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    mame

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    mame

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    # 絶対に被ってはいけない千ゲンkiss
    企画参加作です。
    ※千→ゲ(額)
    ※付き合ってない
    ※造船期間中/百物語ねつ造有り
    素敵な企画ありがとうございました!

    「本当に本当に申し訳ないんだけど、黙ってる方が迷惑かけると判断したので自己申告します」

     ラボに入ってくるなり、ぺこりと頭を下げたゲンにさすがに作業の手を止め千空は相手をみた。丸い白黒頭のつむじが視界の中心に入る。そういえば初めてつむじを見たかもな、なんてどうでもいいことを思う。
     千空は常々思っているのだが、あさぎりゲンという男は姿勢がいい。こうやって頭を下げている姿など初めて見たが、やはりこれもきれいなお辞儀だった。口で相手を丸め込み自分の思うがままに誘導してしまう実力者だというのに、そんな男が頭を下げている。一体この状況はなんだ――千空の眉間に自然と皺が寄る。
     怪訝な顔をしたままゲンを見やっていると、顔を上げたゲンと目が合う。あまりにも情けなさを顔の全面に出していて、これもメンタリストの技術のひとつなんだったら拍手ものだ、だなんて考えているとゲンが短い眉を下げながら口を開いた。

    「情けないことにね、いまから発熱するっぽい」

     そんな言葉とともに、ゲンの肩ががっくりと落とされた。珍しく崩された姿勢に、またレアな姿だなとぼんやりと考えて、千空の方もレアなことに思考が一瞬とまり、レスポンスまでに奇妙な間が空いてしまった。

    「」

     そして飛び出したのは驚愕の声だ。肩眉を跳ね上げ、頬がひきつる。発熱予告なんて、初めてされた千空である。そもそも発熱。ハハ、とそんな千空を前にゲンが表情に苦いものを浮かべるのでこれが冗談などではないことをすぐに把握した。
     少し待っておくようにゲンに告げ、薬品を触っていた手をしっかりと洗ってから、ゲンの正面に立つ。その間もおとなしくゲンは千空を待っていた。

    「なんで発熱するってわかった」
    「扁桃腺がね~……」
    「ちっと顎上げて口開けろ」

     千空に言われるのが分かっていたのか、ゲンはぱかりと口を開けて千空に口内を明け渡した。無防備な口内を覗き込めば、痛々しい赤に千空は顔を顰める。これは痛いはずだ。
     
    「結構腫れてんな……」

     閉じて良いぞ、と告げるとゲンが居た堪れなさそうに視線を下に落としてからこくりと頷いた。白くなったりはしていなかったのでウイルス性などではなさそうだが、と自身の顎に手をあて考えているとゲンが「昔からなのよ」とポツリといった。

    「昔から?」
    「そ。扁桃腺腫れるタイプでね。年に一回くらい腫れて発熱して、その中でも数年おきに盛大に腫れるから、重度じゃないけどもう切っちゃう? ってかかりつけ医と話してたんだけどねえ〜……切っとけばよかったなあ」

     喋るのも痛みを伴いそうな腫れ方だ。つまり扁桃炎か、と千空は納得する。発熱頻度がそう高いわけでなければ無理な手術も進められない。そもそも手術となれば入院も必須な治療となったはずで、芸能で食っていた人間ならばスケジュール調整なども難しいだろう。
     石化からの復活時の治癒はここには働かなかったのか、など色々考えることはあるが、とりあえず今は横に置いておくことにした。
     
    「ジーマーでメンゴ〜……昨日から様子みてたんだけど多分もう腫れ引かないから、本格的に腫れる前に先手うって寝とけばマシになると思うので今日はお休みください」

     もう一度ぺこりと頭をゲンに下げられ、千空は思わず顎を引いた。昨日から痛みを我慢していたらしいことにも、ここまで丁寧に頭を下げられることにも、なんだか心苦しさを感じる。
     はあ、とため息を吐いてからゲンの名前を呼ぶ。顔を上げたゲンに小さく笑ってから尋ねた。

    「熱はいつもどれくらいまであがって、どれくらいで下がんだ」
    「薬飲んだら一晩で下がってたかな。のどの痛みは一週間くらい残るかな……熱の上がり方は三十九度代くらいまで?」
    「じゃ解熱鎮痛剤いるな。あとで持ってくから天文台で寝とけ。俺の寝具も使っていい」
    「は~~~い。お言葉に甘えてお借りします~」

