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    mame

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    mame

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    ノベルティしおり(短編付き)
    千ゲ(復興後if/大杠結婚式の話/クロルリ要素もふわっと含みます)

    「良いものだな、こういう手作り感あふれる結婚式というのも」

     オレンジ色に藍色のインクをぽたりと染み込ませた、そんな空の色が広がり始めた時間帯。柔らかな光を落とす電球は目に染みることなく森の中を照らしている。その明かりを見上げながら、龍水が酷く優しげな眼差しでぽつりとつぶやいた。
     龍水の言葉にゲンは口元に薄く笑みを浮かべた。柔らかな光の中心にいるのは杠と大樹のふたりだ。ふたりは白い服を身に纏っている。賑やかで懐かしい科学王国の面々に囲まれながら満面の笑みを振り撒くふたりに自然と周りの人間も笑顔になるんだから、あのふたりは本当にすごい。プラス思考&マイナスイオン製造機だなあ、とゲンは頬を緩めながら思う。
     正面からワイングラス片手に龍水を見やった羽京が、ハッとしたように顎に手を当て、口を開いた。

    「……龍水。君もしかして、結婚式で寿司職人がその場で握った寿司食べたことある?」
    「ん? あるが?」
    「わー! 当たり前みたいに言ったね! いや当たり前なのか!」
    「バイヤー! えっ、有名アーティストきたりとか」
    「あったな」
    「クルーズ船貸切での挙式は」
    「……そんなこと聞いてどうする」
    「あるんだ……ゴイスー……」
    「当たり前みたいにこの場にいるから最近忘れるけど、龍水ってほんと別世界を生きてたんだね」
    「何を言ってる、同じ世界だろう」
    「そうなんだけどさー……」

