」
     山下がポツリと呟いた。半年前の事は様々な要因から機密事項とされ、計画の中断は機関の人間しか知らない。だが隠しきれる内容でもないため、彼のような関連事業の者達にも噂が広まり始めていた。詳細を話した時も、山下はさして驚くことも無く、一言「本当だったんだ」とこぼしただけだった。
    「最後の通信は備品カプセルを受け取ったという報告だった。航行自体が順調なら、今もカプセルを送り続けている先の予測地点にいるはずさ」
     言い聞かせるように、言霊となるように。山下はただこちらの表情を伺うだけで、何も言わなかった。
    「……まあ上手くいけばそんな心配も杞憂になる。マリナー計画は頓挫し、あいつは宙を夢見る地球人のままだ」
     微妙な顔をした山下は、それには触れずに計画を再確認し始めた。
    「ころんが飛び立つ日の1年前に戻り自分自身の協力を得て、内側から計画を中断させる。目的を果たしたらこれに乗って、おそらくマシンがまだ完成していない世界の現在に戻ってくる。で、そっちの俺に事情を説明してマシンが完成したことにする、だよね。俺納得するかなあ」
    「無理そうなら夢だとでも思い込んでもらって、完成品は俺が処分する」
    「おじさんのこれまでの努力が……。あーあ、矛盾が起きてくずのはが消えたりするのはごめんだよ? 存在しなくなっても、こっちは気付かないんだから」
    「まあ最善は尽くすさ」
     何もしなければ、まさに存在を消されようとしている男がいるのだ。狭い座席に潜り込み、教えられた順に起動させていく。
    「じゃあ、頑張ってね。何も知らない俺が出迎えることを祈ってるよ」
    ふにゃっと笑って、山下は入口を閉めた。真っ暗な中、メーターやスイッチがあちこちで光っている。宇宙に放り出されたようだと思った。


    『雨彦! 私、今度の探査計画でパイロットに選ばれました!』
    『……それはおめでとうさん。ずっと行きたがってたしな、熱意が通じたってもんだ』
    『ええ、しかも夢にまで見たマリナー計画です。何処まで行けるか、今から楽しみで仕方ありません!』
    『地球に帰って来れないかもしれない計画だろう? 今更だが、本当にいいのかい』
    『確かにあまり遠くまで行くと帰還が困難になります。しかし危険を冒してもこの挑戦には価値があり、また私ほどの適任者もいないと自負しています。それに』

    『私は必ず貴方たちの許へ帰るつもりです』


     衝撃で長い間気を失っていたのだろう。目を開いても電源が落ちたのか真っ暗だった。手探りでドアロックを解除し外に出ると、まず潮の香りが、遅れて風に吹かれた草叢の青い匂いが鼻腔をくすぐる。広がる星空の下、少し離れた所に見慣れた研究施設が見えた。予定通りの場所に上手くやって来たようだ。
     日時を確認する術は無いので、とりあえずマシンを人目につかぬよう近くの木立へ隠した。何も無いこの草原に人が来ることは自分を除いて滅多に無い。星がよく見えるため頻繁に一人でここを訪れていたが、誰かに遭遇することは今まで無かった。
     ところが、自宅に向かおうと歩き出してすぐ、施設までの丁度中間あたりに小さく人影が見えた。海の方を眺めているらしいその人物はこちらに気付くことなくじっと立っている。再び風が吹いて、彼の長い髪が舞った。
     顔を見たい、声を聞きたいと衝動に駆られて走りかけた自分に驚いた。そんなにもただの仕事仲間である彼を恋しがっていた事実にも衝撃を受けた。今会えばうっかり余計なことを口走ってしまいそうで、振り向いてくれるな、気付いてくれるなと祈る。
     長身の影はまるで何か啓示を受けたかのように、くるりと振り返り、そして俺を見つけた。暗くて表情は分からないが、すぐにこちらへ向かって駆け出す。
    「雨彦!」
     たった2年空白があっただけだというのに、名を呼ばれて熱いものが込み上げた。よく通る声が「会えて嬉しい」という気持ちを真っ直ぐに伝えてくる。昼間共に仕事をしていたにも関わらずまるで久々に再会したかのような態度に、思わず笑みがこぼれた。
    「雨彦、こんな所で会えるとは思いませんでした。ここは星が綺麗に見えますね! 私は海を見に来たのですが、貴方はもしかして星を見に来たのですか?」
    「……ああ、前からよくふらりとな。普段データの宇宙ばかり見てると、たまにこうして本物に触れたくなる」
    「確かに。私も普段グラフや衛星画像ばかり見ているので、こうして夜空を眺めると初心に帰れる気がします」
     そう言うと古論はゆるりと空を見上げ、そのまま黙ってしまった。同じように首を傾けて、草木のそよぎと遠くの波音に耳を澄ませる。夜空自体はぼんやり眺めるだけにとどめておいた。星々を好みはするものの、正直彼と再会できた今ばかりは宇宙について考えたくない。
     ところが、その星空に違和感を覚えた。見えている星の位置と知識を照らし合わせて、すぐにその原因に思い至る。
    「古論。ちょっと訊きたいんだが、今日は何月何日だった?」
    「月からですか? 今日は……」
     まずいことになった。どうやらマシンの日付設定がどこかで狂ったらしい。打ち上げ予定日まで、あと1ヶ月しかなかった。


    『……もしもし、山下さんですか』
    「んー……ああころん? 悪いけどめちゃくちゃ眠いからもう数時間あとにしてくれない……? 時差ってもんが……」
    『ええ、そちらが深夜だということはわかっています。しかし緊急事態なのです』
    「緊急って……うんまあ、話は聞くけど……何……?」
    『今すぐ、こちらへ帰ってきてほしいのです』
    「は? えと、え? 今すぐ?」
    『今すぐです。確証は無いのですが、おそらく一刻を争う事態です』
    「全然話が見えないけど……」
    『見ていただきたいものがあるのです。私の予想が正しければ、これは山下さんに関わる物です。今の時間なら〇〇空港から便が出ていますので、‪△△を経由すれば5時間で帰ってこられます。ああもちろん交通費は後でお支払いしますのでまず』
    「ちょ、ちょっと待って。まだ行くって言ってないし、どんな事態で何の物なのか全くわからないよ」
    『雨彦が!』
    「くずのは?」
    『雨彦を、助けなければいけないのです』
    「助ける? なんかやばいことでもしたの?」


    『山下さん。タイムトラベルについて、何かご存知でしょう?』

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