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    amgoenir

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    アイスバースロスモ。去年書いたやつを修正したやつです。死にません。

    #ロスモ
    rossmo

    そしてまた、二人は出会う。その日はうだるような暑さだった。ジュースに入った氷も一瞬で蒸発してしまうような、そんな日だった。

    「スモやん冷てえ。最高」
    ベタベタと男が男に張り付いていた。まさに地獄絵図。たしぎはドン引き。スモーカーは青筋を何本も立て拳を握り、ドカドカ殴りかかっていた。海兵の汗で沈没しそなほど異常に暑い中、冷たいと言われた男は汗ひとつかいていなかった。
    スモーカーは、体温が異常に低い体質をしていた。世間ではそれをアイスと呼ぶ。アイスは数千人に1人の割合で生まれる珍しい人間だ。気温に左右されず汗もかかなければ凍えもしない。生まれた時から低体温を保ち続ける。そんな体質だ。そして対となるジュースと呼ばれる体質がある。こちらは数万人に1人生まれるかどうかというアイスよりも希少な人間だ。ジュースは普通の人間とほぼ同じ。しかし決定的に違うのは、恋愛を封じられたことだった。ジュースは特定のアイスにしか恋心を抱けない。しかしそのアイスと結ばれた時、アイスは恋という熱で溶けて無くなってしまう。ジュースはその時初めて、自分がジュースだと自覚できる。出会ったが最後、永遠にひとつになることの無い悲しき運命を背負っていた。
    しかし、愛だの恋だのにかまけている暇のないスモーカーにはどうでもよかった。
    「しかしよおれァ、スモや...スモーカーさんと出会うまでアイスだジュースだってのは本の中の話だけだと思ってたぜ」


    ローが海軍への定期報告を行ったのは本当に久しぶりでただの気まぐれだった。どうでもいいことを適当に報告していると、ノックが響く。もう飽き飽きしていたローはこれを理由に切り上げ、制止する声を無視して扉を開ける。その先にたっていたのは白猟のスモーカーだ。返事もなしに開いたことに驚いたのか、眉間のシワをさらに深くしてローを見た瞬間、2人は同時に息を吸い込んだ。スモーカーの視線は電撃のようにローの体内を駆け巡り呼吸が出来なくなる。上昇する体温と比例するように上がる心拍数。視線を逸らせなかった。スモーカーもまた、葉巻を噛みちぎる勢いで口を固く結んでいた。
    3秒、5秒、10秒。異常に早い鼓動が、空気を揺らす。それを打ち破ったのは部屋の奥にいる海軍将校だった。
    「どうかしたのかね。スモーカー君」
    「......失礼します。お取り込み中でしたら出直しますが」
    「いや話は終わった。俺はもう出る」
    ローはスモーカーを押しのけて部屋を出た。早足で角を曲がるとそのまましゃがみ込んだ。ゆっくり吐いた息とともにアドレナリンやドーパミンが脳内を支配して、体と思考をおかしくする。視線を交わしたい、触れたい、抱きたい、この欲望はまさしく恋だ。ローはストレート。女も細くて慎ましい方が好みだ。それなのに、あのスモーカーに恋と同じ反応を起こしている。乾いた笑い。見つけた運命。吊り上がった口元を隠すように押えて息を止める。そこには標的を定めた1人の海賊がうずくまっていた。

