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    mame

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    mame

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    エアスケブ③
    千ゲン
    リク:酔っ払って素直な千と、普段とのギャップで赤面してしまうゲ

    そういえば成人式もできなかったなあ、とあっけらかんと笑ったのは大樹だった。怒涛の船旅を終え、石神村に帰還し、離れ離れになっていた面々も合流し、一息ついた頃の出来事だ。
     その大樹の一言が聞き捨てならないと立ち上がったのが石化前に成人を迎えていた面々である。石神村では成人の儀は二十歳ではないらしいが、説明すればそれは祝わなければ! と、こちらも大人たちが協力に乗り出した。準備もなしに大人にならなければならなかった子たちに、せめてものお祝いと区切りを、と思うのは当たり前だったのかもしれない。
     そうして祝われるメンバーの一員でもある杠に頼み込んで、快く衣装協力をしてもらうことになり、成人式が執り行われたのが本日。空は透き通るような青。息も凍るような冬のある日のことだ。
     成人式参加メンバーは石化から復活してから二十歳を迎えた人間。その中にはもちろん千空もいて、大樹、杠が纏う着物とよく似たデザインの袴を身につけていた。小っ恥ずかしい、などと悪態を付きつつ千空が幼馴染み達の晴れ姿を見て喜んでいるのは誰もがわかり切っていた。
     成人式、といっても大人の代表としてコクヨウが祝辞を述べた後はただの酒盛りだ。村の広場に大きなキャンプファイヤーのごとく火をくべ、その周りで王国総出で宴を始めたーーというのが、ここまでのゲンの回想である。

    「なーーーんでメンタリストはいつもの服なんだ?」

     現在。

    「テメーも復活後に成人したクチだよな? 袴はどうした? その羽織りが似合うんだ、ぜってー袴も似合うじゃねえか」

     ゲンは。

    「テメーばっかずりーんだよ、俺にもそーいういつもと違うの見せろメンタリスト」

     盛大に酔っ払い千空に絡まれている。

     頬をひくりと動かしながら、彼が持つワインが入ったグラスをすっと抜き取り水入りのグラスと入れ替えた。不満そうに千空が見てくるので、顎を引きながら左右に首を振りNOの意を伝えると、唇を尖らせ千空が無言で不満を訴えてきた。あーーーだめ、かわいい。

    「だいぶ回ってるみたいだね、千空」

     そこにビール片手に笑顔でやってきたのは羽京だ。明るいうちから始まった宴だが、すっかり陽が落ち、いまは広場の中心の大きな火の明かりでみんなわいわいやっている。
     椅子代わりの丸太に座るゲンと千空の横に座り、いる? と、椎茸の天ぷらを差し出してきた羽京も結構飲んでいるらしい。いつもより雰囲気が軽い。肩にしなだれかかってくる千空をそのままに、ゲンはありがたく天ぷらを頂戴した。

    「羽京ちゃん助けて〜」

     ごくりと天ぷらを飲み込んでから羽京に泣きつけば、千空をちらりとみた羽京はくすくすと目尻を下げて口角を上げた。

    「いいんじゃない? たまにはハメ外させても」
    「俺は!? 俺の立場は!?」
    「僕たちはゲンの成人を祝いたかったのに煙に撒いて祝う側に回ったじゃない。罰として甘んじて受け入れるべきだと思う」
    「ひぇ〜覚えられてるし! ってか俺の年齢なんで知ってんの……? 言ったことないよね?」
    「そういうコイツは19歳ってテロップ見た記憶がある人間、ここには結構いるからね」
    「あー……メンバト……」

     頭を抱えたくなるが、肩にしなだれかかっている千空の存在がそれを許さない。しかも至近距離で顔をぐっと近づけ「それだよ、羽京」と羽京の言葉に力強く頷くもんだから、ゲンはたまらない。千空ちゃんメンゴ、ジーマーで顔が近いし、ゴイスーに顔がいいの自覚して。勘弁してほしい。

    「テメー誕生日聞く度にはぐらかしやがって。いつまでたってもプレゼントやれねえじゃねえか」
    「えー、男は誕生日なんて自分から言わないもんなんでしょ?」
    「聞かれてんだから答えろっつーの。俺にも祝わせやがれ。自分だけあんなすげーもん渡してくれやがって。俺がどんだけ……」
    「ねえ、千空ちゃん。そろそろ寝よっか? 寝床まで送ってってあげるよ」
    「やだ、まだ寝ねえ。ここにいる」
    「熱烈だねえ、千空」
    「羽京ちゃん楽しまないの」
    「楽しむしかないでしょ、これ。すっごいお酒がおいしい」
    「羽京ちゃーーーん!?!?」

