「すっごくおいしいよ!キース!」
「おおそうか」
ディノの弾んだ声に、オレもうれしくなる。
ディノはナイフとフォークを使い、オレが作ったハンバークを試食している。ディノがナイフを突き立てると、ハンバーグから肉汁が出てくる。おー、なかなかいいぐあいに焼けたみてえだ。
「どっちがいいと思う」
ディノの前にはハンバーグが二皿。ソースをかえたやつが並んでる。まあもうすぐジュニアの誕生日なんで、ハンバーグをつくってやろうかと思って、休みの今日思いついたレシピを試してみたんだわ。オレは合間にいろいろつまみ食いしたので腹はふくれている。
「どっちもおいしいけど…うん、ジュニアはこっちのソースのほうが好きそう!」
「そうか」
キッチンからオーブンの焼けた音がして、オレはそっちに行く。オーブンからピザを取り出してディノの前に差し出すと、ディノの目がきらきらまぶしくなった。
「ピザ!!!ピザもあるの!!!!!」
「味見てくれ」
「おいしい!キースお店だせるよ!」
ぱくぱくとオレの作ったピザを頬張りながらディノはそういった。ディノやルーキーたちが喜ぶのでついつい手料理を振舞うようになって、ずいぶん腕があがってると思う。
「バカ言え」
とは言え、店をだせるなんて思ってはいねえ。つうかオレが手料理を振舞ってやろうなんておもうのは、ほんの少しの人間だけ。べつにどこのだれだかわかんねえヤツに食べてもらいてえなんて思わねえよ。オレは手動のコーヒーミルで豆を挽き始める。レトロな見た目のコーヒーミルはディノがテレビショッピングで購入したやつだ。
「あ!」
ピザを食べていたディノが声をあげる。
「ピザとハンバークいっしょに食べるとすごくおいしい!」
ディノはフォークに差したハンバークをオレに差し出してきたので、オレはかがんで口を開けた。それでいそいでピザを齧ると、たしかに。
「あ、いけるな」
今回のハンバーグソースとピザの相性はばっちりだった。これならジュニアもディノも喜ぶよな。オレは頭のなかでレシピを考え始める。大きなハンバークだと食べにくいから小さくして…
「ハンバーグピザ!いいんじゃないキース」
「そうだな」
オレはディノに返事をかえしながらキッチンに行き、コーヒーポットを火にかける。
用意してあるのはネルドリップ式のコーヒーセット。めんどくさい布式のフィルターを使うコーヒーセットを購入したのはもちろんディノだ。ネルドリップはディノの性分には合わなかった(手入れが面倒だ)ので、ディノがコーヒーを淹れる時には、インスタントかドリップパック。
で、ジュニアもフェイスもめんどうなコーヒーを淹れることはなくて、必然的にオレしか使わないものになっている。
オレはコーヒーサーバーとカップに一度湯を注いで温めて置いた。ちなみにこのいい感じのコーヒーカップを買ったのは…言うまでもなくディノだ。
挽いたばかりのコーヒー粉をネルドリップにセットして、コーヒーポットの湯を注ぎ始めた。この注ぎ口が細いコーヒーポットは手になじんで気に入っている。湯を注ぐと、コーヒーの真ん中がふわっと膨れる。とぽとぽとコーヒーがサーバーに落ちていく。ちょうどディノがピザを食べ終えて「ふう」と一息つくころにコーヒーが出来上がった。カップに二人分のコーヒーを注いで、オレも椅子に座った。
「ああおいしい。キースのごはんずっと食べていたいよ」
「そうか」
にこにこ笑っているディノにそういって、オレもそうだといいなと思う。オレの作った飯以外食べるなよ、なんてバカみたいな言葉をコーヒーとともに飲み込んだ。
「キースってなんでも作れるんだな」
「そうか」
「だってこのあいだ、ピザだって職人さんみたいにくるくるして作ってただろ」
「ためしにまわしたらちょっとできただけだ。サイコキネシスで」
「お蕎麦だって打ってたし」
「おまえが蕎麦打ちセット買うからだろう。もう買うなよ」
「う、」
「なんか買ったのか」
「ごめんなさい!お寿司屋さんセット……買っちゃった」
「はあああ?」
「でもでもお寿司だとブラッドが喜ぶし!」
「握れねえよ」
「そうかなキースだったらできるんじゃない」
「ブラッドに握らせろよ…ぶっ」
オレはブラッドがお寿司屋さんの恰好をして握っているとこを想像して、コーヒーを拭いた。
「似合うし……」
一度、笑いのツボに入ってしまうとお寿司屋さんのブラッドが頭のなかをかけめぐって、だめだしばらく笑いがとまんねえ。たすけてくれ~
そういうわけで、コーヒーを飲み終えるまでオレは笑い続けていたのだ。オレは布のコーヒーフィルターを揉み荒いしつつ、次はディノ達になに食わしてやろうかなと考えて、まあいい気分で鼻歌を歌った。