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    mame

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    mame

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    数年後設定、出ロデ(プロヒ×パイロット)
    これを(https://twitter.com/mamemane_open2/status/1430099072191369219?s=21)この設定でhttps://twitter.com/mamemane_open2/status/1429816321965842433?s=21)書きました

     目が覚めたら小麦の焼ける香ばしい匂いがした。

     カーテンの隙間から朝日が差し込んでいて、そこから伸びた黄色の透き通った光が出久の頬を撫でていた。重い瞼を押し上げ、沈んでいた意識を浮上させる。
     目覚まし時計で時間を確認すれば、出勤時間を大きく超えていて慌ててがばりと上半身を起こしたと同時、今日は久しぶりの休みだったことを思い出した。出久は焦りで上がっていた肩をすとんと落とし、一度ぐっと両手を組んで天井へ向けて持ち上げた。背筋がぎゅうっと伸びて、弛緩させると身体がすっきりとした。そこで気付いたのだ。漂ってくる小麦の香りに。そして優しい人の気配に。
     わずかに開かれている寝室の扉は、誰かがそっと開けて音を立てないよう締め切らなかったのだろう。少しの音でも反応して起きてしまう出久を気遣ったものだし、そんな芸当が出来るこの家にやってくる人間なんてひとりしかいない──ロディだ。
     きっと空港に早朝着いて、その足でこの家、出久のセカンドハウスにやってきたのだろう。日本に来る時は自由に使っていいと言って鍵をロディに渡してある。そして出久の靴があるのに気付いて寝室を確認しに来た。昔取った杵柄で気配を全力でおそらく消して。ロディは鬼ごっこもかくれんぼも得意だ。
     昨晩は疲れ切っていたから、いびきなどかいていなかっただろうか。そんなことを思いながら口元を手の甲で確認すると少し涎が出ていた。少なくとも口は開いていたらしい。写真を撮られた可能性があるな、とギュッと顔のパーツを中心に寄せながら寝室でひとり羞恥に悶えた。下手したら写真も撮られているかもしれない。
     大体、来るなら連絡してくれてもよかったのに。そうしたらもうちょっと早く起きて、少しでも一緒に過ごす時間が増やせたのに。
     なんて、少し拗ねた気持ちになりながら、そっと出久は足をベッドから下ろした。ロディが昔とった杵柄で気配を殺すなら、出久は現役プロヒーローの技術で気配を消そう。きっとキッチンでパンを焼いているのであろうロディを驚かせてやるのだ。そして笑っておはようを言って、きっと怒るだろうロディを宥めて、一緒に朝食をとりたい。
     起きるなり羞恥して、拗ねて、そしてわくわくして。ロディが近くにいるだけで、出久は朝から忙しい。ふふ、とひとりで笑い、出久はそおっと寝室の扉を開けた。
     このセカンドハウスは1LDKだ。寝室の扉を開ければリビングがあり、その奥にダイニング。そしてさらにその奥に寝室の扉へ背を向けるようにして壁沿にキッチンがある。
     扉を開ければ、香ばしい小麦の香りが強くなった。換気扇が小さく回る音に、コーヒーメーカーがポタポタと出来立てのコーヒーを落とす音。音の中心にはやはり髪の毛を緩く結ったロディの後ろ姿があった。オーバーサイズのさらりとしたシャツとロールアップした緩めのパンツを履いて調理台の前に立つロディは、まな板に包丁を持って向き合っているようで、ワッと声をかけて驚かせることを出久は断念する。なんだか楽しげなロディの背中はわずかに左右に揺れていて、出久はバレないようにリビングのソファに座り、その背中を見つめる。そして気付いたのは。

    (なにか、歌ってる……?)

     コーヒーが落ちきったらしく、出久の疑問はすぐに解消された。キッチンから生まれる音が減ったことで、しっかりとロディの声が聞こえ始めたからだ。

    「バケットあちち、ヤケドにちゅうい」
    「ピィ!」

     ロディの声に、出久からは姿が見えないピノの声が応える。耳に届いた瞬間、出久は自身の口を慌てて両手で抑えた。
     ──間違いなく、ロディの歌声だった。ザクザクと焼き立てのバケットを包丁で切るロディの背中はやはり楽しそうだ。

    「ハムはオイルをつけてから」
    「ピピィ!」
    「塩コショウはたっぷりチーズもたっぷり」
    「ピッ!」

     しかも多分、これはオリジナルだ。ロディの歌はうまいが、リズムも音階も出鱈目で、出久は震え上がった。
     かわいい。かわいいがすぎる。困った。助けてヒーロー。いやヒーローは僕なんですけども。
     これは間違いなくロディの弟と妹が絡んでいる。ピノの合いの手が完璧になるくらい、場数を踏んだ歌だ。きっと、無意識に歌ってしまっているのだろう。家族三人でキッチンに立って歌いながら作った料理を、ロディはいま出久の家のキッチンで作っている。
     やはりロディが近くにいると、出久の感情は忙しい。愛しさまでプラスされてしまった。
     歌詞に合わせて、ロディが軽やかにバケットに生ハムを挟んだりチーズを挟む。その背中を出久は、頬を緩めて見つめた。

