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    mame

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    mame

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    好き勝手書いたヒプクエパロのろささ
    とある大道芸人のはなし

     よってらっしゃい! みてらっしゃい! この村一番の大道芸人のショーがはじまるでぇ!
     おっ、お嬢ちゃん。今日も来てくれたんやね、ありがとうなぁ。よっしゃ、連日来てくれてるお嬢ちゃんにリクエスト聞いたろ。今日はなに見たい? ん……? おもろい話ししてって……? えっ、ちょ、みんな拍手すんのやめてくれます? おもろい話してって言われてトーク披露すんの大気圏突入する程ハードル上がんねやけど……まあおもろい話するんですけどもね、ってするんかーい! 言うてね! はいはいはい。ここニッコニコで笑うとこやでぇ。よっしゃ、みんなわろたね。ええ子、ええ子。
     おもろい話なあ。じゃあ今日はお子さんらも多いし、この村の隣の隣の隣の隣。そのまた隣の大国に伝わるお話でもお披露目しよか。
     
     とある大国に、ひとりぼっちの魔術師がおったんや。あ、魔術師ってのは魔術が使える人のことな。
     魔術師が住むその大国は隣国と長い間戦争中やった。戦争では魔術を使えた方が有利になる。だから魔術師たちは重宝されて、お給金もたんまり貰えた。でもそのひとりぼっちの魔術師は生まれながらに魔術の才があるのに魔術を磨くことよりも芸事に興味があったんや。炎や水を使うて人を攻撃するよりも、花びらを舞い散らせ人を笑わせることの方に魅力を感じていた。だから魔術師という肩書きはあれど、まったく魔術師としては働かず、道で魔術を使ったショーをしては日銭を稼いで暮らしとった。割と人気だったらしいで。……ん? なんや、お嬢ちゃん。へ、俺みたい? あは、そうやなあ。俺もその日暮らしや。ちゅうわけで、みんな今日も投げ銭弾んでやあ!
     続きいくで? ある日、そんなひとりぼっちの魔術師のところに国のお偉いさんから派遣されたっちゅう兵士が来てな。兵士は戦争が激化するから、魔術使えんなら国のために使えと魔術師に言うたんや。魔術師は魔術で人を攻撃したくない言うから、兵士はほんなら回復魔術とかで支援してくれたらええわって返した。魔術師はそれが目から鱗だったんや。頭ええなあ! それならみんな元気に笑えるやん! 兵士にそう言って、兵士に国の訓練所に連れてってもらった。そこから、ひとりぼっちの魔術師は、兵士についてまわり、文献を読み漁り、魔術の訓練をひたすらやり、その国一番の回復魔術を使えるようになり、知識も豊富なことから賢者とまで呼ばれるようになったんや。魔術師を呼びに行った兵士もこれにはびっくりやったらしい。随分仲良くやっとったけど、魔術師が賢者や戦争の英雄と呼ばれるようになってからは別世界の人間やと判断して、距離をとることにした。平凡な兵士が隣におっちゃ、良い噂だけじゃなくなるやろゆーてな。……アホよなあ。魔術師は離れていった兵士に何も言わず、魔術の訓練に明け暮れた。
     ひとりぼっちの魔術師は──いや、賢者は、その後も戦争に何度も赴いた。剣士や黒魔術師と組み、何人もの人間を救ったんや。寄り添い合える仲間もできとった。
     でも、ある時、あまりにも国の軍全体が大きな攻撃を受けたんや。賢者のバリアが持たないほどの大きな攻撃で、怪我人は溢れかえった。死人も出ていた。出来た仲間も、赤に染まり地に伏していた。このままでは笑いなんかおきひん。そう考えた賢者はその時使える力全てを込めて広範囲の大回復魔術を使うた。お陰で倒れていた軍の面々や賢者の仲間はみるみる回復。壊滅寸前の軍はそこから快進撃。長く続く戦争を勝利で終わらせることができたんや。めでたし、めでたし……とは、いかんかった。
     賢者はさらに英雄扱いされることになるかと思いきや、軍の面々は綺麗さっーぱり賢者のことを忘れてもうたんや。
     ……ふふ、えー! よなあ。わかるわあ。でも、これはしょうがないことやったんや。
     この世界は何かを得るには何かを差し出さなあかん。回復魔法には賢者の魔力を使うてた。でも、その時使った大回復魔術にはまるで賢者の残りの魔力が足りんかったんや。だから、賢者は回復対象の中にある賢者の記憶を足らん魔力リソースとして使った。
     そうやって軍には誰も賢者のことを知るものはいなくなった。でも、そこでへこたれないのが賢者やった。これはこれで身軽になっていいわ! と、賢者は大道芸人になってしもたんや。元々人を笑わせたいってことが魔術使てた理由やしな。もう魔術を使えるとバレへんように、魔術を使わん芸事を、旅をしながらすることにした。
     ひとりぼっちの魔術師は、ただの魔術師になり、賢者になり、そして大道芸人になった。その男が足を止める場所は、魔術を使てようが使てなかろうが、笑いが溢れている──おわり。
     どやった? 壮大でおもろかったやろ! ……え? もしかしてその大道芸人は俺のことちゃうかって? うーん、まあ、それやったらおもろいかもしらんけど、ちゃうよ。うん。













