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    5656uro

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    もうちょい量が貯まったら支部投稿したいやつ
    いつものセクピスパロ前提の亮→倉と降→御
    ほんのり純哲
    純哲も書きたいなー

    好きな人の好きな人 生意気な奴だな、と思った。
     まだ伸びるのかも知れないけれど、身長は特に恵まれているわけではないが、足が速くてボディバランスの良い奴だと思った。野球は中学の部活でやっていたと言うのだからまだ慣れていないはずの硬球にもすぐに慣れてどんどん適応していく。秋には二年を差し置いてレギュラーを掴み取っていた。きっと掴み取ったものは意地でも離さない根性もあると思う。
     スタミナはないが、それはすぐに着いた。ここはそう言う環境が整えられている場所だ。それを選んでみんなここにいる。
     意思の強そうな目が睨むように俺を見る。盗める技術は全部盗んでものにして、さらに上へと追い求める捕食者の目だ。
     中間種の猫又、魂元通りにしなやかにトップスピードに至って塁間を駆け抜ける、その姿に惚れたと気付いた時にはもう、その隣には鈍臭いのにやたら目を引く狸がいた。
     普段は喧嘩をするように喧しく戯れあって友人や同輩の型から外れようとはしないくせに、二人きりになるとお互いの名を呼ぶ声が甘やかになるのを知ったのは偶然だった。
     倉持の同室の増子に用があって五号室を訪れた時、そそくさと出て行こうとした増子を呼び止めるとシーっと大きな体を縮こませて扉の中を指差した。大きな増子の身体の影から覗き込むと、倉持と御幸が二人ぴったりとくっついてこそこそと顔を寄せ合って笑っていた。
     ただの同輩ではない、友人でもクラスメイトでもないもっと親密そうな普段の姿からは想像できない様子に、増子はここから逃げようとしていたのか、二人を二人きりにしてやろうと出てきたのかわからないが、羨ましいな、と思った。
     いつもの鋭さよりも甘い優しさが溢れ出るような倉持の表情に、そんな顔をさせられる御幸が羨ましいと思った。手綱を握れとは言ったし、二人揃って監督に強制的にオフにされた日に御幸が強烈な倉持の匂いをさせて夕飯に現れて以降過激な進展はないようだけど、ゆっくり、あの二人は愛を育んでいるのだろう。
     もう少し早く気付いていれば、と思う自分と、気付いたところで一目惚れ同士としか思えないあの二人の間に割って入れるわけがないと思う自分が鬩ぎ合う。最初は生意気だったくせにいつの間にか俺を亮さんと呼び出した憎たらしくも可愛い後輩たちは、関係を壊してしまおうと思えるほど浅い付き合いでもない。後輩として可愛がれる立場も同じぐらい自分は好きなのだ。
     羨ましいと思うことは多々あるが、まだ先輩として負けてはいられないとも思う。来年度にはさらに厄介なのが後輩として入学してくるのだからそんな暇はない。
     常にオーバーワーク気味の後輩二人は、二人まとめて五号室に閉じ込めておけば、たまの休息として甘やかな時間を穏やかに過ごすだろう。休息も大事な自己管理だ。
    「倉持は先輩に恵まれたね」
     俺の言葉に増子が笑う。階段を降りてきた純が御幸知らねえか?と言うので今は邪魔すると馬に蹴られるよ、と教えてやれば少女漫画が好きな強面はワクワクとした顔で寄ってきた。
    「オフの前日はこっそり五号室に来るんだ」
     いつから持っていたのか増子は自販機の横でプリンを開けて食べ始めていた。
    「何それ、賄賂?」
    「御幸のやつ、そう言うとこは女房って感じすんだよな。女房っつーか、カーチャンっつーか、投手相手みたいに甲斐甲斐しいじゃねえか」
    「オムライスが美味いらしい」
     飲むようにプリンを食べ終えた増子が言う。流石に初日から山盛り三杯の白米を完食していた男だ。小さなカップのプリンなんてあっという間だ。
    「料理できんのかよ、あいつ」
    「倉持情報では特技だそうだ。付き合い出した頃には誕生日すぎちゃってたから、って作ってくれたらしい」
