Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    蚤のらくがき箱

    @nomi_frの蚤がやり場の無いものを放り込みたい
    ↓一言いただけるとモチベが更に上がりますよろしく
    https://marshmallow-qa.com/nomi_fr?utm_medium=url_text&utm_source=promotion

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 19

    蚤のらくがき箱

    ☆quiet follow

    電車でにっぴきを見かけるモブになりたい

    #94

    電車にっぴき出先からの直帰。普段は使わない路線。夜も深まり人は疎ら。

    (うわ、目立つ二人組)

    失礼を承知で、しかし興味を引かれるままそっと視線をやってしまう。盗み見た先は高身長男性の二人組なのだが、格好がすごい。
    一人は真っ赤なジャケットにこれまた真っ赤なつば広の帽子(今は車中だからか手元にある)、もう一人は全体的に黒っぽく、時代がかって貴族じみたスーツにマント、首にひらひらまでつける徹底振り。二人とも海外の血を思わせる容貌で、赤い方は銀髪のイケメン、黒い方はかなり癖のある黒髪に高い鼻、顔色の悪い……どこからどう見ても吸血鬼にしか見えない男だ。
    舞台役者のような出で立ちの彼らが見慣れた電車内を背景にする様に脳がちょっと混乱した。何者なのだろう。俳優だろうと舞台を降りれば私服だろうし……、大道芸人?

    (ん?)

    二人のインパクトが強すぎて気づかなかったのだが、そこまで観察したところでさらに気になるものを認識した。黒い方が抱いている黄土色っぽい丸いもの、ボールかと思って流していたが違和感をおぼえる。頭らしきパーツがあるのだ。

    (なんだあれ、あっ、アルマジロ?)

    丸まる動物といえばそうだろう。実物は写真ですら見たことが無いが、丸まるといえばダンゴムシとアルマジロだ。作り物だろうか、芸に使う小道具とか。などと見ていると完全な丸だったものが形を少し崩し、もそもそと動くのだから驚いた。

    (生きてる!!)
    (待てよ、ペットってケージに入れなくて大丈夫か? あとアルマジロってペットにしていいやつだっけ?)

    そんなことを考えながらスマホを操る。ヌーヌル先生に「電車 動物 持ち込み」と尋ねてみれば、目についたのは電車運行会社の公式Q&Aだった。それによれば種類により料金徴収の有無はあれど、動物はすべてケージに入れなければならないようだった。
    お金かかる場合もあるんだ、と思いながらスクロールしていくと、使い魔の方はこちら、というリンクが。いわく、吸血鬼の使い魔は、常識的なサイズであれば通常の運賃を支払って普通に乗車できると。
    ということは。

    ちらりと再び目をやる。あまりにも吸血鬼然とした男はコスプレでもなんでもなく本当に吸血鬼なのかもしれない。高等吸血鬼というもの自体ほとんど目にしたことのない自分でも、今時あんな格好をする吸血鬼がいるのだな……と思う程度には、人里にいるような吸血鬼は現代人とそう変わらない格好をしているというイメージでいたので衝撃だった。
    そして、そうなると俄然、その吸血鬼と一緒にいる赤い男の方が気になってきた。衣装であろう派手な服とそれに負けず派手な容貌。吸血鬼から連想して当てはまる職業は思い付いていたが、吸血鬼退治人が吸血鬼と平和に電車に乗っているなんてことがあるのだろうか。一応確認した耳は丸い。謎は深まる。

    その時、ヌーと小さな声がした。おそらくアルマジロの鳴き声だ。かわいい。小声でヌヌヌヌとなにかを伝えている。とてもかわいい。
    黒い方、おそらくアルマジロの主人が「私はかまわないよ」と応じる。こちらも車中であることに配慮した小声だ。さらに赤い方も潜めた声で「寄ってこうぜ。新作スイーツ出るって言ってたもんな」と嬉しそうに答える。ヌン!

    (うん?)