    時を同じくして、つらつらと報告をしていたスモーカーは焦っていた。自分がアイスだからこそ相手がなんなのかはっきりとわかる。あの男、トラファルガー・ローはジュースだ。従来、ジュースだけがアイスに執着すると言われていたがどうやらそれは違うようで、さっき出会ったばかりのローに対し妙な感情がムクムクと湧いている。
    報告を終わらせると新しく葉巻を咥えなおした。とにかく、金輪際関わらないようにしなければ。そう思っていた矢先、部屋を出てまちかまえていたのはその男だった。スモーカーは一拍置いてから火を付けると何もいなかったかのように歩き出した。
    「素通りなんて酷いじゃねえか」
    「...なんでここにいる。報告が終わったなら帰れ。てめェみたいな海賊がいていい場所じゃねェんだよ」
    「俺たちは政府公認だぜ、白猟屋」
    スモーカーは歩みを止めもしなければ、振り返りもしなかった。
    「王下七武海でも海賊は海賊だ。さっさと失せろ」
    「手厳しいことで」
    ローはスモーカーの後を着いていく。身長、体重、歩き方、癖、舐めるように観察した。海賊嫌いで有名なスモーカーを落とすには一筋縄ではいかない。まずは情報収集。王下七武海という肩書きがこんなところで役に立つとは思ってもいなかった。
    それからというものの、ローは海軍に足げく通うようになった。毎度スモーカーに逢いに行くものだから、受付にもどやされるほどでスモーカーとローの間にはよからぬ噂がたっていた。なんてことは無く、ローは能力を使って外から入り込んでくるのでたしぎ以外海軍支部に入り浸っていることを知らなかった。
    それに対してスモーカーはローを追い出すことができなかった。なんの許可もなく勝手に入り込んできた海賊を、追い返そうと口を開くが、ローを前にすると恋心が踊り、なにを考えていたかさえ忘れてしまう。気づいた時には2人分の珈琲を淹れているのだ。この行動がいつか自分の死に繋がるとこもわかっているのに、抗えない恋慕の情はスモーカーを苦しめた。
    「この街の暑さは異常だ。連日続く猛暑に熱中症の患者もしょっちゅう見かける」
    「そうかよ。...チッ、インクがきれた。買いに行かねェと...おいトラファルガー。俺は外に出る。食ったら適当に出ていけ」
    珈琲を飲み干し席を立つ。今なお離れ難い気持ちが心を侵食する。感情を塞ぐようにサングラスをかけて葉巻に火をつけた。
    「釣れないこと言うなよ。ついて行くぜ」
    「.........好きにしろ」


    「トラファルガーじゃなくて、名前で呼べよ。その方が楽だろ」
    「黙れ」
    目当てのものを買えた帰り道。しばらくする歩いていると急にスモーカーが立ち止まる。前には人だかりができていて野次馬がコソコソと何か話していた。どうやら人が消えたらしい。スモーカーは人混みをかき分け騒ぎの中心に入っていくとローもそれに続く。そこには水溜まりと慟哭する男。男はスモーカーを見つけるやいなやすがりつくようにつかみかかった。
    「俺、俺が殺しちまったんだ。海兵さん!俺が...おれが...彼女のことを好きになったから!!!」
    男が言っていることは半分も聞き取れない。ただひたすら「俺が殺した」「愛したばかりに」と繰り返し哭している。スモーカーにほっとかれたことが何となく面白くない。ローは辺りを見回した。不自然に落ちている服や装飾品と、テーブルの上に置かれた2つのカップ。死体や血痕はみあたらない。野次馬は人が溶けたと言っているが悪魔の実の能力だろうか。いやそれでは男があれほど取り乱しているのはおかしい。ふと、目の隅に今朝読んだ新聞が写った。掲載されているのは、溶ける女のラブストーリー。第2の性と呼ばれる都市伝説。ローは無意識に舌打ちをする。その苛立ちと不安を隠すようにその場を後にした。

