殆んど奇蹟の如き 僥倖、と言ってしまっていいのだろうか。
「……どうした、神田。上の空じゃねェーか」
神田の唇のはざまから、ぬるりとふたりの唾液で濡れそぼった舌を引き出しながら、弓場が熱をこもらせた声で囁く。
「弓場さんの舌が気持ち良過ぎて、ぼんやりしちゃってるだけですよ」
トリオン体の時とは異なり、下がって乱れた前髪の向こうの夜色の瞳が神田を映す。そこある己の間の抜けた姿に、神田は苦笑しそうになる。
ことこの期に及んで未だ、この状況を現実として受容しきれていない己に。
(俺って意外に器が小さかったんだな)
「初めてってェーわけでもねェのに、可愛げのあることを言いやがるな」
くくくと喉を震わせ、弓場は「だったらもう一度だ」と親指を神田の下唇にあてがって、軽く開かせるとぬめる舌を内奥へと忍び入れさせた。
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