    「盧笙」
     背後から名前を呼ばれ、大道芸人はくるりと振り返った。白い石畳で作られた歩道の先には、元々細い目をさらに細め、わずかに眉間に皺を寄せた細身の男がひとり立っていた。
    「簓」
     相手の名前を呼べば、男は──簓は、肩をすくめながら盧笙に近づいてくる。皮で作られた靴は足音が小さい。
    「まーたその話してたん? 魔術猛特訓のくだりとか二つ名とか、小っ恥ずかしいからやめてくれんかなあ」
    「絶対に嫌や。こっちのが盛り上がるし、なにより紛れもない事実やんけ」
    「盛り上がるのはわかるんやけど〜、事実な分、俺のむず痒いこの気持ちはどうしたらええの」
     昔着ていた大層な衣服ではなく、麻布でできたラフな服装で簓は小道具を片付ける盧笙の隣に立った。拗ねたように唇を尖らす簓を無視し、盧笙は後片付けを続ける。
     さっきの話は、この男の、白膠木簓のノンフィクションだ。文句は言うくせに話をするのをやめろと言わないのは、簓がこの話を盧笙の芸事のひとつだと判断しているからだ。そういう簓の価値観が、盧笙は好きだと思う。
     先程の話にひとつ真実を付け足すとすれば、簓が大回復魔術を使う際、盧笙は前の戦いで怪我をしており、戦場に居合わせていなかった。だから、盧笙は簓を忘れていなかったのだ。
     旅に出る前に、と最後に顔を見せに来てくれた簓に、なぜ簓の話をしても軍で通用しないのかと問いただし、理由を吐かせた。無理矢理聞き出した事実に、ひとりにさせるもんかと、俺も大道芸人になると言い、驚く簓と一緒に盧笙は国を飛び出したのだ。一度、あの苛烈な環境の中にある簓から距離をとったことに対し、心残りがずっとあった。簓にひとりぼっちじゃないことを教えたのは盧笙だったのに、盧笙が簓をひとりぼっちにした。その心残りがあったのだ。
     この行為は贖罪かも知れない。でも、それはそれで全力でこの状態を楽しんでやろうと盧笙は思っている。ただ、せめて簓が仲間と思っていた人間たちの記憶を戻す術を見つけられたら、とも思っている。簓は別にええんよと言うが、盧笙の気が済まないのだ。
     この村では簓はお休みモードらしく、芸事は披露していない。その分盧笙が芸を披露しているのだが、どこの場所に行ってもさっきの話は披露するようにしている。簓がもしまた、同じように人から忘れ去られることがあっても、万が一盧笙の記憶からも消えてしまうことがあっても、誰かの記憶に残るようにと願いを込めて。
     小道具と有難い投げ銭をまとめてから腰を上げた盧笙に、簓は何か言いたそうに口元をむずりと動かした。しかし、それは音として紡がれないまま口の中で消えたらしい。苦笑混じりの表情を浮かべ、簓はため息をついた。そしてパッと顔を上げ、いつもの笑顔を見せた。
    「なあ、飲み行こや。あっちに良い酒場見つけてん」
    「おん、ほんなら一回宿に道具置いてから行こか」
     二人並んで石畳の上を宿へ向かい歩き出した。ほんの少し、故郷の風景と似ているこの村。いつかあの国に戻る日はやってくるのだろうか。強引に簓についてきたくせに哀愁地味た気持ちになっている自分に気づき、盧笙はちらりと簓の横顔を伺った。しかしそこにはぺらぺらと今日の出来事を楽しげに喋りだす簓の姿しかなく、盧笙はほっと息を吐いたのだった。
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