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    mame

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    いつかの電話の話
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15860702 のおまけ

    いつかの電話の話


     恒例の旧友たちとの集まりだった。本日の個室には八人が集まっている。皆んな成人してアルコールを楽しく飲むようになり、話題も高校生の頃とは随分変わった。そんな中で、轟は遅れてやってきた出久が轟の隣に座り、ビールジョッキを一杯開けたタイミングで、ふと思い出したことを口に出した。
    「そういや先週ロディと会ったぞ」
    「えっ」
     肩をびくりと跳ね上げ、元々丸い目をさらに丸くし、轟を出久が凝視してくる。
    「お互い時間があったから居酒屋で一杯飲んできた。座敷席だったんだが、正座しなきゃなんねえのかって最初慌ててて面白かった……緑谷?」
     ざわざわと騒がしい個室の中で、出久の動きだけが完全に止まっていた。なにせ、きゅうりの叩きを取ろうとしていた箸さえ微動たりともしない。
    「ねえ、轟くん。どうしよう」
    「なにが」
     ゆっくりと出久が箸を箸置きに置く。お、動いた。と呑気に轟が考えたと同時、出久の口がわっと開いた。
    「僕、今回の来日のこと聞いてないよ! えっ、仕事? プライベート?」
    「仕事だったぞ。先週まで俺遠征いってただろ。ちょうど帰ってきた時にたまたま空港で制服着てるロディに会ったんだ。それで」
    「えっ、えっ、なんで僕知らないんだろ。連絡見落としてた? ……いや来てない。来てないな。なんで?」
    「動揺しすぎだろ、お前……それについてはニュースで緑谷が忙しそうだったから今回は連絡しなかったんだって言ってたが」
    「え、えええ……ええ……嘘……僕嫌われた? 待ち合わせドタキャンしすぎたかな、え、どうしよう。ロディに期待されなくなった? 僕やっちゃった? どどどうしよう、困った。とりあえず、謝る……? いやでも理由もわかってないのに謝るのは不誠実というか、いやドタキャンしすぎだからだよね、そうだよね」
    「落ち着け緑谷。おい。俺の話聞いてるか、緑谷」
    「轟くん、ごめん。ちょっと電話してくるね」
     顔面蒼白でよろよろとスマートフォン片手に個室を出て行った緑谷の背中にを轟は呆然と見つめる。
    「アイツ、俺の話聞いてたか……?」
    「いや、後半聞いてなかったね。間違いなく」
     轟がぽつりとこぼした独り言に、テーブルを挟んだ正面に座っていた瀬呂が白い歯を見せ苦笑している。どうやら出久と轟のやりとりを一部始終見守っていたらしい。
     頬杖をつきながら瀬呂が行儀悪くカクテルを煽った。カットされたライチが入ったカクテルの中身がわからず、あとで何を飲んでるのか轟は聞こうと思った。それはそれとして、出久が出て行った扉をもう一度見る。あの扉の向こう側で出久はロディに国際電話をかけているのだろうか。
     出久がロディと仲が良いのは知っている。ロディが仕事で日本へのフライトがある時、連絡を取り時間を作ってあっていることも。確か先々月も会っていたはずだ。それなのに、なんで。
    「何をアイツ、あんなに動揺してんだ」
    「大好きなんでしょうね、ロディが」
     グラスを回しながら瀬呂が笑う。からからと涼しい氷の音が轟の耳に届く。
    「いや、それにしたってショック受けすぎだろ……」
    「そういうことなんでしょ」
    「そういうこと?」
     瀬呂の言葉の意味が分からず、轟はきょとんと彼の目を見た。そんな轟の表情をみて、ぷはっと短く息を切って笑った瀬呂はにやりと表情を作り、グラスを持つ手の人差し指をぴんと伸ばした。示されたのは、出久が出て行った扉だ。
    「まあ、電話から帰ってきた緑谷の顔見て考えてみなさいよ」
    「おお……?」
     よくわからないまま瀬呂が言った通りに轟は出久が戻ってくるのを待つ。そしておそらく十分程度。ゆっくり開けられた扉から現れた出久は先程の表情からうってかわって、すっかり落ち着いていて、それでいて──なるほど、たしかに。
    「わかった?」
    「ああ、そういうことなんだな」
     あの表情は、見たことがある。轟の兄である夏雄が彼女との電話のあとにふいに見せる表情だ。
     満たされた時間のあとに見せる充足感と、すこしの寂しさと、たくさんの物足りなさ。
     瀬呂の言葉に頷きながら、轟は小さく笑った。轟のはじめての友人は、どうやら異国の友人のことが大好きらしい。
     知らなかったとはいえ、轟からの情報は出久にとってショックだっただろう。悪いことをしたな、と思い轟は先程出久がとろうとしていたきゅうりのたたきを再注文してやった。
     なにせ、今しがた轟と瀬呂でからっぽにしてしまったので。
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