晴夜のssの断片的なやつ晴明にとって、誘いのための言葉も歌も難しくはなかった。しかしそれは夜叉には通じなかった。
ある日、歌をしたためた手紙を紙人形を使って送ったことがあった。
反応はすぐにあった。
夜叉は届いたばかりのその手紙を握りしめ、「おい、これはどういう意味だ」と晴明のところまで直接尋ねて来たのだ。
「近くの桜が綺麗だから共に見に行きたい、と書いた」
「……へえ」
夜叉は一旦は感心したが、およそ気に入ったとは言い難い顔をした。それから「変な手紙だな」と一蹴した。
晴明が歌を贈るのはそれきりになった。
「なあ、あれは、もう寄越さねぇのか」
「何のことだ」
「大分前にテメェが書いていただろ、桜を見に行きたいってやつ」
「変な手紙ではなかったのか」
「変な手紙だけどよ」
「…………」
「くれねぇのか?」
「変と言われてはな」
夜叉はようやく晴明の気持ちを損ねたことを察した。
「テメェが何のつもりであれを書いたのか知らねぇ。知らねぇけどよ……」
「あれは、渡すことに意味があったんじゃねぇのか」
晴明は目を細めた。「まぁ、そうだな」
「だったら、また俺様に書けよ」
「変な手紙でも欲しいのか?」
「拗ねてんのか」
「拗ねているわけではない」