    「しっかり挟んで、で・き・あ・が、」

     キッチンに立っていたロディがくるりと振り返る。彼の長い髪が弧を描く。両手には皿に乗ったバゲットのサンドイッチ。しっかり二皿用意されているのは、出久用も含まれるからだろう。そろそろ起きる頃合いだと踏んで用意を始めてくれていたのかもしれない。
     胸ポケットに収まっていたらしいピノの姿がようやく見えた。ピンクの羽をリズムに合わせてぱたぱたと動かしている。

    「りぃ〜〜………………エッ」

     そして、ばちんと、目が、合った。
     誰の目が合ったかといえば、もちろん、ロディとピノの視線が、出久のものと。
     目が合ったと同時、カチンと皿を持ったまま固まるロディに、出久はコホンと咳払いをひとつ。

    「……おはよう、ロディ。素敵な歌だね」

     口元に軽く結んだ拳を当てながら言ってみるが、残念ながら、笑みは殺しきれなかった。
     ソファを離れ、出久をみたまま微動たりともしないロディとピノの元に近づいて行く。ロディが持ったままの皿を受け取ろうとしたのだけれど、固まったままのロディがぶるぶると震え出した。

    「……帰る」
    「えっ、なに、」

     聞き間違いじゃなければ、いまロディは物騒なことを言った。慌ててロディの顔を覗き込めば、耳の淵まで真っ赤にしたロディがウガッと口を開いて吠える。朝の爽やかな空間に、ロディのあらゆる感情を乗せた声が響いた。

    「オセオンに今すぐ帰る!!」
    「まっ! 待って待って待って!! 黙って聞いててごめんロディ!! だってあんまりにも可愛くて!!」
    「ダァーッ! それ以上言うなやめろ恥ずかしくて死んじまう!!」
    「落ち着いて! ね! ふたりで食べるために作ってくれたんでしょ! 食べようよ! 僕ロディのサンドイッチ食べたいなあ!」

     とにかく皿を一枚受け取り、ロディの背をさすってみる。ハァハァと肩で息をしたロディが、じとりと睨んでくるが、ほんの少しの水気を伴ったその瞳に迫力はない。
     へへ、と出久が笑うと、ロディが諦めたように肺の底から深くて長いため息を吐いた。そしてコーヒー淹れてこい、と呟いて、出久が受け取っていた皿を奪い取りダイニングテーブルの椅子を引いて、どすんと腰掛けた。
     出久はコーヒーメーカーからガラスジャグを取り、ふたつのマグカップへ均等に注ぐ。黒い液体が空のマグカップをゆっくり満たして行く。
     ロディが来るようになってから食器が少しずつ増えている。しかしマグカップは元からあったオールマイトデザインの別種類のマグカップで間に合っているため、特に買っていない。

    「給料が入った日の、翌朝の定番だったんだ。このサンドイッチ。ロロもララもめちゃくちゃ好きでさ、俺が作ってたら歌い出すもんだから、一緒に歌ってやってて」

     サンドイッチをテーブルに置いて、頬杖をついたロディがボソボソと呟いた。唇をとがらせているものだから、摘んだらもっと怒られるかなあ、なんて出久はくすりと笑う。

    「いい思い出だねえ、今度僕も一緒に歌っていいかな」
    「マジでやめろ、俺が耐えきれねえ」
    「え〜、楽しそうなのに」
    「それ天然なのかわざとなのかどっちだよ、いじわるヒーロー」

     こと、こと、とマグカップをテーブルに置く。ピノはどうやら完全にロディの胸ポケットの中。相当恥ずかしかったんだなあ、ともう一度出久は笑いながら、テーブルを挟んでロディの座る正面に腰掛けた。

    「今日のロディの予定は?」
    「なんもねえよ。今日は泊まらせてもらおうと思って来た。日本にいるのは明日までだ」
    「実は僕、今日一日オフなんだよね。ロディ寝てないよね? 君が少し休んだら買い物いかない?」
    「いいけど、何買うんだよ」

     ロディが日本語で「イタダキマス」と呟いて、ぱくりとサンドイッチを頬張った。出久も続いていただきますと手を合わせてからサンドイッチを頬張る。ばりっとバゲットの皮が口の中で破れ、歯が生ハムと溶けたチーズに届いた。オリーブオイルと小麦の香りが鼻から抜ける。
     うん、やっぱり、とてもおいしい。
     ふにゃりと出久は頬を緩めながら、しっかりと口の中のものを噛んでごくりと飲み込んだ。

    「そろそろ揃いのマグカップ買いに行かない?」

     またロディの動きが止まる。真っ赤な顔のロディに、出久が机の下でガンっと脛を蹴られるまで、あと3秒だ。
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