     話している間もおそらく熱が徐々に上がってきていたのだろうゲンは、千空の言葉に覇気なく頷いてから背中をみせラボを出た。心なしかいつもよりも小さく見えて、調子が狂う。力なくはしごを上る音が聞こえて、梯子から落ちやしないかと千空は頭だけラボから出して天文台を見た。ちょうど扉へゲンが入るところで、その後ごそごそと身支度をする音が微かにし、少ししてから音がやんだ。どうやら無事床に就いたらしい。
     自身の頭を二度ほど強く掻いてから、千空は作業台に向かい、危険な薬品や器具を片付けてからラボを出た。
     陽射しが眩しいほどの晴天だ。造船作業も進む、そんな一日。千空はここ最近のあさぎりゲンのことを考えた。
     整備されていない雪道の東京箱根間往復全力マラソン、リリアンの声帯模写で喉を酷使、状況もメンバーもギリギリだったとはいえ特に功労者だったゲンはそのまま農耕作業だけでなく各所のメンタルケアに回っていた。千空自身も司のコールドスリープの件で自ら背負った荷物をさらっといくつかかっさらわれたりした。そしてトドメのフランソワと再び東京箱根間無休マラソン。
     ウイルス性でないのであれば疲れが出たか、と腕を組む。あの調子だったら、まともに昨日から食事も出来ていないのではないだろうか。さすがにその胃に解熱鎮痛剤をぶち込むのはキツいだろう。ラボから出た所で腕を組みながら考えていると、芯の通った強い声が耳に入る。

    「どうした千空、悩み事か?」
    「コハク」

     大きな瞳が千空を見ていた。手には大きな壺。毎日ルリのためにコハクが運んでいた温泉は、いま定期的に老人たちの足湯のために村にコハクが運んでくる。どうやら今日は足湯の日らしい。相変わらずの怪力に乾いた笑いを浮かべながら千空はコハクなら問題ないだろう、と判断した。

    「メンタリストが体調崩したらしくてな」
    「ほーう? あの男、ズル休みじゃなかろうな?」

     天文台を見上げた千空に、ゲンが天文台で寝ていることを察したのだろうコハクが疑いの目で同じところへ目をやる。その反応にハッと息を短く切って千空は言葉を続けた。

    「いや、ありゃしっかり発熱してる」
    「む、そうか……無礼なことを言ってしまったな」
    「あいつがそういうキャラでいようとしてんだ、その反応が正解だろ」

     すこししょんぼりとしたコハクに首を横に振ると、コハクが眉尻を下げて苦い笑いを浮かべた。
     出来るだけサボりたいのは事実かもしれないが、結局しんどい作業を請け負っているのがこの科学王国においてのあさぎりゲンだ。石化前はきっとうまく生きてきただろうに、ストーンワールドで復活して以降、あの男は貧乏くじばかり引いているなと内心で千空は笑ってやった。発端は司がゲンを千空の元に寄越してからだ。千空としてはあの日がゲンが来てから、なにかと運が回ってきている気がするのだが、反対にゲンは目覚めてからすぐに貧乏くじを引いたことになる。

    「サルファ剤を使うのか? なにか作業が必要なら手伝うぞ」
    「サルファ剤使うほどでもねェはずだ……まあ拗らせたらそれこそサルファ剤の出番になっちまうから、その前に手は打っとかなきゃだな」

     解熱鎮痛剤とは別に、胃になにか入れて、喉の負担にあまりならないもの……とコハクに説明すると、コハクが千空と同じように考えるポーズをとってから、あ、となにかに思い当たったらしく言葉を紡いだ。

    「石神村では体調を崩すと飲むものがある。それなんかはどうだろう」
    「どんなんだ?」
    「材料はターコイズが備蓄しているはずだ。声をかけてみるか?」



      *  *  *



    「メンタリスト、起きれるか」
    「んー」

     天文台に入ると、塊が視界に入った。どうやら浅いところで微睡んでいたらしい。寝具を首までしっかり被って目を閉じていたゲンに声をかけると、先ほどよりも掠れた声がかえってくる。
     気だるげに目蓋を押し上げ、そして上半身を起こしたゲンの隣に千空が腰を下ろすと、ゲンが千空の持つものに興味を示した。

    「いい匂い。なにこれ?」
    「葛根と生姜と蜂蜜と蜜柑ぶっこんだやつだ」
    「え、バイヤ〜……そんなん作れたの」
    「村では昔から風邪ひいたらこれ飲んでるんだと。葛根しっかり備蓄しててこっちが驚いたわ」

     木で出来た盆にのせた湯呑から漂う匂いに、鼻をすんすんとゲンが動かすので千空は小さく笑う。食欲がないわけではないか、と胸を撫でおろして湯呑をゲンに渡した。それを両手でそっと受け取ったゲンを確認してから、手を離す。

    「もしかして百物語?」
    「だとよ。抑えるとこ抑えてんだよな、あの親父」
    「さすがだねえ、千空ちゃんパパ」

     コハクが千空に教えたのは葛根。葛の根だ。漢方として三七〇〇年前もメジャーだった。身体があたたまり、発汗を促す効果がある。民間療法として伝えるにはベストだっただろう。
     肯定も否定もしないけれど、ゲンに百夜を誉められて悪い気はしない。

