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    mame

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    mame

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    学パロ千ゲン
    ※お題箱リクエスト、エアスケブ
    ※💯がいます

    「……なんでここにゲンがいんだ」
     肩にかけてたトートバッグの紐がずるりと落ちる。冷たい風に晒されて鼻頭を赤くしながら帰宅した千空の自宅には、なぜか、高校の先輩と父親がコタツで蜜柑の皮を剥きながら談笑していた。しかも先輩はブレザー姿。明らかに学校帰りだ。
    「おー! 千空、おかえり!」
    「千空ちゃんお帰〜」
     リビングの入り口に立つ千空に軽く言葉を向けて、2人は続けていた会話を再開させる。早く手洗いうがいしてきなよ千空ちゃん、だなんて言われる始末で。
    「いや。いやいやいやいや、待て。ふたりして軌道を話に戻すんじゃねえ。どういうことだ」
     額を手で抑え眉間に皺を寄せ問えば、ゲンと百夜がきょとんとした顔で千空を見上げてくる。
    「なんでテメーが俺んちで百夜と和やかに蜜柑食ってやってやがる!?」
    「え、ちょっと意気投合しちゃって……?」
    「その前の段階の話だっての」
    「貰った名刺みたら石神で、もしかしてと思って聞いてみたら千空ちゃんパパだって発覚して……うーん、思春期ボーイには嫌だったかな?」
    「ちっげえ。どういう成り行きでここにいんだって聞いてんだ」
     珍しく会話がうまく運ばない。千空が入り浸る科学室に気まぐれにやってくる、学校で話す浅霧幻という3年の先輩は、こんなふうに腑抜けていない。一言えば十伝わる。からかえばからかい返される。会話の応酬が楽しい、素性がよくわからないミステリアスな、だからこそ解き明かすのが楽しい相手。それなのに。千空がぐっと言葉を詰まらせると、百夜がようやく口を開いた。
    「そこの公園にすげえストリートパフォーマーがいるって話、この前したろ? 今日のマジックが本当にすごくてな。思わず名刺渡して声かけちまったんだよ。で、話してたら寒すぎたから近いウチにお招きしたんだ」
     苦笑混じりのそれに、千空はここ最近百夜が夕食時に話題に出していたことを思い出す。曰く、大学から自宅までの道中にある公園で、夕方頃にマジックをパフォーマンスしてる高校生がいる、と。
    「あの話、テメーだったのか。つーかマジックって」
    「あ、千空ちゃんも聞いたことあったんだ? そうそう。放課後よくやってんのよ」
     驚いて問えば、あっさり答えられた。なにもない空間からぱらぱらとトランプを現しては消して、また現してはけ消してを繰り返す。手慣れた動作に目を丸くした。
    「ちょっと千空ちゃんがドア開けっぱなしだから冷えちゃった〜花摘みに行かせてもらうね」
    「花畑は出て左にある扉だぜ」
    「千空ちゃんパパありがと〜!」
     よいしょ、とコタツから抜け出てゲンが千空の横をするりと通り抜け廊下に出ていく。
     普段、西陽に照らされる科学室でしか会わない相手が、蛍光灯の下で明るい表情を見せているのがあまりにも違和感があった。でも、似合ってもいる。
     あたたかい部屋に残されたのは、親子ふたり。しかも百夜がじとりとした目で千空を見てくる。いたたまれない。
    「おーい、千空〜。もうちっと上手くやんねーと嫌われるぞ」
     コタツに頬杖をつきながら、百夜がしょうがねえなとばかりに頬の筋肉を引き揚げた。千空は深いため息をついて、ブレザーを脱ぐこともせずにコタツにずぼっと下半身を突っ込んだ。あたたかい。
    「っるせーよ、なんでバレてんだ……」
     密かに惹かれていた浅霧幻が自宅にいた。その事にわかりやすく動揺し、状況が理解できず少しキツいアタリになった。そりゃ百夜相手だったらバレるだろう。アイツがトイレから戻ってきたら謝るしかねえな、なんて肩を落とすと、百夜の苦笑いが深くなる。
     反省しつつ、そもそも百夜が高校生をナンパなんかするからだと腹いせに百夜が剥いていた蜜柑を横取りして頬張る。そんな千空を気にせず、百夜は目尻にシワを作りながら口を開いた。
    「しかも春にはアメリカ留学しちゃうらしいじゃねえか、がんばんねーと」
    「 アメリカ」
    「あれ、知らなかったか」
    「トイレお借りしましたー! って、あれ? どしたの?」
     リビングの入り口できょとんとするゲンと、しまったという顔をする百夜。そしてさらにややこしい事になったと頭をかかえる千空という異様な光景がそこには広がっていた。この状況を打開すべく、千空が絞り出した言葉は。
    「……そこは花摘み設定徹底しろよ」
    「え、メンゴ?」
     結局このあと三人は仲良く鍋をつつきあうことになるのだが、いまはまだ三人とも知り得ない事だった。
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