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    testudosum

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    アズフロ。アズとジェが不穏。
    自分で思っているより性的な視線に嫌悪感を持っていたフロイドと、借りはきっちり返すアズールの話。モブがひどい目に遭ってる。

    #アズフロ
    asphalt

    「これは、あなたの怠慢のせいでもあると思いませんか?」

     歯。たくさんの、瓶詰めの歯。ジャムの瓶いっぱいにぎっしりと詰まっている、大きさも形も様々の歯。それがことりとデスクの上に置かれるまで、アズールはじっと見ていた。向かいに立つ男が、懐から瓶を取り出し、その底をデスクにしっかり付けて、手袋をした手が離れていくまで。
    「ねえアズール。フロイドは僕のフロイドですけれど、今はあなたのフロイドでもあるので」
     にこりとジェイドが笑う。今しがた瓶を取り出した彼は、いつも通り服装に一切の乱れもない。しかしその背後には普段あまり見ないものがあった。そんなに何を詰めるのかと言いたくなるような大きなスーツケース。それが三つ、無骨な台車に乗せられていた。どんな大家族でもそれを持って旅行には行かないだろう。本当に、何が入っているのか。
     アズールはそれを知っている。
    「ふふ、だんまりですか」
     椅子に腰かけたアズールの顎に手をかけて、ジェイドが上向かせる。金の左目が部屋の明かりを背にして輝いていた。普段は弧を描いている唇は今は横一文字に引き結ばれている。それなのに声だけは笑っているので、顔が見えなければアズールでさえこの男の機嫌を読み違えてしまっていただろう。
    何も読み取れるもののない、全くの無。つまりジェイドは今、怒っている。何に? それはもちろん、あのスーツケースの中身の方々と、アズールに。
    「彼ら、あなたとフロイドのことをよくご存知でしたよ。その上での狼藉だったようで」
    「……そうでしたか。それは、ええ」
     アズールはぴくりと自分の眉が動くのを感じた。フロイドとアズールの関係が、ただの幼馴染みの範疇に留まるものではないということを知る者は多くない。わざわざ言いふらすようなことでもないと双方が思っていたので、詮索されない限りはアズールから明かしたことはなかった。だから、恋人としてのアズールとフロイドを知っているのは、目の前のジェイドを除けばごくわずかな級友だけである。けれどもやはり、その独特の雰囲気というのは見る者が見れば一目瞭然のようで、これまでも何度か、勘のいい生徒に露呈した経験があった。
     そして今回の愚か者たちは、フロイドがアズールの恋人であると知ったうえで手を出してきたらしい。
    「つまりあなた、舐められているんですよ。番にみすみす手出しされるような、間抜けな男だと」
     声だけは面白がって、ジェイドは言う。アズールはちっとも面白くなかったし、ジェイドだってそうだろうに、アズールを謗るためだけに、ジェイドは馬鹿にしたような明るい声をつくる。
     けれどもその謗りを、アズールは甘んじて受けなければならなかった。
    「――返す言葉もありません。すみませんでした、ジェイド」
    「おや。僕は何も謝られるようなことはありませんよ」
    「お前の言う通り、どこの馬の骨とも知れない男どもにフロイドに触れさせる隙を与えたのは僕です。間抜けと言われても仕方がない」
     アズールの顎を掴むジェイドの指に力が込められた。人間としては規格外の力を持つウツボの人魚に遠慮なく負荷をかけられた骨がきしむ。けれどもアズールは顔を歪めることもせず、ジェイドの瞳を見つめ続けた。
    「お前の宝物を――傷つけさせてしまった。申し訳ありません」
    「……そこまで言えるのなら、ここで大人しく座っていることはないでしょう」
     ふとアズールの顎からジェイドの指が離れた。そのままアズールに背を向けたジェイドは、スーツケースの乗せてある台車の持ち手を掴んで引っ張っていく。
    「それ、どうするおつもりですか」
    「雪山の死体はとても状態が良いそうですよ。再現してみたいのですが、今からこれを山に運ぶのは手間です。話は変わりますが、最近学園は大雪続きですね」
    「……ほどほどにしておきなさい」
    「承知していますよ、アズール。あなたが解凍する余地は残しておきます」
     そう言ってジェイドは台車を引いて部屋から運び出していった。扉が完全に閉まってその姿が見えなくなるまで、アズールはそれを見届ける。そして手元のパソコンに表示されたSNSの投稿画面に用意していた文章と画像をペーストすると、一分の躊躇いもなく投稿ボタンを押した。



