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    mame

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    mame

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    ルサン(ブロマンス)前提の👺と🕒、少しだけ🍊と👒の4/1のお話。🇯🇵ノ国後の謎時間軸です。

    #ルサン
    lucerne
    #腐向け
    Rot

    「ウソップ、誕生日おめでと」
     朝、寝室から出るとナミと鉢合わせた。まだ半分寝ている寝ぼけ状態のウソップは、顔を合わせるなりナミからそう声をかけられ、歩みをぴたりと止めた。
     そうして数秒その言葉をゆっくりと噛み砕いてから「今日おれ誕生日か!」と表情をぱあっと明るくし、口角をあげる。ナミはしょうがないわね、とばかりの表情で腕を組んでいた。
     この麦わらの一味でまず最初に誰かの誕生日を祝うのはナミだ。航海士という役割柄、日付も意識するし、新聞だって読む。日付けの話題を出すのだっていつだってナミだ。そしてナミは誕生日祝いの言葉をかけるとき、絶対にふたりきりのときに声をかけてくる。まるで、日付を意識している自分の特権かのように、誇らしげに声をかけてくるのだ。ウソップは、年に一度見ることのできるナミのその顔を見るのが好きだ。最初にストレートに誕生日を祝う言葉を送ってくれるナミの表情が好きだ。
     そうしてこの一味は決まって誕生日の朝決断を迫られるのだ。ナミからの誕生日の言葉をありがとうと受け取りその日をしずかに過ごすのか、はたまたナミとの会話のあと、朝食時に船長に自分の誕生日のことを話すのか。
     もちろん話せば夜は宴になる。麦わらの一味の船長は常に宴の理由を探していて、やれ雨続きが終わり晴れになったから宴だ、やれフランキーが船の修繕を終えたから宴だ、やれチョッパーの薬の調合がうまくいったから宴だ、やれ退屈だから宴だ、と不定期かつ高頻度で騒ぐ。その船長に誕生日だと言おうものなら全力の宴が待っているのだ。
     そんな船長の笑顔を思い浮かべながら、ウソップはダイニングにつながる扉を開いた。常ならロビンやブルックが紅茶を飲んでいたりするのに、今日はテーブルもカウンターも空席ばかり。珍しく、一番乗りだったようだ。
     とたんにウソップの口角が両端上がる。空席ばかりでも、無人ではない。この時間帯にそれはあり得ない。
     食材をリズムよく刻む音。いままさにオーブンで焼かれているらしいパンの香ばしい香り。いろんなもので満たされるこの空間を作り出す、我が船自慢のコックがいるのだ。つまり、そんなコックを──サンジを、ひとりじめできると理解したから、ウソップは笑わずにはいられなかったのである。
    「サンジ、おはよう!」
    「おう、ウソップ。珍しくはえーな。おはようさん」
     スープをかき混ぜながら振り返ったサンジは、すぐに鍋に視線を戻した。少し考えてから、ウソップはテーブルではなくカウンターの席に腰を下ろす。こっちのほうがキッチンに立つコックとの距離か近い。サンジと話したい人間は、自然とこちらに座ることになるのだ。
     さて、話は変わるが、東の海にはエイプリルフールというものがある。ウソップの誕生日である日と同日であるこのイベントは、ウソをついていいというウソップにお誂え向きのものだ。東の海のイベントなんだと説明したら自然と一味全体の周知のイベントとなった。
     さらに話は変わるが、このすらりと姿勢良く立つサンジの背中をここでこんなふうにウソップがゆっくりと眺めるのは随分と久しぶりだった。
     なにせ、サンジとウソップはずっと別行動だった。ワノ国を無事出航し、ようやくいま、一味は日常を送っているのである。
     人の言うことを良くも悪くも正面から受け取るのが我が船の船長だ、とウソップは愛すべき船長のことを評している。日付のことをナミ以外あまり把握していない一味とはいえ、気付く人間だっている。つまり我が船長は簡単に人の言うことを信じるので、年に一度のエイプリルフールなんて、日付に気づいた船員の格好の餌食となるのだ。
