正月ばくとど「餅何個いく？」
「3。爆豪は？」
「俺2。エビも2」
「あ、ずりい」
「ハッ、炬燵の虫になってる奴にはなんの決定権もねェんだよ」
「ぐぅ……」

　年末年始特別警戒週間が終わり、やっときた正月休み。夜勤明けそのままふたりの休みを合わせられたのは幸運だった。ただ不幸だったのはふたりして夜勤明けだったことだ。
昨日の朝はあまりにも寒くて、爆豪は轟の左側を譲らなかった。両手はカイロを握りポケットinで肩は上がり肩凝り首こりを育成し続ける。そんな爆豪を不憫に思い人間ストーブ化を甘んじて受け入れていた轟が、哀れなものを見るような目で爆豪を見てきた。
　家に帰ってもこの一週間まともに帰宅していない家は、ずいぶん寒いだろう。暖房をつけるにしても温まるまで時間がかかる。当たり前のように眉間に皺がよってしまう。
「……炬燵買ってくか？」
　だからあまりにもその提案が爆豪には魅力的だったのだ。
「買う」
　ふたりでそのまま開店したての家具屋へいき、二人用の丸い炬燵セットを購入。座椅子もふたつ。そのまま馬鹿でかい荷物をかかえ、徒歩10分の自宅へ。着替えもしないまま２人でリビングからローテーブルを移動させ、段ボールを開封し、淡々と組み立てて、気づけばリビングに立派な炬燵が出来上がっていた。
　そしてシャワーを浴びて簡単に掃除をして、こたつに入って暖かさを享受した爆豪である。いい買い物をした。轟のやつ。なかなかいい提案をした──そう思っていたのだが、これがまあ、轟が動かなくなった。怪我とか病気とか、そういうのではなく。もちろん、炬燵の魔物に捕まったのである。
　おせちなどはないがせめて正月らしく雑煮でも食うか、手伝えと爆豪が声をかけて、轟が返事をして、はや10分。キッチンに立つ爆豪の隣に轟はいない。こたつから出てきていないのだ。
　座椅子に座り、腰を曲げこたつ布団を腹まで被り、天板に頬をぺちゃりと落としている轟は、大変だらしない顔をしている。抱かれたいプローヒーローランキング上位常連のそんな姿を目にする人間が自分だけだと思えば、足元が冷たいキッチンに立つのも正直やぶさかではないのだが。それはそれとして、この後年末にできなかった大掃除をやるつもりだし、買い物だって行きたい。このままでいくと爆豪が一人で大掃除をやり、買い物もひとりでいくことになる。できないことはない。もちろん、爆豪なので。ただその手が足りないのは単純に面倒である。
　ガスコンロで餅を焼きつつ、だし汁に冷凍していた椎茸やエビを突っ込んでいく。緑がないので彩りが寂しいが、買い物ができていなかったのだからしょうがない。
　ぷくりと膨らむ餅をガラス越しに見守りつつ、爆豪は轟を炬燵から引きずり出す方法を思案する。つまり炬燵より魅力的なものを鼻の前にぶら下げてやればいいわけだ。
「……出久にもらったみかん」
「お、あるのか」
　嬉々として轟がリビングから声を上げる。
「この前買って食いそびれてるダッツ」
「おお……雑煮食った後だな」
　ちらりと轟を見ると頬が天板から離れていた。餅をひっくり返してから、爆豪はもう一息だなと考える。ふと見えた轟越しのリビングの窓の外はずいぶん青い空が広がっていた。そういや買い物に行くんだよな、と思い至り爆豪は鍋の火を止めた。もちもいい具合に焼けている。
「年越しそば食えんかったし、年明けそば」
「…………なにがいいたいんだ、爆豪」
　十中八九わかっているだろう声色で返された言葉が笑える。早くも正月ボケかもしれない、なんて思いつつ爆豪は笑った。
「お椀と箸、飲み物だせや。俺ァ冷酒」
　引き出しからオタマを取り出してからそういえば、轟がキュッと複雑そうな顔をして、渋々炬燵から体を出した。まるで天照大神を大岩から出したような達成感を味わいつつ、爆豪は声をあげて笑った。おそらく、新年初笑いであった。