     味方が誰もいない。ゲンはしなだれかかるのを通り越して、ついにぎゅうぎゅうに抱きついてくる千空にいいから水飲んでと言うことしかできない。
     そもそも最初はここにもクロムとコハクとカセキとスイカがいたのだ。楽しくゲンも珍しく酒を飲んでいたのだが、幼馴染みで飲んでいたはずの千空が酒を片手に虚な目でやってきてから状況ががらりとかわった。登場するなり「まだテメーに祝われてねえ」なんて拗ねた表情で言ったかと思えば、ゲンの横を陣取った。そこから怒涛のゲンがなんで成人式に出てないのかという文句がはじまる。ボディタッチも多い。最初は千空が酔うなんて珍しいなと言っていた面々も、クロムはルリのとこ行ってくる、とその場を抜け、コハクはにまにま笑いながらスイカを連れてどこかへ行き、カセキはあとは若いもので楽しみんさいと微笑んで去った。いや楽しむもなにも、と途方に暮れていたところ羽京がやってきてこれだ。
     千空は物事をストレートにいう性質ではあるが、気心知れた相手にはわかるだろ、というスタンスをとっているため、関係が深くなるほど言動が雑になる。と、ゲンは思っている。
     わりと早い段階で千空の中でゲンへの発言は雑になった。それはゲンにとって誇らしいことでもある。結構科学王国や千空のために身体をはったり、培った口八丁を駆使したりもしたので。そう言った面を千空は評価してくれているのだろう。でも、だからこそ、千空から直接与えられるゲンへのポジティブな言葉が慣れないのだ。

    「ゲン、」
    「…………なに千空ちゃん」
    「話聞いてっか?」
    「ジーマーで聴いてる。そしてそろそろ本気で寝よ? 多分明日に響くよ」

     苦笑まじりに千空の背中をさすりながらいうと、ゲンの体に抱きついて肩に顔を埋めていた千空が顔を上げる。
     真っ直ぐに目を見て、酒のせいでいつもより熱を帯びた視線をぶつけてくるなんて、いままでなかった。心臓が、大きく跳ねた。嫌な予感がする。
     なにか、いまから、もしかして。

    「芸能人様にお戻りになっても、俺んとこいろよ」

     この子は、とんでもないことを。

    「テメーと疎遠になるのは、よくわかんねえけど、いやだ」

     最終的に呂律が回らず尻つぼみになった言葉。そのままゲンに抱きついていた腕の力が抜け、ずるずると千空の身体が下へ落ちる。慌ててゲンがその体を受け止め、持っていたグラスを受け取り地面に置いた。そしてせっかくの袴を整え、とりあえず臨時対応として自身の膝の上に寝かせたわけだが。わけ、なのだが。

    「ポリグラフすらも掻い潜った敏腕メンタリストが形無しだね、ゲン」

     羽京の持つ酒がとっても進んでいるようで、笑顔の羽京をゲンは睨みつけた。でも羽京の表情を見なくてもわかる。なにせ、パチパチと広場の中央で爆ぜる音がする火から、ここは随分遠い。感じる顔の熱さを、火のせいにすることはできない。心臓が耳のそばまで移動でもしたのか、ばくばくと存在を主張してくる。うるさくてたまらない。

    「あーーーーもーーーーーー」
    「先手打たれたね、こりゃ逃げらんないよゲン」
    「羽京ちゃん……」

     宴を楽しむ王国民たちの笑い声が響く中、ゲンは両手で顔を押さえる。膝の上には健やかに眠る千空。手を退けた視線の先には満面の笑みの羽京。あとちょっと背中に感じる視線はおそらく龍水とコハクだ。

    「そろそろ僕たちもじれったく感じてたし……多分、千空、記憶飛ばさないタイプだよ」

     持っていた椎茸の天ぷらをもぐもぐと頬の中で動かしながら、羽京がビールを煽った。ぷはっと気持ちよさそうに息を吐いて、そしてゲンを見てにんまりと笑って見せた。燃える炎のオレンジの明かりが羽京を照らす。

    「明日がゴイスー楽しみだなあ」
    「……羽京ちゃん……それ俺の真似? マイナス100億点だよ……」
    「あっはっは!」

     げんなりしたゲンの言葉と表情に盛大に笑いながら、羽京はすっと丸太から立ち上がって歩いて行った。行き先は間違いなく龍水とコハクのところだ。
     その背中を恨みがましく見つめてから、膝の上にいる千空をもう一度見る。いつのまにか、千空の手はゲンの藤色の羽織をしっかりと握っていて。しかもなんだか、表情は穏やかで。まるでこれでもう大丈夫だとでも、思っているような。
     もう一度ゲンは顔を両手で覆った。はぁーっと腹の底から血を這うようなため息が出た。
     色々考えていたのだ。今後、どうするか。自身の感情の置き所だって。本当に色々。なのに。だというのに。この一晩で全て台無しだ。

     ーーああ、もう! この酔っ払いどもめ!!
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