     だというのに、我が船の嘘をつくのがやたらとうまいコックの嘘を、毎回容易く見抜くのは、その船長と相場が決まっている。
     エイプリルフールだろうと、そうでなかろうと、だ。
     そして、嘘を見抜かれて悔しいだろうコックのタバコを咥えるその口元が、ほんのり緩んでいるのも、毎回のことなのである。
     だから、ウソップは信じていた。我らが船長のルフィが、必ずサンジを連れて帰ってくると。またサンジの作る美味しい料理を、船でわいわい食べる日を取り戻してくれると。
    「サーンジくん、今日がなんの日か知ってるか?」
    「そういう問答はウチは船長担当だろ」
    「ちょっとくらい良いじゃねえかよォ」
     忙しなくキッチンを動き回るサンジが巨大オーブンの前に立った。厚手のミトンを嵌めてオーブンを開け、天板を引き出す。ウソップが数年前に作ってやったミトンをサンジは随分気に入ってくれていて、ずっと綺麗に使ってくれている。天板にのっている四角いブリキの焼き型から狐色に焼けた山が飛び出ていた。山食パンである。今朝はトーストか、とよだれが口の中に溢れて、ウソップはごくりと飲み込んだ。
    「先にメシ食うならもうトースト焼くが、どうする」
     焼き型をひっくり返すとストンとふかふかなのが見るだけでわかる山食パンがぽすんと調理台に飛び出して、ウソップはそれを見るだけでバターかなジャムかなと考えてしまう。
    「みんなと食べてえけど、焼きたて捨てがたいよなあ。だってそんなにふかふかなんだぜ? おれに早く食べてくれって言ってきてるよ、そいつ」
    「パンが喋るかよ。まあ、とりあえず水でも飲んどけ」
     金色の髪の毛から除くタバコが楽しそうに揺れていた。それを視界に入れていると、ウソップの前にことりとグラスが置かれる。水といってもサンジが冷蔵庫に戻した水差しにはこの船でナミが育てるオレンジとロビンが育てるミントが入っている。ビタミンも摂取できてリラックスもできるフレーバーウォーターだ。キンと冷えたグラスを口に運べば爽やかな香りが鼻を抜け、ウソップの起き抜けの喉を潤した。
     水ひとつにしたって、シロップ村にいた時よりも贅沢な口になったもんだと思う。どれもこれもこのチンピラもびっくりの態度の悪さを誇る海の一流料理人のせいだ。繰り返しになるがその料理を、しばらく食べられなかった。
     一味が離れ離れになった修行の二年間は、しょうがなかった。再会の日が決まっていたから、我慢できた。再会した時のご褒美だと考えれば耐えられた。しかし、今回は違ったのだ。当たり前に合流すれば食べられると思っていたサンジの料理。ドレスローザの死戦を潜り抜け、どんな料理を食べられるだろう。きっとお疲れ様の意を込めて宴が開かれるはずだと期待していたのに、ゾウにサンジはいなくて、しかもトラブルに巻き込まれていて。いつ帰ってくるか、そもそも帰ってくるのかわからないときたもんだ。
     だから、ワノ国でサンジの料理が食べられた時。ウソップは本当に、心の底から嬉しかった。
     女にだらしなくて、男にはドライで、なんなら酷い扱いで、それでいてなんだかんだ甘くて、優しくて、強くて、なんでもできる。
    そんな、ウソップの仲間の、サンジが帰ってきたと、実感できたから。
     だから、つまり。ここまで色々話してきたけれど、結局何が言いたいかというと。
    「サンジくん、きょうな」
    「その話まだ続いてたのか」
    「聞いて驚け、おれ様のお誕生日だ」
     水の入ったグラスをカウンターに置いてあっさりと告げると、何を話しかけても動きを止めることをしなかったサンジがスイッチが切れたように固まった。ギギギ、と油を差し忘れたブリキ人形みたいな動きでウソップを見てくる。若干青ざめているのを、ウソップは肩肘をカウンターにつき胸のすく思いでみやった。
    「……つまり? 明日は?」
    「ジンベエの誕生日だな」
    「明後日は?」
    「ブルックの誕生日だなあ」