    「おかえりキャプテン!ってなんか怒ってる?」
    「怒ってねえ」
    「え、でもどう見ても怒ってるよね。白猟屋となんかあった?」
    「怒ってねえって言ってんだろが!」
    べポは凹んだ。それを無視してローは自室に篭もる。先の事件がどうしても頭から離れない。電伝虫を取り情報屋に今日のような出来後が他になかったか探らせた。そしてローは例のラブストーリーが掲載されている新聞をあるだけ集め注意深く読み始めた。男の燃え上がるような初恋。惹かれ合う運命。結ばれた2人の最後。スモーカーを初めて見た時の気持ち。海賊嫌いとの密会。そして水溜まりを見るスモーカーの表情。全て合点がいった。項垂れるように背もたれに寄りかかり力任せに机を蹴りあげた。倒れた電伝虫が前例を述べ始めた時、それはバラバラになっていた。
    「なぜだスモーカー......!」
    自由であろうとする自分が生まれ持ったものに縛られ相手を殺さんとするその体質が憎くて仕方ない。映画や新聞、都市伝説、身近にありふれていた情報が真実だったなんて、今日まで知ることのなかったその無知が恥ずかしくて仕方ない。
    でも、それでも、恋の末路を知りながら2人分の珈琲を淹れるスモーカーが愛しくて、どうしても高ぶる熱を抑えることができなかった。


    スモーカーの報告書をまとめる手は幾度となく止まっていた。あの水溜りが、次はお前だというようにフラッシュバックして離れない。姿を消したローも気がかりだ。十二分に希釈されたアイスティーは「暑い」と汗をかいていたが、それに構わずグッと飲み干した。そして新しい葉巻に火をつける。灰柄はいつもより早く山を成していた。
    筆先を下に向けてから何時間たっただろうか。白紙の隅に一点だけ黒い島ができていた。煙を吐き出し今度こそ文字を書こうとペンをあげると、ドアの向こうから誰かの声がだんだんと近づいてきた。
    引き止める声を無視してドアは開く。そこにはロー1人で声の主は見えなかった。ズカズカ入ってくるとスモーカーを冷たく見下す。
    「ドアから入ってくるなんて珍しいじゃねェか。何の用だ」
    「クソ暑い中冷房も付けずに汗ひとつかいてない。お前、俺がジュースだと知ってただろう」
    はっと息を飲む。ここで頷くことはできない。自分の感情に確信を持ってはいけないから。スモーカーは黙っていることしかできなかった。
    秒針が180回目の移動を終えた。ローは180度振り返りため息をつく。
    「...邪魔したな」
    その日を境にローは姿を見せなくなった。


    あれから1ヶ月がたった。ローの頭の中はスモーカーでいっぱいで、雲を見るだけで彼のことを思い出すほど恋焦がれていた。ペンを握る手が無意識に恋を綴る。何度思い返してもあの沈黙は肯定で、新聞と同じならば、どう考えても2人は好き合っていた。噂通りであれば結ばれてから3分以内にアイスは溶けてしまうはずだが、あの時はそんなこと無かった。言葉にすることがタブーなのだろう。そんなの余裕だとタカをくくっていたのは気づいた後の1週間だけだった。8日目にベポを見て「好きだ」と呟いてた。白いふわふわはもくもくの彼を思わせ、気づいた時には後の祭り、べポはローの頭を診察していた。
    それから船長からの告白は船員を襲った。被害者は多数。流れた血は海を染め、流れた涙が青に戻した。海の藻屑となったラブレターは数知れず。今だってそれを生産している。機械のように動く腕を止めて声を荒らげ、紙を破り、まとめてゴミ箱に突っ込んだ。
    この気持ちのまま敵戦地に行くわけにはいかない。どうにか踏ん切りをつけなければシーザーに告白するのは明確で、それだけはどうにか避けたかった。
    「あの、キャプテン...」
    「あ?...あ!?......なんだベポ!い、いつからそこに」
    「いやキャプテンが呼んだんじゃん。ずっとここにいたよ。もしかしなくても忘れられてたよね。影が薄くてすみません...」
    ベポは凹んだ。ローは死にそうだった。もうこの海賊団はダメかもしれない。危機的状況だ。
    「ベポ。忘れろ」
    「アイアイ。なんのことかわかんないけど、もう白猟屋に告ればいいじゃん」
    「そうだぜ船長、俺たち海賊なんだし、欲しいもんは奪うのが鉄則じゃないですか」
    「そうだそうだ」
    ベポだけではなかった。いつものメンバーを集めたのは紛れもない自分。ローはもうダメだった。
    「いま破った紙、海軍との大事な書類でしょ。もう1回貰いに行かなきゃ。ついでに告白してきなよ」
    「そろそろ輸血の血が足りなくなりそうですし」
    「そらそら行った行った!頑張れ船長!」
    「チッ...Room!シャンブルズ!」
    船員を弾き出してやっと静かになった部屋の中、ドカリと椅子に座り込む。頬杖をついてため息。それは恋する乙女のよう。そんな自分に嫌気がさす。

