悪夢に救いあれ『 』
目が覚める。
夢の中とはいえ誘惑に乗った自分自身の弱さに勇者は怒りを覚える。
「酷い夢を見た」
過酷な旅を続けていく。旅の中で心労は限界に達していた。巨悪が蝕みつつある世界を憂い、誰もが勇者に救いを求める。
救われたいのは勇者も同じであった。
勇者は竜王の元に辿り着く。広い竜王城の中であっても迷うことはなかった。初めて来た場所であるのに、だ。
竜王と相対して勇者は気付く。この光景を見るのは初めてではないと。
同じなのだ、あの悪夢と一言一句、全く違わず。
ならば次に竜王が話す言葉は
(何を考えている、私は)
期待してしまった自分自身に勇者はゾクリと寒気がした。
(あれは夢だ、夢なのだ、己の弱さが見せた、私に都合の良い夢に過ぎないのだ)
あの誘いが現実になってしまったら、私は
『 』
張り詰めた糸が、切れた
目が覚める。目に入るのはいつか見た宿屋の天井、
朝だというのに身体が重い。まるで眠る前と同じ、寧ろそれよりも疲れている気さえする。
「大丈夫ですか?随分とうなされていたようですが…」
旅は続く。そして繰り返す。
何度悪夢を見たか分からない、朝目覚める度に陽の光を忌々しく感じる。
目が覚める度に、魔なる者に想い焦がれる。
幾度目かの悪夢、一切の迷いなく竜王の元に向かう。
「よくぞ来た、アレフよ。」
次の言葉を聞く前に
剣を差し出し、跪く
「私を、助けてくれ」