喧嘩「へし切、あなたそんなに警戒心が薄いとそのうちパクっと食われますよ」
菓子鉢に手を伸ばしかけた長谷部に宗三が気だるげな視線を向けた。
「なんの話だ?」
「二振り目の方の伊達男の話です」
「燭台切の?」
長谷部は口にほうりこんだ紅白の半球型の干菓子を喉にひっかけ、あわてて湯飲みに手をのばした。主の故郷の銘菓はころんとした可愛らしい見た目に反して口の中の水分をよく吸うのだ。
「ええ。一昨日もなにやら賑やかだったようじゃないですか」
「あれか?あれは別にたいしたことじゃないぞ?」
実際、たいした話ではなかった。単に長谷部の自室で燭台切と軽い口論が発生しただけ。それも元はと言えば、きちんと休養をとるようにと燭台切から再三苦言を呈されていたにも関わらず、過労で倒れた翌日にすぐ仕事を再開しようとした長谷部が悪かったのだ。それは長谷部本人も自覚していた。自室でこそこそ作業していたところを燭台切に見咎められ、売り言葉に買い言葉が口をついて出たのはそのせいだった。
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