     数時間前。フロイドが妙にぼんやりとしながら寮に帰ってきたとき。ジェイドが目を見開いてその揺れる体を抱き留めたとき。アズールに聞こえないほど小さな声で二人が何か言葉を交わし、ジェイドが一瞬で表情をそぎ落としたとき。そしてアズールにフロイドを預け、振り返ることもせずにどこかへ消えていったとき。
     フロイドに何があったのか、アズールはフロイド自身から聞かされるまでわからなかった。けれどそれをフロイドから聞き出すことができたのも、アズールしかいなかった。
    「ほんとにね、なんでもねぇの。手ぇ握られてさ、腰に腕回されて、ちょっと触られただけ」
     脱力しきったフロイドをVIPルームのソファに乗せて、横から抱き締めて頭を撫でた。はじめは何かを言おうと口を開きかけて、しかし何も声にならないことに驚いたように目を見開いてはまたむっつりと口を噤んでいたフロイドも、一時間ほどそうやっていればだんだんと言葉を取り戻していった。本人の意思に反して頑なだった唇から漏らされる声を聞き逃さないよう耳を澄ましていたアズールは、その内容に目を瞠り——じくりと胸の奥底に火を立てた。
    「ただの雑魚って思ったの。ただの雑魚三匹、囲まれたところでどってことないし。でもさぁ、みんなニヤニヤして、『かわいいね』とか言ってきて、殴るとか蹴るとかじゃなくて、触ってきて、そ、んで、気持ち悪くて」
    「フロイド」
    「全部全部蹴散らして沈めたのにまだずっと気持ち悪いの、なんで? オレ雑魚になっちゃたの?」
    「フロイド、大丈夫です。お前はいつもと変わらない、強くて優秀なウツボですよ」
     ぎゅうとアズールの服を握りしめる手の力の強さに気付いているのだろうか。アズールが撫でつける背から伝わってくる震えを、知っているのだろうか。知らない方がいい。それをフロイド本人に気付かせることは、許容できそうになかった。
     アズール以外の者から与えられたものなど、よりにもよってそれが恐れであることなど、知らない方がいい。この奔放で自由な男を、それでいて感情に過敏な男を、縛るものはアズールただ一人でありたかった。ジェイドを除いて、フロイドが何かを受け取るとすれば、それはアズールからでなければ許容できない。たとえそれが恐怖であっても。
    アズールは、フロイドの恋人なのだから。

    「……ねぇアズール。お願いきいて。あとで何でもするからさぁ」
    「いいでしょう、なんでも叶えて差し上げますよ」
    「名前呼んで。フロイドって」
    「ふふ、お安い御用です。なら引き換えに、お前にも僕の名前を呼んでもらいましょうか」
    「そんなんでいーの?」
    「勿論ですよ、僕は身内には甘い男です。恋人には特に……フロイド、知っているでしょう?」
    「……うん。アズール」
    「フロイド」
    「アズール」
     そうしてゆったりと名前を呼び交わしていると、フロイドはやがて眠りについた。それを部屋に運ぶのには苦労したが、フロイドと付き合うようになってから筋トレに励んだ甲斐あってもたつきながらもなんとかベッドに寝かせることに成功した。そしてVIPルームに戻り、フロイドの話をもとに件の三人の個人情報や必要な情報を割り出したところで、三人分の歯を詰め終わったジェイドが戻ったのである。
     後はアズールが、この不始末の落とし前を付けるだけである。