     サンジの質問に次々とウソップは答えていく。そう、四月はジンベエが一味に加わったことで誕生日の者が三日連続いることになったのだ。ワノ国を出航してすぐの宴の最中に発覚したので、これはみんなの記憶に新しい。サンジももちろん例にもれなかったため、分かりきったことの再確認となっているはずだ。
    「ウソップおまえ、この船が前回いつ寄港して次いつ寄港するか知ってるか?」
    「十日前に寄港して、次は明々後日って聞いた」
     この質問から導き出されるのは、いま、食料はあれど潤沢すぎないということである。
    「……ルフィには?」
    「もちろん、起きてきたら言うさ!」
    「だろうな!!」
     サンジがわっと頭を抱えるものだから、ウソップは腹をかかえて笑い出してしまった。テメェそれは寄港のときに言っとけよ! 食糧足りるはずねェだろ!? なんて騒ぎ出すから、おれだってさっきナミに言われて気付いたんだと答えればナミさーん! といつもとは違う悲痛な声でナミを呼び始める。
    「なあ、思ったんだけど。サンジお前、ナミと一悶着あったんだろ?」
    「それについてはナミさんがなにも言わない限りおれァなにも言わねえぞ」
    「別にそれはいいんだが。寄港の時点でナミは航海中におれたちの誕生日が連続で入ることわかってたはずだろ」
    「毎回一味みんなの誕生日を祝ってくださるんだ、当たり前だ……ろ…………、あ……そういうことか……?」
    「そういうことだろうなァ」
     くつくつと息を詰めながら笑いを抑えて、ウソップはナミの姿を思い出す。今日は特に酷く楽しそうにお祝いを言ってくれた。ナミはウソップがサンジに誕生日のことを言わないわけないとわかっていたのだ。だから、サンジが自然と三日連続で訪れることになる宴の食材が足りないことに青ざめるのもわかっていたはずで。つまり、これはナミのささやかな復讐なのだ。
     そのナミの企みはナミからなにも聞かされていなかったが、別のことを別れ際告げられた。
     がっくりと肩を落としたサンジがぐううと唸り出すのを眺めながら、ウソップはなんでもない顔をして水を一口含む。おいしい。
    「お前、おれに黙っとく選択肢はなかったのかよ」
    「ねえよ。サンジが好きなもん作ってくれる絶好のチャンスを逃すやつなんてこの船にいねェだろ。ルフィに言わなくても全員おまえに誕生日のこと言ってるのおれァ知ってるぞ」
     ウソップがそう言えば、タバコを咥えたサンジの唇がつんと突き出された。じとりと睨みつけてくる視線は普段震え上がってしまうのに今日はまったく怖くない。
    「じゃあルフィに言わなくてもよ……」
    「ばっかだなァ、サンジ」
    「あ? おろされてェか?」
     ウソップはこの船で誰よりも長い鼻をさらに高くして、誇らしげに言い放った。
    「お前の料理、みんないっぱい食いたいんだよ」
     ひひひ、と歯を見せて笑うと、サンジがタバコを指で挟み、灰皿に押し付けた。そしてウソップを見ることなく新しいタバコに火をつける。大きく息を吸い、肺に入れた煙を長く大きく吐き出した。多分、というか確実に、ため息も混ざっていた。
    「……ナミさんに近くの島に寄ってもらえねェか相談する。無理なら三夜連続小麦粉の宴だ」
     ぺんぺん、とふかふかの山食パンを叩いたサンジにぎゃははと笑ってから、ウソップは「それでもいいぜ!」と笑う。食糧は常に航海日数より多めに仕入れられているのをウソップは知っている。宴の多い船だからこそ。だからと言っていくらサンジでも三連続の宴は想定してなくて、食糧はさすがに足りない。だから宴は限られた食材をやりくりしなければならない。それでも、このコックは全力で宴の料理を用意してくれるのだ。小麦粉の宴なんて、サンジが用意するなら楽しみになってしまう。大量にパンを焼くのか。それとも以前作ってくれたウドンを作るのか。パスタづくしだって最高だ──だけど、この話にはもうひとつ続きがあって。
     そのとき。ダダダダダダと扉に向かって走ってくる足音が聞こえた。ウソップはサンジと顔を見合わせる。この時間帯に珍しい音だが、間違いなく。
