パジャマルスハン俺たちが同居を決めるにあたり、ジェイク(ジェイクだって、照れる)と色々と取り決めをした。
と言っても、何でも準備したがりで決めたがりのジェイクが俺にポンポン提案、というか、申し渡しをしていった、というのが正しいが。
その一つに、「ルームウェアについて」というのがあった。
そんなことまで決めんの?
正直思った。そもそも俺は洗濯物を乾燥機からじかに着る男だぞ。時々はなんか日光に当てたくてベランダにも干しはするが、その時でも物干し竿から取り込んだ服を直で着る男だぞ。(半裸でも通報されない住空間、ありがたい)そもそもそんなの考えたこともないに決まってる。
だからこだわりのあるジェイクが言うことをまんま受け入れる気でいたし、それ以外の件と同じく最初はウンウンそうだなとひたすら聞いていただけだったんだが、ルームウェアの件についてだけは、ところどころ、こう、やけに引っ掛かる言い方というか、まあいつも以上にという意味だが(あれはあれでかわいいんだけど)、なんかモワッとするというか。
不満とかじゃなく違和感みたいな?ものを感じたので、なんとなく追求されたくなさそうなジェイクの表情を押して、敢えてこっちから突っ込みを入れてみたんだが。
よくよく聞いてみれば、まず、本当はジェイクは家では元々パジャマ派だったらしい。ずっと。子どもの頃から。ジュニアからハイスクール時代の思春期にも。ちゃんとずっとパジャマ。
かわいい。
だけど家を出て軍属となり成人し、便宜上、たとえば配送の受け取りなどにパジャマ姿で対応するというのはいかにも「今まさに寝てました」「くつろいでいます」という感じになってしまって、それがどうも好かない、そんな自分は許せない、ということになったらしい。
だから官舎を出て一人で暮らし始めて以降、自分の「パジャマを着たい」という嗜好より、効率と体裁を考えて、部屋着にも見えるスウェットパンツやTシャツの類で眠ることを「採用」するに至ったらしい。
本当はパジャマがいいんだけど。
当然パジャマの方がリラックスはできる、何故ならパジャマというのはその目的で作られた衣類なので当然だが……云々、開き直って色々と説明してくれたジェイクは仏頂面ながらも(多分照れてたんだろう、かわいいよな)、それはもうパジャマ愛に溢れた様子で滔々とパジャマの良さについて語ってくれたので、これまでルームウェアについて特にこだわりもなくずっと適当だった俺まで、つい、パジャマってすごい……素晴らしい……!と思ってしまったくらいだ。
ていうかおまえパジャマすごい好きじゃん。
かわいい。
俗に言うような「見栄っぱり」と呼ぶにはその見栄自体があまりにも完成されすぎているし、そのプライドを保つ努力がいっそ誇るべきレベルの男なので、その言葉は実際はあんまり当てはまらないのだが。
つまりそうやって普段の見た目からも「非の打ち所のない自分」を保っておこう、というやつらしかったので、それはとてもわかる話だな、とは思った。
あとこれは実際一緒に過ごすようになってみて徐々にわかってきたことだが、ジェイクは、オンオフの切り替えがああ見えてあんまり、うまくない。
というか、むしろ「常にオンのほうが楽」みたいなタイプだ。
(まあそうできちゃうのがすごいとこだけどな)
なるほど。だから自分から「くつろいでます」サインを出すパジャマってやつを避ける道を選んで来たわけか。っていうとなんか大袈裟かもしれないが。
わかる。それもなんかすごくわかるんだけど。
なんというか、ほんとそういうとこあるよな……。
ただ、本当はそっちがよくて、内心家の中では好きなパジャマでくつろぎたい気持ちはあるのに、それを我慢する主な理由が宅配とか不意の来客由来の外的要因であるなら、そっちはもともとそういう格好で寝るのがまったく苦でない上、どんな格好でもリラックスできる俺の担当ということにして、おまえはパジャマを着ればいいのでは?
だってせっかくこれから二人で暮らすんだし。
と、そこではじめて俺から主張・提案してみたら、ジェイクは何だか、とても面白い顔をした。
つまり「こういう時どんな顔すればいいのかわからないの」ってやつ、多分。
(ファンボーイに聞いたネットスラング?だけど、多分きっと恐らくこういう時に使うやつ)
まさに想定外、って感じ。でもまあそんなことでそんなに?という意味では俺もだいぶ想定外だったけど。
まあそれ見てたらなんかたまんなくなってすぐ抱きついちゃったからあんまり長くは見ていられなかったんだけどさ。
(すぐ近くに見えた耳が赤くなってて大変可愛かった)
そんなこんなで、ジェイクの今現在のうちでの夜の格好はパジャマだ。
かわいいだろ。
いや、パジャマ着たジェイクを他人が見たら、もしかしたら普通に「パジャマだな」という感想にしかならないかもしれないが。
でもパジャマ着たジェイクはかわいいんだ。すごく。
うんまた脱線したな、さっきからあれだけど。
つまり、
「俺と一緒に暮らすことになったからパジャマを着ることにしたジェイク」
って訳だよ。
元々かわいいのに、更にこの前提があるかないかでまた全然違うわけよ。
わかるだろ?