     冷えた水が顔にかかって男は目が覚めた。
     雪の降る冬の空気が肌を刺す。濡れた頬が既に凍っているような心地がして、男は身を震わせた。痛い。零度を下回っているであろう気温は、凶悪な冷たさでもって男を攻撃した。
    「お目覚めですか」
     上から声が聞こえたことで、男は自分が地面に這いつくばっていることに気付いた。土が肩についている。どこかは知らないが、湿った地面のある森に転がされているらしい。視界の奥の方に、同じような体勢の仲間が二人見えた。それにしても寒い。そこの誰か、助けてくれ。男はそう言おうとしたが、それは叶わなかった。空気が唇を直接抜けていって、声らしい声が出ない――歯が抜かれている。全て。
     そこで男は思い出した。以前から目を付けていた後輩に少しちょっかいをかけて、倍以上の暴力で返された帰り道。痛む頬を押さえてぶすくれた顔で寮へと続く鏡をくぐろうとした瞬間、何者かに肩を掴まれて引き倒されたこと。遠慮ない力で頭を殴られて昏倒し、次に目が覚めた時から始まった――数々の痛み、恐怖。その体験を。
     男の全身から力が抜けた。
    「ひ、いぃ」
    「意識ははっきりしているようですね。よかった」
     男が漏らした悲鳴に、声の主が笑う気配がした。首を精一杯そちらに向けると、目に入ったのは雪に溶けそうな銀髪である。眼鏡の奥で青い瞳が弧を描く。その正体に思い当たった瞬間、男は未だに恐怖が続いていることを悟った。
     アズール・アーシェングロット。今日手を出したあの後輩の恋人だった。
    「かわいそうに、そんなに怯えて……ジェイドはよほど手厚いおもてなしをしたようだ」
    「あ、ぅうへえ、うぇええ」
    「ふふ、流石の僕も稚魚の喃語はわかりません。あなたたちも、仮にもナイトレイブンカレッジの生徒ならばもっとまともな言葉を話してみては?」
     無理だ。そもそもお前の仲間に歯を抜かれたことが原因なのに。そう言いたげな男の様子に気付いて、アズールは肩をすくめた。
     そして、唐突に語り始める。
    「人魚の涙、ご存知ですか? その名の通り人魚が流す涙のことで、魔法薬の材料としてしばしば使われます。あなたたちも教科書で見たことがあるでしょう」
     月光を背にしたアズールが軽く首を傾げた。そういえば空が暗い。夜の深い時間なのだと、男はぼんやり理解する。
    「それ以外にも人魚の体は魔法薬の素材となる部位をたくさん持っています。種族にもよりますが、鱗や粘液、内臓などは高値で取引されることもあるんですよ。多くは薬になるようで、未だに人魚の密漁は絶えません。獣人も同じような状況にあるようですね」
    「おおうえ、はうぃあ」
    「それがどうした、でしょうか? ふふ、わかりませんか?」
     アズールは笑った。見た目だけは善良で優し気なその笑顔は、しかしその中身を知っている者にとっては悪魔の笑みである。男は背筋を震わせた。
    「人魚や獣人は薬の材料になります。けれどそれは、人間だって同じだと思いませんか?」
     アズールはそこで、握っていた杖を一振りした。虚空に光が瞬いて、きらりと月光を反射する小瓶が現れる。
    「あなたたちにとある毒薬を飲ませました。効果が現れるのは一時間後、徐々に気道が腫れ上がって息を堰き止めます。それまでに解毒剤を飲まなければ仲良く窒息死ですね」
     告げられた言葉に男は目を見開いた。にやりと笑うアズールの手の中で小瓶が揺れる。嘘ではありませんよ、現に今、喉が腫れてきているでしょう? 事も無げに言われた言葉通り、男の喉は鈍い痛みを伴って、熱を持ち始めていた。
    「ふぁ、ふぁうへえふぇ!」
     恥も外聞もなく、男はアズールの足元に縋りついた。毒薬の話が真実なのかはわからなかったが、確かに男の喉は異常を訴えているし、アズール・アーシェングロットならそのくらいやりかねないという確信があった。
    「ふふ、助けて差し上げたいのは山々なのですが、生憎僕は解毒剤を持ち合わせていなくて、一から調合するしかないのです。そしてそれには材料が足りない」
     男を見下ろして、アズールが言った。そしてもう一度杖を振り、虚空から取り出したものを地に投げ捨てる。そちらに目をやった男は、首を傾げた。
     鋏。カッター。錐。ナイフ。それが何か――
    「人間の耳が三対、爪が最低30枚、皮膚が200グラム以上、骨が8キロ」
     アズールが言った。軽やかに、歌うように。
    「一人分の魔法薬の材料です」
     それは地獄の扉を開く言葉だった。

    「僕の元に持ってこれた人だけに調合してあげましょう。大丈夫、僕は慈悲深い男ですから、約束は守りますよ。あなたたちが守れるかどうかは別ですが」

     月を背にした男が言う。横長の瞳孔が愉悦を滲ませているのに、既に殺し合いを始めた男たちは気付かなかった。
     雪がしんしんと降り始めている。
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    testudosum

