ある夏、遠く離れた街の無人駅へ向かった。海の見える綺麗な駅で、ホームに雪崩れるように咲いていた百日紅が鮮明に焼き付いている。風が吹いて、彼女の綺麗で長い髪が舞う。散った百日紅の花と、白のワンピースの鮮やかなコントラストに惹かれ、自然とスマホを構えて撮った。
「 」
あまり表情を変えない彼女が珍しく笑って話しかけてくる。だがおかしなことに声は聞こえない。時折付近を通る車や誰かの足音、改札近くに飾ってある風鈴の音は聞こえているのに、彼女の声だけが俺の耳に届かなかった。
「せやな、ええ曲作れそうやわ」
勝手に口が動いた。自分の声、自分で発した言葉なのにまるで他人が話しているみたいだ。
「なあ。しばらく此処で書いてもええ?」
「 」
「おおきに」
背負っていたケースからギターを用意しながら木製のベンチに座った。スマホのメモアプリを開いて傍に置く。続いて隣に彼女も座る。は、と小さく息を吸うと、潮の匂いと彼女の香水の香りが肺を満たした。駅には俺と彼女の2人だけ。
夏と自分達が混ざり合っていく。
ギターを、鳴らす。
「あ……?」
「財前!?」
全身が鉛のように重い。瞼を開けるのにさえ気力がいる。見慣れない白い天井、腕の違和感、聞き覚えのある声。
「財前!心配したんだからな!!あ、日吉のやつに伝えなきゃ!」
「うっさいわ……」
「だって2日も目覚まさなかったんだぜ?うるさくもなる!」
「日頃からうるさかったやろ自分は」
「その感じマジで財前だ〜、なんか懐かしー」
若干涙目の切原が大声で騒ぎながらスマホをいじっている。
どうやらここは病院で、