酔い覚ましがほしい「え、シンタローくん?」
すれ違ったサラリーマンの一群から突然声を掛けられて、ぎくりと心臓が止まりかけた。忌まわしくも今日は金曜夜、アルコール臭さと居酒屋の煙と、酒で気の大きくなった人間の轟くような笑い声が混じり合う、不快で恐ろしい繁華街。
用事帰りによりにもよってこんな場所を通らなければいけなくなって、極限まで気配を殺して建物の影を歩いていたのに。己には無縁の、見知らぬ社会人から名指されて、シンタローは戸惑った。
「は、はひ……」
「人違い……じゃないよね? シンタローくん、うそぉ、久しぶりぃ」
漏れるのは情けのない相槌ばかりだった。息もできずに固まっている間に、シンタローに声を掛けたスーツの通行人は、大声で高笑いする中年男を中心にした輪から抜け出してこっちへ近付いてくる。
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