     眉間に皺をわずかに寄せた龍水に、羽京が苦笑した。言いたいことはわかるなあ、と思いつつゲンはくすりとひとつ笑った。

    「でもここで大樹杠の結婚式が良いって言う龍水ちゃんだから俺たちやってこれたんだよね〜。ね、千空ちゃん」
    「? あのふたりの結婚式が悪いわけねえだろ」

     テーブルに頬杖をついて、気分良くアルコールを身体に流し入れる千空のに向かってゲンが言えば、過激な言葉が返ってくる。すかさずクロムが「ほんと千空はあのふたりのこと好きだな」と口を挟み、千空に間髪入れず睨まれていてゲンは相変わらずだなと眉尻を下げた。
     そう、今日は、杠と大樹の結婚式だ。
     ちなみにこの会場の電飾という電飾はすべて千空が作ったし、大量の電飾を作る作業を手伝わされたのはゲンだ。石神村の近くで式を挙げたいけど会場が、と悩むふたりに森の中に作れば良いじゃねえかと提案し場所を見つけたのはクロムだし、そういえばそんな感じの自然派ウェディングをあげた先輩がいたと参考意見を新郎新婦に伝授したのは羽京で、森の中を式を挙げられるまでに整地する指揮をとったのは龍水である。
     復興が進み、それぞれの道を皆歩み始めた。科学王国民として動いた人間は有能だ。だから皆忙しくしていて、なかなか時間をとって大集合して会う――という機会はなかった。ちなみに大所帯にはならないが、仕事関係で連携をとる必要が出た際は仕事終わりに飲みに行ったりなどは定番化している。
     そんなわけで、科学王国民が久々にこぞって集まったのは大樹と杠の結婚式であった。
     手が空いている者でクロムが見つけた森の会場予定地に集まりシフトを組んで整地し、整地の際に伐採した木で流れるように作られたテーブルとイスはそのまま式で使われている。科学王国民に大樹杠が招待した知人を含めたところ結局大規模な結婚式になったので、森の中で手作りの結婚式をするという選択はベストだったかもしれないとゲンは思う。ネックとなった大人数の料理はフランソワ監修の絶品ブッフェだ。料理ができると判断された人間が皆駆り出され、フランソワに厳しく指摘されながら大量の料理を作った。
     そのすべての作業に大樹は参加し、杠もタキシードとウェディングドレスを作る傍らで参加したのだから恐れ入る。本当にみんなありがとう、と毎度差し入れを持って森に来ては作業に参加して帰っていく。他にも結婚式の準備はあるというのに、だ。
     受付に立つルリとコハク、そして仁姫から大樹と杠からの手書きのメッセージカードを貰った際、ゲンはいつ書いたんだろうと目を丸くした。ゲンくんへ、とかわいらしい文字の横に、寄り添うように、しかし力強い、ゲンへ、という文字が並んでいた。自然と口元に笑みが浮かんだゲンだ。全員に書いたんだろう。200近いカードを、きっと、丁寧に、大事に。
     そんなふたりだからきっと科学王国民は忙しい間を縫って今日この日のため、楽しく準備をしたのだ。ふたりの晴れ舞台の手伝いができるとあらば、スケジュール調整もオフの日を使うことも全く厭わなかった。それはゲンも同様で、立て直し中のエンターテイメント業界は目が回るほど忙しいのだけれど、千空から「式用に電飾作る」と電話が来た瞬間にスケジュール調整をした。ドイヒー作業だけれど、全然ドイヒー作業じゃなかった。もちろん千空だって世界の石神博士として日夜研究に学会に忙しくしている。そんな中で、きっと自ら作ると申し出たのだろう。
     久しぶりに千空とゲンは、ふたりきりでこまごまとした作業をひたすらするという行為をした。暗くなってきた森を包む優しい灯りは、ストーンワールドで初めて訪れたクリスマスを彩った灯りよりも小さく、そして柔らかく、大量だ。雑談をしながらカセキが吹いたガラスに着色して電球を組み立てて、というのを千空と雑談をしながらゲンは行った。久しぶりだというのに会話は途切れることなく、心地よいテンポで進んだ。千空の最近の研究、ゲンの最近の仕事、これからやりたいこと、私生活での変化、復活した食べ物の話──などなど、まるで長電話をするみたいに相槌を打ち合った。
     楽しかったな、とゲンもアルコールを口に運びながら思う。先ほど行ったゲンのマジックショーは好評で、杠と大樹は笑顔で、千空も上機嫌で、久々に集まった面々も元気そうで、料理もおいしくて。だからアルコールは勝手に進む。

    「皆集まれてほんとよかったよね」

     ゲンがぽつりと言えば、千空が「」と頷いた。眩しそうに大樹と杠の方を見やって。
     杠が自ら縫ったウェディングドレスは土につかない長さだ。地面が土なのでヒールは履いていない。参列者にも事前に汚れるから革靴は履かなくていい、ドレスコードも好きでいいとふたりからは言われている。そのため参列者の服装はそれぞれだ。視線の先で可愛いワンピースを着たスイカと未来が司と一緒に新郎新婦と写真を撮っていた。
     ふたりらしい、結婚式だ。にぎやかで、優しくて。

    「こういう機会がないと、なかなか集まらなくなるものだよね」

     羽京が苦笑まじりに呟いた。石化前もきっと同じような状況を体験していたのだろう羽京のセリフには重みがあった。
     羽京のセリフに、クロムが腕を組む。うーんと小首を傾げながら片眉を上げる。

    「じゃあみんなで集まりたくなったら誰か結婚式やればいいんじゃねえか?」
    「その発想力相変わらずね、クロムちゃん。逆転の発想バイヤー」
    「誰か結婚を予定しているものがいるのか? 俺は知らんが」
    「えー、クロムちゃんとルリちゃんは?」

     にんまりと唇に弧を描き、ゲンは視線をクロムに流した。洋装が似合っているクロムが大袈裟に肩をゆらし、あからさまに動揺を見せる。頬が赤い。

    「お、俺らはそんなんじゃ」
    「まーだ、そんな悠長なこと言ってんのかテメーは。そろそろルリ掻っ攫われるぞ。アイツ、たまにメディア出てんだろ。俺の周りにすらルリのファンを公言してる人間がいるっつーのに」