    「会ったことないけどさ〜、千空ちゃんが風邪ひいたときとか千空ちゃんパパめちゃくちゃ心配してそう」
    「正解だ。テメーが寝ろってくらい毎度慌ててたな」

     ちみちみと湯呑に口をつけながら、乾いた声でゲンが尋ねてくる。熱で潤んだ目が辛そうだなと頭の隅で考えながら、百夜との記憶を辿る。足は早々に胡坐をかいた。

    「いつもなにしてくれてたの?」
    「卵粥作って、フルーツ缶用意して、枕元に2Lスポドリ。毎度冷却シート買ってくるから冷却シートの在庫が常になくならねえ」

     千空が肩をすくめるとゲンがくすくすと笑う。

    「んで、俺が寝るまでずっと部屋にいたな。ガキの頃はまじないだってデコにキスしてきてたが」
    「あはは、最高のおまじないじゃない」
    「いや男親と息子だぞ。距離バグってんだろ」

     楽しそうに笑顔を見せるゲンに即座に否定を入れる。そんな千空にゲンは柔らかな笑みを浮かべながら、いつもよりもゆっくりのペースで話を続けた。

    「体調わるい時に心配してくれる人がいるっていうのは自尊心が守られるのよね。大切にされてるって自己肯定につながるから」

     湯呑を両手で持ち、肌掛けの下で足を三角に曲げ、ゲンは歌うようにしゃべり続ける。

    「弱ってる時につけ込むとかいうじゃない。好意の自尊理論っていって名前までついてるんだけど、でもさあ、そういう裏なんてな〜んにもないストレートな好意じゃんね、千空ちゃんパパのそれ。ジーマーですごいなあ……おでこにチューなんて典型的な無償の愛の形じゃない」

     こんなときまで千空のメンタルケアをしてくれるらしいゲンに少し呆れる。同時にむずかゆさも感じた。親子間の話をこんな風に表現されるなんて、まさにガラじゃないのだ。
     どう反応するのが正解か、と千空が考えている内に、けほ、と小さく咳をひとつしたゲンがメンゴと謝った。顰められた顔に喉の痛みが出ていることに気付いて、千空は無理して喋んな、と苦笑するしかない。そんな千空にゲンも苦笑を浮かべる。

    「うつりはしないだろうけど、長居は無用だよ。ジーマーでありがとね、千空ちゃん。体調もどったら自分でも言いに行くけど、コハクちゃんとターコイズちゃんにもよろしく……」

     湯呑の中身が半分以上なくなっているのを確認してから、千空はしょうがないなと頷いた。おそらく千空がここに居る限り、ゲンはしゃべり続けるだろう。さっさと解熱鎮痛剤を飲ませてから撤退するのが良い。そう判断して、行動に移す。
     湯呑を受け取って、薬を飲ませて、ゲンを横にさせ、乱雑に寝具をがばりとかけると、ゲンが乾いた咳混じりに笑った。力のない笑みがあまりにも慣れない。大怪我を負いもっと弱った姿をみているというのに、あのときとは重ねた時間が違うのだ。感じ方だって変わる。そして、ゲンの考えていることだって、少しは。
     ゲンの前髪がはらりと流れ落ちた。まるい額が現れる。千空は吸い込まれるように、そこに唇を落とした。
     時間にして一秒もない。それだけの接触に、ゲンは目を満月よりも丸くして、千空のことを凝視していた。ハッと鼻で笑って、千空は言う。

    「守られたか、テメーの自尊心は」
    「ま、守られました」

     丸くしたまま、掠れた声でゲンがそんなことを言うので、千空は少し満足した。
     昨日の時点で体調不良を様子見していたことも、やけに丁寧に今日の休みを申し出てきたことも、なんだか気に食わなかった。自分のことが一番大事だとのたまうその口で、千空のことばかり気にして、喉の調子も顧みずしゃべり続ける。
     そんなに、頑張らなくたって、別に。

    「テメーは替えがきかねェんだよ。さっさと寝てさっさと治せ」
    「ええ〜……同盟相手との距離バグってるよ~……」
    「これでいいんだろ、メンタリスト様」
    「熱は確実にあがりました」
    「なおさら寝ろ、ばか」

     ぱちぱちと瞬きをしてゲンが間抜けな言葉を続けるので、千空は呆れたように笑ってから腰をあげた。足元から情けないへろへろの声でゲンがまだ話し続ける。

    「千空ちゃん、好意の自尊理論ってね、言ったら、弱ってるときに優しくされると相手を好きになっちゃう〜ってやつなんだけど、これ、千空ちゃん的に大丈夫?」

     その答えは治ってからだ。なにせ千空もいま己の気持ちに気付いたので。本当に非合理的だな、といっそイラつきながら、ゲンの質問を放っておいて千空は天文台を出たのだった。
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