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    mame

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    造船軸千ゲ(千←ゲ)

    もしもの話。

     千空ちゃんは超ゴイス~な現役高校生の科学少年。
     顔立ちが整ってるからメディア映えしちゃうし、テレビが千空ちゃんを見つけるのは時間の問題。宇宙から帰還した百夜パパのインタビューで息子の話が出て、学校に突撃してきたメディアの人間に見つかっちゃうの。でも科学道具で害のない程度に痛めつけて、追い返しちゃうんだよね。結果、お蔵入りしちゃう映像になるんだけど、ところが数年後、技術分野で抜擢され宇宙飛行士として宇宙へ行くことになった千空ちゃんのテレビ特集でその映像が出てくるんだよね。
     ゲストでテレビ出演してた百夜パパ、そんな事があったって勿論しらなかったから爆笑しながらスタッフや視聴者に謝るの。良いパパだよね。
     それで千空ちゃんは宇宙で宇宙食のラーメン食べたり、百夜パパと通信したりしつつ、任務こなして地球に帰ってきてさ。日本の教育バラエティ番組とかに引っ張りだこになっちゃう。顔はいいし話はわかりやすいし肩書もバイヤ~だからね。テレビがほっとくはずがないのよ。たまに親子共演とかもしちゃって、そのうち一緒に宇宙にまたいっちゃったりして、ふたりで宇宙ステーションから地球に中継とかもして。

     そんなあっただろう未来が、もしもの話になるなんて、神様がいるなら本当に意地悪だとゲンは思う。救いもしなければ拠り所にさえなりやしない。
     ゲンは自身の腕をして実験台で仮眠をとっているのだろう千空の肩に自身の羽織をそっとかけてやった。細い背中がゆっくりと上下する。根詰めているなあと思う。でも千空の目標のためには寝る間も惜しいのはゲンにも理解できた。
     感傷じみた考えを持ってしまったのは、仮眠をとる千空の表情があまりにもあどけなかったからだ。ゲンが頼まれていた作業を終わらせラボに訪れると、眠る千空の姿があった。
     小さく口を開いて、かすかに涎を垂らして、長い睫毛をたまに震わせ、すやすやと眠りの世界を漂っている。仮眠のつもりなんだろうが、きっとこれはなかなか起きられないだろう。くすりと小さく笑って、ゲンは眠る千空の隣に静かに腰を下ろした。
     千空が机上に置きっぱなしの設計図やパーツなどを眺め、下手に手を出さない方がいいなとゲンは判断した。袖の中に手を突っ込み、花の仕込みを取り出し、実験台に広げる。もちろん千空のものの邪魔にならないようにだ。
     千空はだれよりも周りの人間と平等の立場であろうとするけれど、それでも紛れもなくゲンの年下の男の子だ。
     そのことを、ゲンは絶対にわすれちゃいけないと思っている。ゲンだけは、ゲンだけでも、千空がただの科学大好き少年だと理解していなければならない。
     科学王国において千空の隣に一番長いこといる旧時代の人間として、数千年の時を超えて届いた千空への百夜の想いを直接肌で感じた者として、なにより千空の心の柔らかいところを見てしまった男として。
     蝙蝠男としてはまったく「らしく」ないかもしれない。でも、科学王国のメンタル分野を預かる者として――否、千空のことを大事にしたいただの浅霧幻として、心の底からそう思うのだ。強く優しくまっすぐな千空の心が傷つくようなことがないよう守りたい。そんな心を持つ千空を育てた百夜が守れなかった分、代わりになんて烏滸がましいけれど、そう思う人間がいる事実くらいは千空の傍にあってもいいんじゃないかと。

     小さな包みに花びらを収め、きゅっと口紐を結ぶ。いくつかそれを作り上げ、しばし逡巡してからゲンはその中のひとつを千空の顔の近くにそっと置いてやった。少しでも君が見る夢が穏やかでありますように。

    「あんまり早く走りすぎないでね」

     冷たいガラス張りの実験台に頬杖をつき、ゲンは自分にさえ聞こえるかどうかの小さな声をぽとりとラボに落とした。ランプの灯が揺れ、照らされたゲンの口元に自然と浮かぶのは笑みだ。
     科学王国には随分人が増えた。もう少しでペルセウスは船出を迎える。
     千空に対するこの感情がなんなのか、ゲンの中で答えはもうほぼ出ている。庇護欲にも近いそれに名前をつけるのは簡単で、でもきっと、名前を付ければ千空の背中を見失うのだろう。それは絶対にいやだった。
     だからせいぜい蝙蝠男を全力でまっとうして、名前をつけてしまうのを先延ばしにしてやろうとゲンは思っている。千空が世界で旅をして、この地へ戻ってくるまでは少なくとも保留にできるだろう。寂しくなるけど、それでもゲンは千空を見失わないと決めている。なので、出来るだけゲンも頑張るけど、早すぎるのは勘弁してほしい。なにせ自他ともに認めるヒョロガリだから。
     はらりと千空の前髪が細い腕を伝って実験台におちた。わずかに鼻先に触れているのに気づいて、慎重に払ってやる。
     ゲンはいつか芸能界で司のように出会ったかもしれない千空のありもしない姿を思い浮かべてみた。きっとその千空にゲンは、この気持ちを抱いたりしないのだろう。
     まあ、これだって、もしもの、もしかしたらの話なのだけれど。
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