    DONEアズフロ。アズとジェが不穏。
    自分で思っているより性的な視線に嫌悪感を持っていたフロイドと、借りはきっちり返すアズールの話。モブがひどい目に遭ってる。
    「これは、あなたの怠慢のせいでもあると思いませんか?」

     歯。たくさんの、瓶詰めの歯。ジャムの瓶いっぱいにぎっしりと詰まっている、大きさも形も様々の歯。それがことりとデスクの上に置かれるまで、アズールはじっと見ていた。向かいに立つ男が、懐から瓶を取り出し、その底をデスクにしっかり付けて、手袋をした手が離れていくまで。
    「ねえアズール。フロイドは僕のフロイドですけれど、今はあなたのフロイドでもあるので」
     にこりとジェイドが笑う。今しがた瓶を取り出した彼は、いつも通り服装に一切の乱れもない。しかしその背後には普段あまり見ないものがあった。そんなに何を詰めるのかと言いたくなるような大きなスーツケース。それが三つ、無骨な台車に乗せられていた。どんな大家族でもそれを持って旅行には行かないだろう。本当に、何が入っているのか。
     アズールはそれを知っている。
    「ふふ、だんまりですか」
     椅子に腰かけたアズールの顎に手をかけて、ジェイドが上向かせる。金の左目が部屋の明かりを背にして輝いていた。普段は弧を描いている唇は今は横一文字に引き結ばれている。それなのに声だけは笑っているので、顔が見えなければ 5111

    testudosum

    DOODLEいずれアズイドに至る双子の会話文。現状成立しているのはアズフロだけですが、ジェの様子がおかしいです。
    2021/1/4 ポイピクアカウント迷子により上げなおしました。
    「アズールに殺されてフロイドに食べられたいです」
    「いらね~」
    「おやそんなこと言わずに。僕大きいんでたくさん食べられますよ」
    「そういうことじゃないんだよ。終わってる倫理観と死生観に同時に巻き込もうとするなって言ってんの」
    「失礼な。僕はただ幸せな人生設計のお話をしただけなのに」
    「そこから何が始まるんだよ。人生終わるとこから始まる人生設計ってなんだよ」
    「だってそこが一番大事なんです。そこ以外は極端な話どうでもいいので」
    「設計じゃねーじゃん。何も設計できてねーじゃん」
    「人生何があろうとも最期にはアズールに殺されてフロイドに食べられたい」
    「人生のこと一本道のRPGだと思ってる?」
    「多少……」
    「思ってるのかよ。そして多少なのかよ」
    「一割くらいフロイドとアズールの幸せ結婚生活を応援するシミュレーションRPGだと思ってます」
    「残りは?」
    「理想のフロイドとアズールを作る育成ゲームです」
    「ねえー! そういう性癖はせめて自分の胸の中にしまっててくんないー!?」
    「そんなに寂しいことを言わないでフロイド。僕たちなんでも言い合える兄弟じゃないですか」
    「その兄弟に自分の屍肉食わせよ 2691

    testudosum

    DOODLE十年後、普通に付き合ってるジャミカリ①
    Twitterに同じものを上げていますが、自分が読み返しやすいようここにも投げます。
    ペンを立てた。これで終わりだ。
     くん、と背伸びをして窓の外を見ると、とっくのとうに日は沈んでいる。いつから仕事してたんだっけ。思い出せないが、現在の時間はわかる。午後十時、そろそろ寝支度を整えなければならない。今日はもう疲れたのだ。ぱきぽきと鳴る背骨の感触を感じながら、カリムはひょいと椅子から立ち上がろうとした。
    「待て。その前にこれを飲め」
    「んえ?」
     そんな声と共に横から差し出されたカップが机の上に置かれる。二つ。温かそうな紅茶だった。
    「……え? ジャミル? いつ入ってきたんだ?」
    「ついさっきだよ。ちゃんとノックもしたし、声も掛けたぞ」
    「本当か? 気付かなかった……」
     またやってしまったらしい。カリムはひっそり息を吐いた。昔なら見ているだけで瞼が降りてしまっていたような細かい字の書類にこれだけ集中できるようになったのは年月の賜物である。しかしそれと同時に、集中しすぎて周りが見えなくなるという弊害ももたらされたのは、思わぬ誤算である。いつの頃だっただろう、ジャミルが一人執務室に籠るカリムに声を掛けても応えのなくなった日から、ジャミルはこうして、仕事が終わる頃を見計らって勝 2439

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