かわいいよな……。
……ただまあそういう取り決めなのに、休みの日の午前中などに配送業者のピンポンで起きられずに、パジャマのジェイクに俺が叩き起こされてる現状はたしかに要改善なんだけど。ほんとごめん。
でも絶対起きるから。いやもうホント、「配送!!」ってあのやたら張りの良い声で号令掛けられたらいつでもパッと起きてるし。
しかしジェイクのパジャマ姿をたとえ配送のおっさんにでも一切見せたくない、っていうのが起きるためのモチベーションになるのはちょっと発見だった。だって大事なことだからな。
ところで今月のあいつの誕生日だけど、かれこれ1ヶ月以上前からネットや実店舗にも足を運んで探しまくった「デザインがかなりイカしてて更に生地もよくて肌触りがめっちゃいいパジャマ」をプレゼントする予定なんだが。(まあめちゃくちゃ厳選したよね)
それは良いんだが。
それを着たジェイクを誰にもお見せすることができないのが、もう今からちょっと残念だ。
(もう実は買って基地のロッカーにしまってある。色々と敏いジェイクに、うちに置いておいて隠しきれる自信がないので)
まあ、つまり俺が誰にも見せたくないだけなんだけど。
あれを着たジェイク、めちゃくちゃかわいいに決まってんだよな。既に。
かわいいの最上級な訳だよ。
まあまだ俺も着て見せてもらってないけど。絶対そう。
でも誰にも見せられないんだよなそれを。俺以外には。
ほんと残念。
・
先日ルースターからとてもいい写真をもらった。
正しくは強奪したというべきだが。
ブツはマーヴェリックと子どものブラッドリーくんがお揃いのパジャマを着て写ってる写真だ。
いやそんなのかわいいに決まってるだろ。
なんでも、ブラッドリー少年6歳の頃、ミッチェル大尉のバースデーにお母様から二人に贈られたもので、贈られたその日の夜に早速一緒に着て記念撮影した時のものらしい。
なんだそのしあわせエピソードは。
しかも、今現在すっかり大人になったブラッドリーくんがしみじみ言うことには、
当時忙しさの割には足繁くブラッドショー家に通ってくれていたミッチェル大尉だったが、お父上を亡くした後には何かしらの遠慮があったらしく、どんなに疲れて見えてもブラッドショー家に泊まっていくという事がしばらくなくなっており、今思えばそれはあらぬ噂が立たないようにとの母や自分への配慮だったとは思うが、母子にとっては非常に歯痒く、なのでそのプレゼントは、「ブラッドリーとお揃いのパジャマでマーヴを引き止めよう!」という作戦でもあったらしい。
なにそれかわいい。
まあブラッドリー少年にはその作戦の意図はまだ当時いまいちよく分かってなかったようだが。
でも一緒にパジャマを選ぶときお母様は、「これでマーヴがブラッドリーと一緒に寝てってくれるようになるかもだから気合入れて選んで!」と言っていたらしい。
お母様、好きだその感じ。
つまりそんなエピソードも込みでのいい写真って訳だ。
いい。とても良い物をもらった……。
しかしこれ、めちゃくちゃ例の作戦の仲間に自慢したいな。
小さいブラッドリーくんがかわいいのはやつらにどう受け止められるのかはわからねえが、何しろあのミッチェル大佐が、若い頃の姿で愛くるしい子ども(ブラッドリーくん)とお揃いのパジャマでめっちゃ良い笑顔で……って絶対やつらにとってもポイント高いもんな。
けど正直もったいねえな……。
SNSのグループトークで一瞬公開、いやいや、そんな姑息なのもな……。
(そもそもそういう場合ファンボーイが画像保存しないわけがねえんだ)
迷うけど、せめてコヨーテのやつだけには見せてやってもいいかな……。
まあ俺が自慢したいだけなんだけど。
うーん。
とかなんとか逡巡してたら、かつてのパジャマの似合うかわいい子が「そっちじゃなくて本体も今ここにいるんですけど……。そんなにパジャマで喜んでもらえるなら俺も今度自分用のパジャマ買おうかな……」とか言い出しやがる。
バカなやつ。
パジャマだけの話じゃないんだっての。
まあでも、おまえ用のパジャマを選んでやってもいい。俺がとっておきのを選んでやる。
って言ったら抱きつかれた。単純なやつめ。
しかし、その状態でふと「いやでも、俺までパジャマ着るようになったらまずいのか?」とか言い出すので、おまえのは多分、着てても日曜日のお父さんみたいだからいい(大丈夫)、と言ったらちょっと憮然としていた。
だっておまえ、上下あっても絶対上ランニングとかで着そうだもん。で、その状態で上にガウンだけ羽織って歯ブラシ咥えて庭先のポストに毎朝新聞取りに行くおじさん、実際俺んちの近所にいたもん。
つまりそういうお父さんだよ。
そんなこんなでそれはそれで可愛いからいいだろ、って言ってんのになんかまだ若干不満そうだったから、全くうちのおじさんは気難しいな、まあそこも好きだけど!ってほっぺたにキスしてやった。
そしたらすぐニコニコになった。
全く。
かわいいやつめ。