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    testudosum

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    testudosum

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    十年後、普通に付き合ってるジャミカリ①
    Twitterに同じものを上げていますが、自分が読み返しやすいようここにも投げます。

    ペンを立てた。これで終わりだ。
     くん、と背伸びをして窓の外を見ると、とっくのとうに日は沈んでいる。いつから仕事してたんだっけ。思い出せないが、現在の時間はわかる。午後十時、そろそろ寝支度を整えなければならない。今日はもう疲れたのだ。ぱきぽきと鳴る背骨の感触を感じながら、カリムはひょいと椅子から立ち上がろうとした。
    「待て。その前にこれを飲め」
    「んえ?」
     そんな声と共に横から差し出されたカップが机の上に置かれる。二つ。温かそうな紅茶だった。
    「……え? ジャミル? いつ入ってきたんだ?」
    「ついさっきだよ。ちゃんとノックもしたし、声も掛けたぞ」
    「本当か? 気付かなかった……」
     またやってしまったらしい。カリムはひっそり息を吐いた。昔なら見ているだけで瞼が降りてしまっていたような細かい字の書類にこれだけ集中できるようになったのは年月の賜物である。しかしそれと同時に、集中しすぎて周りが見えなくなるという弊害ももたらされたのは、思わぬ誤算である。いつの頃だっただろう、ジャミルが一人執務室に籠るカリムに声を掛けても応えのなくなった日から、ジャミルはこうして、仕事が終わる頃を見計らって勝手にカリムの部屋に入ってはことりと紅茶を置いていくようになった。カリムにはそれが少し寂しい。当主としてのカリムを尊重してくれているのはわかるが、以前ならジャミルの言葉を聞き逃すことなんてなかっただろうに。ジャミルに気付かない自分にも、そんな自分に何も言わないジャミルにも、じわりと滲む苦い果汁のようなものを感じるのだ。
    「うん、今日も美味そうだ。ありがとうジャミル」
     カリムは紅茶を啜った。ジャミルももう一つのカップを手に取って同じように自分の淹れた茶を味わっている。行儀のよくない立ち飲みだが、この場にはカリムとジャミルしかいないので問題ない。
    ジャミルが甘さを控えて香りを立たせる淹れ方をするようになったのは二年ほど前からのことだ。鼻に抜ける格式高い香りのあとに残るほろ苦さを、カリムが美味しいと感じるようになったのも同じころのこと。それが本来のジャミルの嗜好であるのに気付いたのも、同じころだ。何せこうしてカリムの仕事終わりに二人で紅茶を飲むのが毎日の習慣になってしまったので、給仕たるジャミルの趣味が味に反映されるのは当然のことだった。それに感化されて、カリムの嗜好も変化してきている。カリムは舌で味わうジャミルの心を気に入っているのだから、それに不満があろうはずもない。それでいい。
    「ところで」
     しばらくして、ジャミルがそう言葉を切り出した。
    「最近忙しかったのはもう片付いたのか?」
    「ああ、うん。今日やっと一段落ついた。明日は普通に休めると思うぜ」
    「ふぅん」
     こんな時間まで仕事をしているのは、いくら多忙なアジーム家当主といっても普通のことではない。少し大きな企画の音頭を取らなければいけなくなったので、ここ一週間だけ特別にやるべきことが多かっただけだ。このお茶会の時間も、普段はもっと早い。扉の向こうで生活している他の家族がもっと賑やかな音を立てているのを聞きながら、その日あったことを話すのがいつもの二人だった。最近は夜も深い時間であるし、カリムも一日中仕事で疲れているから、あまり会話もなかったが。
     それも今日で終わりだ。ここ最近休みなく働いていたので、明日は一日休むつもりでいた。もとよりこの家で今一番偉いのはカリムなので、その予定も自分で決められる。ようやっと喫緊で必要なことは終わったので、カリムは連日のお仕事地獄から解放されたのだった。
     カリムの返答にジャミルは気のない返事を返した。その目がゆっくり細められる。これは多分喜んでるんだろうなとカリムは思った。カリムが忙しくなってから、二人だけで過ごすことができたのはこの夜のお茶会の時間だけだった。二十七になって、お互いの仕事や立場に対して責任が増え、それが重石となったかのように行動が落ち着いてきた二人だが、それでも若い恋人である。たまには学生の頃のように、衝動に身を任せて遊んでみたいのだろう。少なくともカリムにはそういう瞬間がある。ナイトレイブンカレッジにいた頃のような十代の後半には、今のようにお互いを恋人とする余裕はなかったが、代わりに自分の感情にどこまでも素直に飛び乗っていける不思議な万能感があった。あの頃に戻りたいとは思わないが、たまにはその無鉄砲さが恋しい。ジャミルだって、そうなのだろう。
     しかしジャミルは、カリムの右手に手を伸ばした。正確には、そこから生える指の一本、銀色に輝く薬指を、長い中指と人差し指で撫でつけた。つい、と根元から先までを滑る指は、そのでこぼこした表面に僅かに引っかかって、カリムに反動を伝える。え、とカリムは思わず声を上げた。
    「ジャミル」
    「それは、よかったな」
    「ジャミル」
     カリムの呼び声に返事をせずに、ジャミルは今度はその指を往復する人差し指の腹で繰り返し擦った。すり、すり、とジャミルの皮膚が、その下にある銀の蛇をなぞる。その動きを、その意味を、カリムは知っている。カリムだけは知っている。
    「カリム」
    「え、と……」
    「明日、休むんだよな?」
    「はい……」
    数年前失われたその指の後釜に座ったのは、ぐるりと蛇の巻き付いた銀の義指だった。デザインも加工も、取りつけるのだって全部自身で行ったその指をジャミルがこんな風に触る意味なんて一つしかないのだ。カリムは顔に熱が集まっていくのを感じた。あの頃から随分大人になったと思ったが、自分はまだまだお子様らしい。
    ジャミルがふと笑って、カリムの右手を取った。そのまま口元までそれを持っていき、冷たい金属の指に唇を付ける。
    「あとで、たっぷりな」
     口元だけを吊り上げた皮肉気な笑みは見慣れたものだったのだけれど、その中身の変わりようには、カリムはひれ伏して身を捧げるしかないのだった。
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    testudosum