    人型がとれるような高位の吸血鬼については詳しくないのでわからないが、映画なんかを見る分には使い魔と意思の疎通がとれてもおかしくはなさそうに思える(一応ヘルシングのやつは観た。おもしろかった。城がかっこよかったのと、最後砂になるとこすごい迫真でびびった覚えがある)。
    しかしあの赤い方はたぶん人間だ。なのに今普通にアルマジロと会話したよな? 二人とも滑らかな日本語を話したのにも驚きつつ、衝動で再びヌーヌル先生に頼るべく指を動かす。

    「吸血鬼 アルマジロ 退治人 赤」

    なんだこのワードは、と自分でツッコみながらも勢いで検索すると、なんとヌーヌル先生は答えとおぼしきものを返してくれた。ヌフー知恵袋で、同じことを聞いた人がいたのだ。
    いやだって気になる組み合わせだよな、あれ。などと言い訳くさいことを考えながらページを読み進める。

    「吸血鬼とアルマジロと退治人っぽい男の人、という組み合わせで何者かわかる方いますか? 不思議な組み合わせで妙に気になってしまって……。吸血鬼はサリーちゃんのパパみたいな髪型した吸血鬼らしい吸血鬼で、退治人っぽい人は真っ赤な衣装のイケメンでした。
    (こういう質問していいのかわからないので、だめそうなら消します)」

    たぶん俺と同じものを指している。

    「関東圏であれば、おそらくそれは吸血鬼ドラルクと使い魔のジョン、そして吸血鬼退治人のロナルドだと思います。新横浜に吸血鬼退治事務所を構え、コンビで活動しています。退治事務所ですが、吸血鬼のお悩み相談にも乗ってくれるそうです。
    ロナルドさんは退治人として活躍しながら、ロナルドウォー戦記という自伝を出しています。あの不思議な組み合わせにご興味持たれたのであれば、おもしろいのでこれを機にぜひ。(コンビ編は2巻から。いきなり2巻からでも読めると思います)
    ドラルクさんも雑誌へのクソゲーレビュー寄稿やユーチューバーをされてますので、そちらも」

    あっさりと提示された濃すぎる情報を咀嚼しながら、リンクの貼ってある事務所HPや自伝の書影を見たり、ヌーチューブチャンネルの投稿動画サムネイル一覧を見たりして、おそらくこれで間違いないだろうなとページを閉じる。
    なるほど、コンビ。いや待て吸血鬼が吸血鬼退治に荷担していいのだろうか。吸血鬼社会的にアリなのだろうか。
    疑問が解けてすっきりしたような、更に気になることができてしまったような。あの質問に対する熱意のある回答の数々を見るあたり、あくまでローカルではあるもののそれなりにファンもいるようだ。退治人にはそういうご当地アイドル的な側面もあるらしいと聞いたことがあるし、あの雰囲気。無理やり退治に協力させているようなことは無さそうではある。
    ひとつのスマホを覗きこみながら小声で会話を弾ませる二人と一匹を視界の片隅に入れ、すこし考えてから再びブラウザを開いてヌマゾンお買い物ページへ。ロナルドウォー戦記2巻をカートに入れ、会計を済ませる。
    なんというか、不躾な視線を送ったり勝手にいろいろ調べてしまったりしたお詫びも兼ねつつ、純粋に気になるし、なによりこういう縁で心動かされるものに出会えたらちょっといいなと思ってしまったので。

    そうこうしている内にも電車は走り、彼らは新横浜で降りた。おお、本当にそうなんだなと謎の感動をおぼえる。ついでにいくら目立つとはいえネット社会怖いなとも。有名税などという無責任な単語を思い出すが、まあ傷つけたり邪魔したりしたわけではないのでセーフと思いたい。明後日には届くであろう本を楽しみに、ささやかな満足感とともに残りの乗車時間を過ごした。

    ちなみに後日改めて1巻と続巻を買うことになったので、とりあえず2巻からでも読んでみてくれというあのファンの宣伝方針は大正解だったようだ。
    本に描かれるかっこいい彼らも最高だが、そういう文章を通してもあの日見た楽しそうな二人と一匹が褪せないあたりが不思議なんだよなあ、と一人頷いて、リアタイできそうだし配信見るかとPCの電源を入れる。目論見通り俺の心はしっかり動かされ、日常に新たな楽しみが追加されたのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏🙏❤❤👏☺☺☺☺🙏👍🙏👍💴😍😍👍👍🙏👏👏💯💯💴💴💞👏👏👏👏👏💖💖👏👏👏👏👏👏👏👍💕☺👍💕👏👏👏😍☺☺☺👏👏👏👏👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works