「シーバル…」
ヤシの木が等間隔に並んだ遊歩道。
植込みの根元に身を縮めて横たわった青年は唸った。
逆光で顔は見えない。丸い頭に突き出た耳、大きな瞳の白目だけきらりと浮かぶ。
首をかしげてしゃがみこんでこちらを見ているシルエットは少年の様だ。
「何見てんだ。あっち行けよ」
韓国語で言った後で英語、タガログ語で言い直す。
少年は立ち上がったがその膝小僧から下が移動する様子はない。
タイミング悪い事に急スピードのエンジンのブレーキの音に続き「おい、小僧」と言う聞き覚えのある声。
青年は目をつぶって息を吐いた。
少年を呼び止めた車には4人の男が乗っていた。それぞれ顔のあちこちが腫れていたり血が付いていたりする。
「お前、男を見なかったか?血まみれのアジア人だ」
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