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    mame

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    mame

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    エアスケブSS④
    リク:ヤキモチをやく千かゲの千ゲ
    ※ゲ不在ですが千ゲです

    歯に物が詰まったような、そんな表情。
     杠は視線の先でラボに入り見えなくなった千空の横顔を、そう捉えた。
     なにか作業で思い通りにいかないことがあっとのかな、と杠はひとり首を傾げた。杠の手には解れてしまったので修繕を、と科学王国民のひとりから預かった服がある。さきほどから作業の小休憩として日当たりの良いところで日向ぼっこがてら繕っていたのだが、いろんな人に息抜きでも裁縫をするのかと驚かれた杠だ。これとそれとは別なのです。そんなことを言っても、なかなか伝わらない。こういう機微を分かってくれるのは、クラフトチームの面々ばかりだ。
     造船作業は杠の知る限りでは順調に進んでいる。帆の最終調整のため村の方で千空や龍水と話し合ったりもしているので、特に問題はないはずなのだけれど。
     あの表情をしてしまうような出来事を、千空はひとりで消化してしまうのだろうか。そう考えて、ぐるりとあたりを見渡す。こういうとき、大樹がいれば大抵のことはなんとかなる。最近ではクロムやコハク、カセキなどでも。あと、ゲン。そのことに気付いた杠は、大樹と杠が千空の傍にいない間に築かれていた関係に心底ほっとしたものだった。

    (千空くんが、ひとりじゃなくてよかった)

     そう思ったものだったのだけれど、いまこの瞬間、千空の周りにその人間たちは見当たらない。各々の場所で各々の作業をしているのだろう。
     じゃあ誰がいくのだ。私ですな。解決に至るかはわからないけれど。
     そうして杠は腰をあげ、持っていた服を皺にならないよう簡単にくるんで持ったまま、千空がいるはずのラボを訪れた。普通に杠を出迎えてくれたら雑談をすればよし。もしそうでなければ。

    「千空くん、おつかれさま~って、わーお……」
    「……杠」
    「ど、どうしちゃったの千空くん……」

     話を聞けたら、と思っていたのだけれど――まさか、ラボの中央を飾る机に頭を突っ伏しているとは。苦い表情のまま顔を上げて、迷子のような表情で杠を見てくるとは。
     取り繕いもせず悩んでます、という姿を見せてくれるとは思ってもおらず、杠は動揺した。あわあわしながら千空に近寄れば、千空がラボの隅から椅子をふたつ引っ張ってきた。座れ、ということと理解し腰を下ろすと、もう一つの方に千空が腰かけた。
     わかりやすく項垂れている千空に、一体何事かと杠は眉尻を下げた。

    「私でよければ話をきくよ。どうしちゃったの」
    「おありがてえ……俺じゃ消化しきれねえんだわ」
    「ええ……ほんとどうしちゃったの」

     千空がこんなことになる案件だ。なにか複雑な悩みなのだろうか。船の問題なら龍水。村や帝国の人間関係であればゲン。力が必要なら大樹。他にも必要であればクラフトチームやコハクを呼びに走ろう、と杠は心に決める。すると千空が「ー」と地を這うような音を出した。

    「…………誰にも言うなよ」

     おっと、まさかの内密案件だった。目を丸くして、でも千空が言うならば秘密にしておくべきことなのだろう。こくこくと頷くと、千空が肺の底から深く長いため息を吐きだし、乱暴に自身の頭を掻きむしった。
     目をうろうろと泳がせ、もう一度ため息を吐いた千空が背中を丸めたまま杠を見た。杠の背筋が伸びる。

    「例えばの話だが」

     千空が例えばの話をするなど珍しい。驚きつつ茶々を入れるような場面でもない。杠はひとつ頷き、千空の言葉の続きを待った。
     いつも軽やかに科学知識を披露してくれる口が、酷く緩慢な動作で動いた。