    「最初はどうなることかと思ったけどよ、あの二人。風紀も乱さず意外と可愛いとこもあるよな」
    「さっきも、二人しかいないのにくっついてイチャイチャしてたよ」
     なんだそれ詳しく、と食いつかれたがそれ以上の情報なんて持っていない。覗き込んでいたのは野球雑誌だったはずだ。色気なんて微塵もない。
    「恋がしてえなぁ」
    「純には哲がいるでしょ?」
    「なっ?!」
    「ヘタレ」
     ウガッ、と増子も頷いている。恋がしたいなんて、している本人が何を言っているのだか。
    「……今は、野球が一番だろ?!」
    「それはそうだね。倉持と御幸も、そう思ってるからあれだけで済んでいるのかもね」
     御幸のことが愛おしいと全身から優しいフェロモンがにじみ出ていた倉持を思い出して胸が詰まる。あれだけで済んでいるから、俺はまだ御幸のことも倉持のこともただの可愛い後輩だと自分に言い聞かせられているのかもしれない。
    「でも純、早く自分のものにしておかないと、哲は中間種だから重種の雄に取られちゃうかもよ」
    「だけどよぉ、あの天然だぞ?付き合ってくれっつってどこにだ?って返されたら心も折れるだろ?」
    「他人に取られるより心折れることなんてある?」
     実感がこもってんな、と純に言われてギョッとする。増子も頷いているのに気付いて驚いてしまった。
    「相手が半重種だからか、お前結構フェロモン抑えられてねえぞ」
     思春期には良くあることだが気を付けろよ、と釘を刺された。軽種の癖に鼻が効くのはさすが犬神人だ。
    「倉持は自分に向けられる感情になると途端に察しが悪くなるから気付いてねえだろうけど、御幸は気付いてるだろうな」
    「……別にどうこうする気はないよ」
    「でも、軽種の御幸からすりゃ中間種も十分脅威だって事はちゃんと覚えとけよ」
     軽種らしくない軽種だと思う。重種相手にも中間種にも物怖じしたところなんて見た事がないけれど、変え魂をしている重種のような不自然さもない。よほど訓練されているのか御幸本来の性質なのかはわからないけれど、どちらにしても大したもんだと思う。
     野球の才能があって、惜しみなく努力もできる奴だから、多少生意気でもクリスの後釜として俺たちは受け入れることが出来た。一部のやっかみは御幸の本質まで見えていない愚か者だと思う。
     リハビリに通うクリスを遠くから見つめる、御幸のあの目を見てもそんなことが言える奴がいたら、きっと俺と純が許さない。許してなんてやれない。そのぐらいには可愛い後輩だと思っているのだ。
    「御幸以外が相手なら勝ち目もあったのかな」
     同輩相手に油断した本音は、秋の夜長に溶けて消えていった。




     僕の好きな人には、恋人がいる。
     顔が怖くて、口調も怖くて、栄純に暴力的で試合中に鼓舞するためにではあるけれど、僕のお尻を蹴ったりもする乱暴な人なのに、誰よりも周りを見てその俊足で誰にも気付かせずに颯爽とカバーしてしまうような面倒見の良い先輩だ。正直、御幸先輩が倉持先輩を好きになった気持ちもよくわかる。
     だってあの人は、自分の中のかっこいいを貫けて、そしてそのまま、ちゃんとかっこいいのだ。
     半重種のチーターで、重種の少ない日本ではほぼ重種扱いをされるけど階級的には僕よりも下なのに少しも物怖じしないで、同室の栄純にするよりは優しいけれど、僕にも容赦がない倉持先輩が、誰も見ていないところではとても優しく御幸先輩を見つめて、大事なものに触れるように優しく御幸先輩に触れるのを知っている。
     オフの前日の夜、こっそり二人きりになろうとする先輩たちを邪魔する為に五号室に押しかけて、困った顔で怒る御幸先輩のその後ろで呆れて諦めた顔で倉持先輩はいつも笑っていた。
     御幸先輩を何より大事にしていて、御幸先輩の望むことを誰にも見えないところでは何よりも優先しているのに、どこか倉持先輩は御幸先輩を諦めているようにも見えた。
     僕が押しかけると諦めて相手をしてくれる御幸先輩と、怒ったフリをしながら、どこか諦めてしまっている倉持先輩はとても似ているように思えた。
    「大事なのに何で倉持先輩は御幸先輩を諦めようとしてるんですか」
