カービィ世界のスペシャルアイテムと聖遺物についてハルカンドラとアナザーディメンション、そしてそれらとの関連性が確定or疑われる古代遺産について。
現状該当するのは結構たくさんあるけど、その中でも「所有者に何らかの恩恵をもたらす」という説明があったものについてピックアップしていく。
・ギャラクティック・ノヴァ:召喚者の願いを一つ叶える
・スターロッド:夢の泉を介して人々に心地よい夢と穏やかな眠りを与える
・ディメンションミラー:鏡面の前に立った者の望みを映し出す
・マスタークラウン:所有者に無限の力を与える
・神の器:目覚めさせた者に慈悲をもたらす
ただ、これらの説明はあくまで"伝承"でしかなく、実際使用してどうなったかはどれも本編を遊んでいる人々にはお察しなのだが、気になるのは「外部からの干渉によって、伝承とは真逆の悪影響を使用者にもたらす」というアイテムがかなり多いという部分。例えば、スターロッドは夢の泉にナイトメアが侵入しなければ何も起こらなかったし、ディメンションミラーも効果が歪み始めたのはダークマインドの介入によるものとされている。神の器も悪用していたハイネス本人が「目覚めさせし者に"染まり"」と証言した上に、彼が参照していた書物には「集うエネルギー次第で何者にもなれる存在」との記載もある。『マホロアエピローグ』でどうしようもない特級呪物とファンの間で認識されるようになったマスタークラウンも、ハルカンドラの守り神ランディアが頭に乗せている間は何もなかったことから、これも所有者次第と言えなくもない。(まあランディアの場合はこれを制御できなかったifも存在するが…)
そして今の所ハルカンドラともアナザーディメンションとも言及されてはいないが、この「所有者に何らかの恩恵をもたらす」という伝承から登場人物達による争奪戦が繰り広げられる存在が『ディスカバリー』にはいる。ID-F86(から分離したエフィリン)だ。
言及こそないものの、ID-F86の空間転移能力は間違いなくアナザーディメンションに繋がるし、エフィリン脱走後のID-F86を保管していたレオンガルフ曰く「キセキの力をお与えくださる」とのことなので、強い関連があると言えるだろう。
上記のエフィリンもだが、先述のノヴァやスターロッドといったアイテムも全て恩恵をもたらすという伝承とそれに伴う作中人物同士の激しい奪い合いや心理戦の描写が必ず出てくる。
この辺りは「聖遺物」を思い出す。
聖遺物とは、キリスト教における聖書の人物や諸聖人に関わる物品や遺骸そのものを指すのだが、これらは神の恩寵を媒介して地上に奇跡をもたらすとされており、時の権力者がその所有を巡り激しく競い、高値で売買され、盗品や偽物が出回るなど人々の欲が渦巻く根源となる場合が多かったそうだ。
先述のアイテムおよびID-F86は、そういった聖遺物のような存在に近しいもので、中でも上記のような人々の醜い業を浴び続けたものが、マスタークラウンやディメンションミラーのような無差別に厄災を振り撒く存在になるのではないかと考える。本来は中立であるはずだった神の器から破壊の神エンデ・ニルが生み出されたり、元から侵略種だったID-F86が新世界に降り立った当初は現地の人々にさほど危険視されておらず、度重なる生体実験によって限界が生じた肉体から、善なる心を持つエフィリンが分離し大規模な事故が発生したという描写はこれに近いと言えると思う。
ここで疑問が出てくる、何故ギャラクティック・ノヴァとスターロッドは上記のような厄災にならなかったのか。ノヴァは召喚に至るまでの難易度に起因すると思われる。ノヴァを起動するにはポップスター周辺の惑星にある夢の泉を訪れ、そこから現れる星の光を一つ一つ連結させる必要がある。マスタークラウンを強奪したマホロアやディメンションミラーを盗み出したタランザと比べると、『銀河に願いを』でカービィが行ったこの作業は遥かに労力が要る。ハルトマンによるギャラクティック・ノヴァの模造という工程も、彼自身の才能を思えば本物を呼び出す工程よりも相当近道と言えるだろう。また、ハイネスは祈祷により神の器へのエネルギー集めを行なっていたが、条件を満たさないとそもそもの現物が出現しないノヴァの方が明らかに厳重なセキュリティを施されていると言える。マルクもそれを見越して、ノヴァが起動したタイミングでカービィから横取りする形をとったと考えられる。
そしてスターロッドはというと、これも夢の泉とセットの存在なので、デデデ大王のように夢の泉から取り上げてしまえば周囲に影響をもたらすものではない。ノヴァ然り、夢の泉然り、スターロッドそのものはあくまで本体を動かす『鍵』のような存在なのだろう。加えて、夢の泉は先述の通りプププランドだけではなく、ポップスター周辺どころか異空間にも無数に点在している様子が伺えるため(スーパーカービィハンターズより)、一箇所の夢の泉を汚染するだけでは無差別な暴走を起こすとは言えないと思われる。
この使用に至るまでの難易度から考えられるのは、マスタークラウンやディメンションミラー、神の器、そしてID-F86よりも、ギャラクティック・ノヴァやスターロッドおよび夢の泉は比較的後年に生み出されたものではないかということだ。想定外の挙動を見せた前例の後に回避策を講ずるのは当然のことだ。
いずれにしても、これまでに登場した古代遺産やそれに関係するものは、元を辿れば与えられる神秘の方向性は「所有者次第」という事が何度も強調されており、それでもなお数々の不幸の元凶として名が残るあたりに、人の業とはと考えざるを得ない。
今年発売予定の『ディスカバリー Switch2 Edition』にて新たな物語が追加されるらしいが、これまでの経緯を考えると「生きた聖遺物」と言っても過言ではないエフィリンの身を案じるばかりである。
※余談
上記に羅列したものと、実在の聖遺物もしくはそれに乗じて後年作られた模造品や関連物について連想できそうなものを以下にメモする。
ギャラクティック・ノヴァ: 宝珠
スターロッド: 王笏
王族や皇帝の戴冠式などで使用される物品はレガリアと呼ばれ、中でも宝珠と王笏は基本的にセットであることが多い。宝珠は世界を、王笏は権力を象徴し、キリストがこれらを持つ絵画もある。また、そのレガリア自体が聖遺物を収納する容器となっている場合も。
ディメンションミラー: 聖母マリアの象徴としての鏡など
聖人崇拝が活発化して以降のヨーロッパ一部地域では、聖遺物の公開行事に集まった巡礼者が、用意した手鏡に聖遺物を映し、その聖性を持ち帰ることができると信じられていたらしい。
マスタークラウン: 荊の冠
頭に食い込む棘は受難の証。
ノートルダム大聖堂(フランス・パリ)にて保管されているものが有名。
神の器: 聖杯
満たされつつある、というハイネスの発言から。
サン・ロレンツォ大聖堂(イタリア・ジェノヴァ)やサンタ・マリア大聖堂(スペイン・バレンシア)など複数の教会施設が所有。
ID-F86: 聖骸
亡くなった聖人の肉体そのものまたはその一部。
例を挙げると、ナポリ大聖堂(イタリア・ナポリ)所蔵の聖ヤヌアリウスの血は、小瓶の中で乾ききっているはずの血液が再度液化する現象がたびたび報告されており、逆に液化しなかった年はナポリの人々にとって災厄の予兆とされている。
以上。