    DONEアズフロ。アズとジェが不穏。
    自分で思っているより性的な視線に嫌悪感を持っていたフロイドと、借りはきっちり返すアズールの話。モブがひどい目に遭ってる。
    「これは、あなたの怠慢のせいでもあると思いませんか?」

     歯。たくさんの、瓶詰めの歯。ジャムの瓶いっぱいにぎっしりと詰まっている、大きさも形も様々の歯。それがことりとデスクの上に置かれるまで、アズールはじっと見ていた。向かいに立つ男が、懐から瓶を取り出し、その底をデスクにしっかり付けて、手袋をした手が離れていくまで。
    「ねえアズール。フロイドは僕のフロイドですけれど、今はあなたのフロイドでもあるので」
     にこりとジェイドが笑う。今しがた瓶を取り出した彼は、いつも通り服装に一切の乱れもない。しかしその背後には普段あまり見ないものがあった。そんなに何を詰めるのかと言いたくなるような大きなスーツケース。それが三つ、無骨な台車に乗せられていた。どんな大家族でもそれを持って旅行には行かないだろう。本当に、何が入っているのか。
     アズールはそれを知っている。
    「ふふ、だんまりですか」
     椅子に腰かけたアズールの顎に手をかけて、ジェイドが上向かせる。金の左目が部屋の明かりを背にして輝いていた。普段は弧を描いている唇は今は横一文字に引き結ばれている。それなのに声だけは笑っているので、顔が見えなければ 5111

    testudosum

    DOODLEいずれアズイドに至る双子の会話文。現状成立しているのはアズフロだけですが、ジェの様子がおかしいです。
    2021/1/4 ポイピクアカウント迷子により上げなおしました。
    「アズールに殺されてフロイドに食べられたいです」
    「いらね~」
    「おやそんなこと言わずに。僕大きいんでたくさん食べられますよ」
    「そういうことじゃないんだよ。終わってる倫理観と死生観に同時に巻き込もうとするなって言ってんの」
    「失礼な。僕はただ幸せな人生設計のお話をしただけなのに」
    「そこから何が始まるんだよ。人生終わるとこから始まる人生設計ってなんだよ」
    「だってそこが一番大事なんです。そこ以外は極端な話どうでもいいので」
    「設計じゃねーじゃん。何も設計できてねーじゃん」
    「人生何があろうとも最期にはアズールに殺されてフロイドに食べられたい」
    「人生のこと一本道のRPGだと思ってる?」
    「多少……」
    「思ってるのかよ。そして多少なのかよ」
    「一割くらいフロイドとアズールの幸せ結婚生活を応援するシミュレーションRPGだと思ってます」
    「残りは?」
    「理想のフロイドとアズールを作る育成ゲームです」
    「ねえー! そういう性癖はせめて自分の胸の中にしまっててくんないー!?」
    「そんなに寂しいことを言わないでフロイド。僕たちなんでも言い合える兄弟じゃないですか」
    「その兄弟に自分の屍肉食わせよ 2691

    testudosum

    DOODLE十年後、普通に付き合ってるジャミカリ①
    Twitterに同じものを上げていますが、自分が読み返しやすいようここにも投げます。
    ペンを立てた。これで終わりだ。
     くん、と背伸びをして窓の外を見ると、とっくのとうに日は沈んでいる。いつから仕事してたんだっけ。思い出せないが、現在の時間はわかる。午後十時、そろそろ寝支度を整えなければならない。今日はもう疲れたのだ。ぱきぽきと鳴る背骨の感触を感じながら、カリムはひょいと椅子から立ち上がろうとした。
    「待て。その前にこれを飲め」
    「んえ?」
     そんな声と共に横から差し出されたカップが机の上に置かれる。二つ。温かそうな紅茶だった。
    「……え? ジャミル? いつ入ってきたんだ?」
    「ついさっきだよ。ちゃんとノックもしたし、声も掛けたぞ」
    「本当か? 気付かなかった……」
     またやってしまったらしい。カリムはひっそり息を吐いた。昔なら見ているだけで瞼が降りてしまっていたような細かい字の書類にこれだけ集中できるようになったのは年月の賜物である。しかしそれと同時に、集中しすぎて周りが見えなくなるという弊害ももたらされたのは、思わぬ誤算である。いつの頃だっただろう、ジャミルが一人執務室に籠るカリムに声を掛けても応えのなくなった日から、ジャミルはこうして、仕事が終わる頃を見計らって勝 2439