    「ウソップー!! 今日誕生日だって!? 宴やるぞー! あとおめでとう!」
    「おおい、ついでかよ! でもありがとうな、ルフィ!」
     バタン! と勢いよく開いた扉から、船長が飛び込んでくる。当たり前のようにカウンターのウソップの隣に座ったルフィは、今日はふかふかパンか! 味見してえ! と騒ぎ出す。もちろん便乗してウソップもおれも! と口に出すと、今度こそ正真正銘のため息をつきながら、サンジがナイフをとりだし、パンの端両側へナイフを入れた。狐色で包まれたパンがぺらんと服を脱がされたかのように白い部分を見せつける。切り取った端を短冊型に切り分けて、サンジは軽くオーブンで焼いてから皿に盛った。フルーツジャムを添えてから、ウソップとルフィの間にどんとサーブする。
     目を輝かせ、ウソップとルフィが手を伸ばすのをタバコをふかしながらサンジが見つめてくる。きっと頭の中は食糧庫のストックをどう使うかフル稼働してるんだろう。ぱくりとパンの耳を頬張りながら、ウソップは思う。
     明らかに、味見を所望して、それが叶う確率が上がっている。しかもルフィがいると確率がぐんと上がる。
     ホールケーキアイランドからワノ国で合流して、カイドウを倒すなんてことを成し遂げてから出航して、そうしてルフィとサンジが一緒にいるところを見かけたとき、なんだかいつもと違うことにウソップは気がついた。ふたりとも無自覚に、否、多分、ルフィは意識的に。少しだけ、ほんの少しだけ、いままでよりも距離が近い。サンジの雰囲気だってなにかが違う。相手になにかしてやりたい。そんな空気が性格上サンジだけなら理解できるのに、ルフィにも漂っていたのだ。
     お菓子の国でなにがあったのかウソップは詳しくは知らない。サンジがよく知らない名前を手配書にくっつけて帰ってきた、それだけだ。ふたりの間でどんなやりとりがあったかわからないけれど、きっと傷付いただけの旅じゃなかったことはウソップにだって、その距離で分かった。それが、ウソップには嬉しい。
     サンジお手製のブルーベリージャムは食パンの耳によく合った。酸味がパンの甘味を引き立たせている。小麦粉の宴かあ、とさっきウソップにサンジが告げた言葉を思い出し、ウソップはくすりと笑った。隣にいるルフィも小麦粉の宴でも喜ぶんだろうな、と思いつつ。
     ──ナミ、ここらへんでいいよな?
     ここにいないナミに。おそらくわざとこの場にいないナミに、ウソップは心の中で問いかけてからにんまりと笑った。
    「ルフィ、お前ナミにおれの誕生日聞いたんだよな?」
    「ふん、ほうひゃひぇど」
     口いっぱいにパンの耳を詰め込んだルフィがコクリと頷いた。ごくんとルフィの喉が上下に動いたのを見届けてから、ウソップは尋ねる。
    「他になんか言ってなかったか?」
    「ああ。宴することになるから今日の昼前に近くの島近くに船寄せて食糧調達しましょって」
    「へ?」
     素っ頓狂な、それでいて間の抜けた声がウソップの耳に届いた。見ればきょとんとした表情のサンジがいる。そうして数拍。はっとしたサンジがウソップをゆっくりと見やった。きっと頭のいい我が海賊船ののコックは気付いたのだ。ウソップが、そのことを知っていたから、ルフィに発言を促したことを。
    「なあサンジくん、今日はなんの日だったかな?」
     ナミにハイタッチしたい気分だった。こんなに鮮やかにサンジにウソをつけたことは未だかつてなかった。
    「…………エイプリルフール」
    「大正解!」
    「クソッ鼻ッッッッッッッッ!!!!!!」
    「食糧盛りだくさんで三夜連続の宴を頼むよ、サンジくん!」
     高らかにウソップが告げると胸ぐらを勢いよく掴まれるがやはりまったく怖くなかった。
     よくわからないだろうに隣でルフィが笑っていた。おいしい食事と楽しげな船長。それだけでこの船に風は吹く。
     宴の買い出しはみんなで行きたいなと、ウソップはそんなことを思いながらぎゃははと笑った。
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