     まさかの千空からの援護射撃にちらりと千空の横顔を見やれば、大変楽しそうな顔半分、本気半分。

    「まさに掻っ攫った経験がある人間が言うとゴイスー現実味があるね」
    「秒で放流したろうが」
    「放流って」

     千空にお節介を焼いてやろうという気持ちを抱かせるほどクロムの恋模様は進展がない。しかし激しい動揺を「え、」と目を泳がせながら見せている時点で、もうちょっと突いたら、なにか出るかも知れない。ゲンは心の中で腕まくりをしながら口を開いた。

    「俺も現場でよく言われるよ、クロムちゃん。石神村の巫女様、知り合いなら紹介してって。人気急上昇中よ、ルリちゃん。ジーマーで」
    「は? マジかよ……いや、でもよ」
    「クロム、貴様欲しいものを欲さず逆になにを欲するんだ」

     こちらは全部本気の龍水だ。心底不思議そうにクロムに言うので、千空が小さく噴き出した。

    「こらこら、みんなクロムをいじめない」
    「うっ、うきょ〜!」

     口を挟んだ羽京に泣きついたクロムの頭を撫でながら、羽京も「でもまどろっこしいのは確かだよ」とクロムに告げトドメを刺した。千空とゲンはそのやりとりを腹を抱えて笑った。龍水は涼しい顔でワインを傾けている。
     いいなあ、と思う。ここは居心地がいい。芸能の仕事は楽しい。復興が進む様子を、直接見て、いろんな人間から聞いて、笑顔を人に届けられる。仕事人間ではないけれど、それでも生きる糧にようなものだとゲンは思う。だからもうちょっと落ち着くまで、といま頑張っているのだけれど、その中で、こういう「いいなあ」と思える瞬間が少なくなっていたのはたしかだ。ほっと一息つける、千空が作り出す空間が、ゲンは好きだ。笑いながら、そんなことを思う。
     机にべちゃりと頬を擦り付けたクロムが笑うゲンと千空を睨むように見上げてから唇を尖らした。

    「千空とゲンこそ、いつ式挙げんだ?」
    「ブッッッッッッ」
    「ゲホッゴホッ、オエッ」

     青天の霹靂のような発言だった。思わず噴き出したゲンの横では千空が盛大にむせている。騒がしい会場の中で騒いでいたテーブルだったはずなのに、一瞬沈黙が落ちた。

    「えっ、まって、なに?」

     クロムに言われた言葉を脳内で反芻する。千空とゲンこそ、式は──式って、この流れで言えば間違いなく、結婚式のことで。頭を抱えたくなりながら、千空を見やる。目があった千空も眉間に皺を寄せていた。

    「メンタリスト、テメー解析しやがれ。俺には理解できねえ」
    「わかんないわかんない。俺もリームーリームー」

     こめかみに人差し指を当てながらゲンは思考回路をフル稼働させる。ほっと一息、どこにいった。
     羽京と龍水がとりあえず話が見えるまで静観しようという態度をとっているせいで、渦中のゲンが進行役を務めなければならない。誠に遺憾である。

    「クロムちゃん、そもそも俺たち交際とかしてないし惚れた腫れたな関係でもないよ」
    「あ? じゃあ千空プロポーズ失敗したのか」

     顔を上げたクロムがこてりと首を傾げた。やはり羽京と龍水は静観している。会場では各テーブルや新郎新婦が回り始めた。すでにテーブルに設置されているキャンドルに新郎新婦が火を灯してから写真撮影をするらしい。

    「…………千空ちゃんどういうこと?」
    「…………なんの話してんだクロム、テメー」
    「この前ゲンと久しぶりに会って楽しかったからもっと一緒に過ごす時間増やしてー、みたいなこと言ってたろ」
    「だからってプロポーズに直結するのはぶっ飛びすぎだろ」

     千空が進行役を引き受けてくれたのでゲンは二人の会話を見守った。見守ったのだが、どうも見守りきれなかった。

    「待って、千空ちゃんがその発言したのは事実なの?」
    「? あ、あー……まあ、したわな」

     発言の大胆さに今更気付いたらしい千空が、ゲンの顔から視線を外した。あ、照れてる。そう思うと、ゲンもなんだか照れてしまって。顔が火照りそうなのを手でぱたぱたと仰いで、これは場が悪いと羽京と龍水にヘルプを頼もうと二人を見やった。