     僕の問いかけに倉持先輩がポカン、と口を開けて固まった。甲子園が終わって先輩たちは国体に向けて練習をしている頃、たまには練習に付き合ってほしくて御幸先輩を探してウロウロしていたら、ちょうど二人が自販機横のベンチで休んでいたので駆け寄るとそのタイミングで御幸先輩は監督に呼ばれて立ち去ってしまい、倉持先輩と二人きりになってしまったのでちょうどいいかとずっと気になっていたことを問いかけた。
     言葉が飲み込めないのか何度か倉持先輩は瞬きをした。いつもは鋭い視線が、キョトンとしている。
    「倉持先輩でも重種は怖いですか」
    「……そりゃ、怖えよ。お前らが本気出したら、俺はきっと簡単に御幸を取られちまう」
    「御幸先輩が望んでなくてもですか?」
    「お前は、我が儘に見えて根本的に御幸に甘いからアイツはまだ俺が好きだって言ってるけど、お前に本気出されたら中間種の俺には太刀打ち出来ねぇだろ」
     力なく笑うこの人は初めて見た。いつも楽しそうに力強く、独特の声を上げて笑っている印象が強いこの人が、こんなにも力なく笑うのだと思うとお腹の底の方が落ち着かない。
    「簡単に手放してやる気はねえけど、きっと、俺が誰かに御幸を奪われる時は一瞬だろうよ」
     ぐっと倉持先輩が右手を握った。不良のように見えて、(実際に不良だった頃もあったのだと聞いた)真っ直ぐで筋の通った気持ちの良い人だと思う。
    「お前が御幸を好きなぐらい、俺はあいつを愛してる。誰かに奪われても、想い続けることは出来るし、そうなった後も御幸が一時でも俺を選んで幸せだったって思わせられたら俺の勝ちだろ」
    「……それは、嫌です」
    「はぁ?お前は御幸が好きで自分の雌にしたいんだろ?」
     モヤモヤする。言葉にできないモヤモヤがお腹の中で渦巻いて、試合に負けた時みたいな、途中でマウンドから降ろされた時に似た感じがする。
    「僕は、重種だから選ばれるなんて、嫌だ」
    「は?」
    「僕だから、選んでもらえるようになりたい、です。重種だから倉持先輩に勝てた、なんて選ばれたって嬉しくない」
     はぁー、と倉持先輩が長く息を吐き出した。その後でさっきよりはいつもの独特の笑い声に近い笑う声が聞こえた。
    「そう言えるお前だから、アイツはいつも一回受け止めたくなるんだな」
    「投球の話ですか?」
    「……どうせ重種に負けんなら、お前がいいな」
     立ち上がった倉持先輩が、背中をポンと叩いて寮の部屋の方へ歩いて行った。優しくて温かい掌は、御幸先輩によく似ている。
    「あれ?降谷しかいねえの?もっち先輩いなかったか?」
    「……さっきまで、話してた」
     先輩の姿が見えなくなった頃、栄純が顔を出した。倉持先輩を兄のように慕っているからか、何か用事でもあったのか探していたようだ。お前倉持先輩と仲良かったか?と首を傾げている。
    「……僕だって、後ろを守ってもらってたんだから話ぐらいする」
    「御幸を奪い合ってるしな。まあ倉持先輩の圧勝だけどな!」
    「何で君が勝ち誇ってるの」
     何故か自慢げに栄純が胸を張る。栄純はいつも倉持先輩の味方だ。もしかしたら同室だから弱味でも握られているのかもしれない。
    「御幸ももっち先輩も、重種っぽい匂いがすんだけどなぁ」
    「……そしたら、ずっとあの二人は一緒にいられるのかな」
    「そうじゃなくても一緒にいんだろ、あの人たちは」
     心底不思議そうな顔で栄純が僕を見た。倉持先輩が、あんなに不安に思っていることを栄純は知らないのだ。何だかそれが、少しだけ嬉しくなる。きっと、御幸先輩だって知らない倉持先輩の秘密だ。
    「僕も、僕じゃないなら御幸先輩の隣にいるのは倉持先輩がいい」
    「諦めんのか?散々振り回しといて?」
    「……まだ諦めない」
    「まあせいぜい頑張りなさい!降谷くん!」
    「……だから、何で君が上から目線なの」
     遠くから同輩の僕たちを探す声がした。
    「自主練行こうぜ!」
    「練習も負けない」
    「いいや俺が勝つ!!!」
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