さみい。ベットからでたくねえ。
起きてすぐオレはそう思った。こんなさむい日にすぐに起き出して仕事をする奴はマゾのブラッドぐらいのもんだ。
というわけでオレはあったけえ毛布の中に潜りなおした。ちなみにこの毛布はディノがテレビショッピングで大量に買い込んだ一品だ。返品はしなかった。
いつもよりあったけえのは毛布のおかげもあるけどディノがとなりで寝ているからだ。
「……」
オレはまだ寝ているディノの寝顔を覗き込んだ。いつもならディノのほうが先に起きることが多い。というよりオレが先に目が覚めても、ディノに起こしてもらうまで寝たふりをしている……ことの方が多いというべきか。まあ甘えてる自覚はある。あんまりやるとフェイスにほどほどにしたら、なんて言われるのでうん、まあこれでもウエストのメンタ―なのでこれからは自重する。たぶん。
それはともかくとして。ディノの寝顔は落ち着いている。ここに戻って来たとき、ディノの寝顔は険しいもんだった。…四年間ディノは、安らかに寝れていたのだろうか。そう思うとオレはシリウスの胸倉をつかんでぶん殴って問いただしたくなって。でもそういうふうに寝れない夜のあとはきまってディノがごめんと謝るので、オレはなんでもないような、普通の、ディノのピザに胸やけしているような顔をしてあくびをしてみせたもんだ。ディノは人の心を察するのは並以上にはできるので、オレのそんな演技はお見通しだろうけど、オレだってそれなりに腹芸は出来るので、お互いに気がつかないふりをして平和な日常ってのをすごしているうちに、ディノの寝顔はだんだん落ち着いてきた。たまにこうしてなにかするわけでもなく、オレたちはいっしょのベッドで寝ている。朝も昼も夜まで一緒にいて、それが苦にならないのはディノだけだ。
「……ぴ」
ディノがもぞりと身じろぎしてなにか寝言をいった。たぶんピザの寝言。
そろそろ起きるか。もしかしてもう起きてるか。オレはどっちでもいいので、ディノのおでこにキスをして、ベッドからそろりと抜け出した。
「さむ」
オレはひんやりした床に悲鳴をあげつつ、リビングにいって、コーヒーをいれたりピザとかパンを用意していると、暖房で温まったリビングにジュニアとフェイスがやってきた。
「あれキースが先に起きてるの?」
「めずらしいな、雪でも降るんじゃねーの」
とふたりに言われてる。
「おまえらなあ。オレの朝飯いらねえのか。やらねえぞ」
「ごめんごめん、キースありがと。たまごは半熟にしてよね」
「キース!おれはカリカリだぞ!!」
メンター使いの荒いルーキーどもは、そんなことをいいつつ洗面台にいった。あいかわらず洗面台をつかう順番でぎゃあぎゃあとうるせー。
とピザが焼けるタイミングでディノもリビングに来た。
「おはようキース、ピザ?」
「おう」
ディノのちょっと恥ずかしそうな顔をみて、オレはさっきディノが目覚めてたんだなって思ったけど、オレも恥ずかしいのでなにも言わず、皿にピザを乗せる。そしてオレはなんてことないような顔をしてコーヒーを淹れた。
食卓には今日もピザが並んでいて、朝からピザはきつい匂いだぞ、こっちはアラサーの胃なの!とか思うけど明日も明後日もピザが食卓に並んでいるといいなと、オレは思ったし。……ってかやっぱり恥ずかしいな~~。もうオレ、こっそりキスすんのはしばらくやめとこ。と思ったね。恥ずかし~~~~!!