    「ふたりも静観してないで俺らが結婚とかないって言ってやってよ」

     しかしそこにはにやにや笑っている、意地の悪い表情のふたり。あ、味方じゃない。即座に理解したゲンは顔をひくりと引き攣らせた。

    「俺が復活したときには、貴様らは熟年夫婦のような阿吽の呼吸だったからな。今更だ!」
    「付き合ってないって言われても納得するし、付き合ってるって言われても納得しかないって感じかな。だから結婚ってクロムが思うのも無理はない気がする」

     ワインを飲んで、もぐもぐと料理を咀嚼して、ふたりは至極あっさりそんなことを言った。ゲンは顔を引き攣らせるばかりだ。絶対に無理はある。あるよ。
     しかし、そのふたりの言葉を聞いて、千空は腕を組んでなにか考え始めたようで、特にコメントを出すことをしない。ゲンは思わず唸った。なんだこの状況。

    「ゲン」
    「なに千空ちゃん」

     そしてやっとかけられた声に、ゲンの背筋がすっとのびた。若干の声がうわずってしまったが、もうどうにもならない。

    「俺はテメーとの行動回数を上げてえ。ストレス発散になることが実証されたからな。雑談だろうとなんだろうと、テメーと話してるとすっきりすんだわ」
    「えー、まあ、うん。俺もジーマーで楽しかったからそこに異論はないっていうか大歓迎っていうか」
    「で、芸能人でお忙しいあさぎりゲン様相手にそれは結構難しいだろ」
    「うーん、たしかに俺と石神博士がスケジュール合わせるの大変だろうけど」
    「じゃあ一緒に住みゃいいよな。限られた時間になったとしても居住共にすりゃなんとかなんだろ。ついでに婚姻関係になっといたほうが何かと便利だ」
    「うっそでしょ、何かと便利で結婚しちゃうの」

     顎に手を当て真剣な表情で語り出した千空に、ゲンは呆気に取られる。もしかしてこれは口説かれているのだろうか、とぼんやり思って、ゲンは即座に否定した。違う、これは千空にとってのただの事実であり提案だ。
     千空とゲンの会話を、羽京と龍水が愉快そうに聞いている。クロムは「これプロポーズだよな?」と首を傾げていて、ゲンはどうしようもない気持ちで千空のことを見るしかない。ゲンの視界に収まった千空は、まっすぐにゲンを見ていた。
     一言えば十伝わる関係は楽だ。
     脳をフル回転させて、相手の言わんとしていることを汲み取り、正しく把握する。その過程が楽しく、快感なのだ。雑談だろうとなんだろうと、と千空が言った理由もきっとそこにある。ゲンだってもちろんそうで──そう、つまり。結局のところ。君の隣にいる時の自分が、1番、好きなのかも、しれない──だから、まあいいかと、思ってしまった。
     千空の隣にいると自己肯定感があがる。脳が幸せ。ほっとする。それだけの理由で、きっといいのだ。千空とゲンの間にはなにもなくて、なんでもある。

    「結婚しちゃうかあ、千空ちゃんと」

     ぽつりとゲンが言葉を肩と共にすとんと落とすと、千空が満足げに口角を上げた。
     見上げた夜空は満天の星。電飾とのバランスが絶妙だ。風が吹いて始まった夜に光が揺れる。
     ぱちぱちと拍手を三人から何故か送られていれば、大樹と杠がやってきた。なになに? とにこりと笑う新婦には式が終わってからね、と伝えた。なにせ今日の主役は杠と大樹だ。自惚でもなんでもなく、千空とゲンの結婚なんて話題、食いつかない科学王国民はいないだろう。だから、式が終わるまでは、この話はこのテーブルの五人の中で留めておこう。ふたりがひと段落したら、結婚式の段取りについて、教えてもらわないといけないし、なんてゲンは息を吐く。だって千空との結婚式なんて、面白いに決まっている。上げない手はないのだ。
     そんなことを考えながら、相手にしか聞こえない小さな声で「末永くよろしくお願いします」と千空に耳打ちすれば、千空が目を細めて「」と笑ったので、やっぱりこれでいいんだとゲンも笑ったのだった。
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