    プルルルルル。プルルルルルル。

    突然の呼び出し音はローの頭に蓋をした。ガチャと言ったその後に続くのは、恋焦がれていたあの声だった。
    「てめえの部下がいきなり現れて、船長が迎えにこないと動かねえとほざいてるんだが」
    目の前には葉巻が三本。ローは真っ赤になった顔をおさえる。無意識にスモーカーの部屋まで能力を展開していたようだ。返答しようにも喉から押し出された空気が口から出るだけで不自然な間ができてしまう。
    「おい、ロー!」
    「す」
    唇を噛んでぐっとこらえる。こんな間抜けな状況で告白なんかしたら、間違いなく人生の汚点になるだろう。ユラユラ揺れる理性で何とか言葉を押しとどめる。
    「?」
    「す、まない」
    「チッ、そう思うならさっさと回収しに来い」
    ガチャ。高鳴る鼓動に胸を抑える。依然として上昇する体温はローから思考を奪う。声を聞いただけで情欲が湧き上がり、会いに行く以外の選択肢が無くなった。抑えられない衝動のままに能力を発動し、ベポたちと入れ替わる。スモーカーが近くにいるという実感はローの理性をドロドロに溶かして、悩乱した頭で考えられる言葉などなかった。
    「好きだ。俺のために、死んでくれ」
    告白という名の懇願は、無様に震えて子供のように正直だった。お互いの呼吸と秒針の足音だけが部屋の中に響き、何度か鳴った時スモーカーは大きく息を吐いた。
    「その気持ちには答えられねェ。てめェのために死んでもいいと思ったらそんときに返事をしてやるよ」
    グッと力を込めた拳から涙が流れる、まるでこの場所にあとを残すかのように。子供をたしなめるための常套句は、断ち切りたい思いに未練を残すだけだった。それでも、わかっていながらも、「返事」に縋ってしまう。
    「待ってる」
    スモーカーは人の形をしたままだった。

    自分の船に戻り、心配そうに見てくるクルーを部屋から追い出して、葉巻に火をつけた。この悲しみも昂りもくゆらせて、燻った熱を忘れないように。
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    「スモやん冷てえ。最高」
    ベタベタと男が男に張り付いていた。まさに地獄絵図。たしぎはドン引き。スモーカーは青筋を何本も立て拳を握り、ドカドカ殴りかかっていた。海兵の汗で沈没しそなほど異常に暑い中、冷たいと言われた男は汗ひとつかいていなかった。
    スモーカーは、体温が異常に低い体質をしていた。世間ではそれをアイスと呼ぶ。アイスは数千人に1人の割合で生まれる珍しい人間だ。気温に左右されず汗もかかなければ凍えもしない。生まれた時から低体温を保ち続ける。そんな体質だ。そして対となるジュースと呼ばれる体質がある。こちらは数万人に1人生まれるかどうかというアイスよりも希少な人間だ。ジュースは普通の人間とほぼ同じ。しかし決定的に違うのは、恋愛を封じられたことだった。ジュースは特定のアイスにしか恋心を抱けない。しかしそのアイスと結ばれた時、アイスは恋という熱で溶けて無くなってしまう。ジュースはその時初めて、自分がジュースだと自覚できる。出会ったが最後、永遠にひとつになることの無い悲しき運命を背負っていた。
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