    「大樹の奴が、誰とも知らねー奴の上着を羽織ってたら……どう思う?」
    「へ? 大樹くんが?」

     今度は千空がこくりと頷く番だった。顔はまだ苦虫をつぶしたようなそんな表情のままだ。――これが、いま千空を煩わせているなにかなのか、と理解し、素っ頓狂な声を出しつつも杠は真剣に考えることにした。
     大樹が杠の知らない人の上着を羽織る。いやあ、大樹くん寒さ知らずだしなあ、なんて思うがいまはそういう話ではない。大樹くんに上着を貸せるひとなんてサイズのこともあるし限られるけど、なんてことも思うけれど、多分千空もこの例えがナンセンスなのは理解しているんだろう。なにせ杠の前で再び音にならない音を呻きながら項垂れているので。
     そんなに広いわけでもない、薬品だらけのラボで、千空とふたりきり、杠は真剣に考える。うん、たとえ話で考えるにしても情報が圧倒的に足りない。細い腕を組んで、膝の上に預かっている服を置き、杠は千空の顔を覗き込んで尋ねてみる。

    「その日の気温は?」
    「……まー、ちっと肌寒いか」
    「大樹くんの様子は?」
    「……いつも通り?」
    「普段、大樹くんは服をよく借りる?」
    「……んなことねえな」

     妙な間が開きつつも杠の質問に答えた千空に、ふむ、と杠は腕を組みなおした。

    「じゃあ、その上着は男性物? 女性物?」

     ぴくり、と千空の肩が本当に小さく跳ねた。次いで先ほどよりも間が開き「女」とぽつりと千空が答えた。
     千空は杠と大樹の間にある感情を把握しているはずで、つまりこのたとえ話の本質は。

    「それは、もやもやしちゃいますなあ。女性もの着るなら、サイズが合わなくても私の借りてほしかったな~って、思うかも」

     小さく息を呑んでしまったのを、驚いてしまったのを、杠は千空にバレないようゆったりと落ち着いた口調を心がけながら答えた。
     項垂れていた千空の顔が少しだけあがり、杠を下から見上げる。それに苦笑して、杠は肩をすくめてみせた。

    「私と大樹くんはなにもないけど、ちょっとだけ、そう思っちゃうとおもうな。やきもちってことになるのかな」
    「……やきもちか」
    「うん、やきもちだね」
    「…………やきもちか~~~~~」
    「やきもちですな~」

     杠の言葉をオウム返しした千空は、ついに項垂れたまま頭を両手で抱えはじめた。その様子があまりにも不憫で、新鮮で、そしてなんだか嬉しくて、杠は千空が見ていないのを良いことに頬を緩めた。
     この質問のたとえは、杠が千空なのだ。抱いた感情が理解できず、答えの候補を見つけても納得できず、訪れた杠に藁を掴む思いでたとえ話をした。あまりにも千空らしくない、まどろっこしいたとえ話。
     恋愛は非合理的だと言ってのける千空に想い人が出来たことが、正直杠は嬉しいのだ。
     別に恋は必需品じゃない。千空の言う通り非合理的なのかもしれない。綺麗なことばっかりじゃない。でも、人を好きになる気持ちは、その想いは、素敵なものに違いないから。
     頭を抱える千空はもしかしたら相手に想いを寄せている自分自身に気付いていなかったのかもしれない。それでこの動揺っぷり。自身が恋をしたことに、やきもちをやいたことに落ち込んでいるのか、それともこれからどうしようか考えているのか。もしかしたらもう頭の中で四苦八苦しながら今後のロードマップを引いているのかもしれない。
     でもさすがに、頭を抱えっぱなしは可哀そうだ。杠はそう考え、千空の肩を叩いてみようと膝の上にある服を一旦机に置こうと目線を下げる。目に入るのは、修繕を頼まれている藤色の羽織。ゲンのものだ。

     あれ、もしかして。もしかして。

    「せ、せ、せ、千空くん。ねえ、私もしかしたら」
    「待て、杠。言うな、言うんじゃねえ」

     杠の動揺に顔を上げた千空が、杠の膝にある羽織に気付き目を見開いた。慌てて杠にストップを千空がかけてくる。それがなによりの証だった。

    「千空くん!」
    「大樹みてーに叫ぶな!」
    「だって!」

     片手で自身の顔を隠した千空の顔の赤さといったら!
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