幸福なキス(クリテメ)「貴方に触れてもよいでしょうか?」
真剣な眼差しで彼が問う。
先日、彼から想いを告げられた。好きだとそう言われた。一時の迷いだと切り捨てることができぬほど、彼は真剣で。そして私もまた、彼のことを好きになっていた。
恋人、となったのだろう。恋人とはなにをするのか見当はつかぬが。恋い慕う相手とこうして逢瀬を重ねるだけで私の心はひどく満たされていた。
夜の教会での逢瀬。月明かりに照らされたステンドグラスの前でクリックに問われる。
触れる。そうか、触れてもよいのか。手をそっと握りあう。汗ばんだ手。自分とは違う、所々に硬い豆がある剣を握る剣士の手。指先を絡めあって。ふと、目が合う。
クリックの瞳がテメノスを捕らえる。深い深い海の色のようにも、どこまでも澄んでいる空の色のようにも思える。目の前の彼の青が徐々に熱を帯びていく。その瞳に映る自分も情欲に塗れた顔をしているのが分かる。
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