汝、良き隣人たれ汝、良き隣人たれ
護りたいものが多い人生だ。
明日には消えてなくなるかもしれない命を知っているから、目に映るもの全てが朧気に見えた。気まぐれに吹く秋風に、冬に注ぐ凍えそうな雨にかき消されそうな灯火を必死に覆い隠していたら、いつの間にか『英雄』などという大仰な呼ばれ方をしていた。臆病な獣は、各々の勝手な想像、思い込み、理想を以て怪物へと成り果てたと、そんな次第である。
だからこそ、矮小でつまらない存在だと悟られたくないからか。ーーー目の前の少女の口から英雄と出た時に、ギクリと心臓が痛むのを感じた。
「金が居るなら、掘り起こした宝の地図がある」
「おたからっ。それって、いくらになる?」
羽は市場で売り捌けば百万は下らないと告げると、ふんふんと鼻を鳴らして自分が取り出すよりも早く鞄に手を突っ込んだ少女は、目当てのものを取り出すと早く早くと開封を急かした。稚児のようだ。話を無理やり逸らしたことに成功した自分は瓶を開ける。
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