書きたかったところーーーー耳が痛くなるほどの叫びともとれる鳴き声は、誰が元々人間であった者の声と分かるだろう。人間には見慣れない紫色の角が額から生え、手は同じ黒に近い紫色で大きく肥大してる。その手は立派な爪が生えており、熊…いや、もしかしたらそれ以上かもしれないぐらいには大きい。耳はとんがっていて、おとぎ話にでるエルフを彷彿とさせる。対照的に、口には鋭い歯が並び生えており、まるでモンスターである。
…今まで述べてきたことはおとぎ話の悪者か?それとも子供が考える悪魔か?いいや、違う。これは同居人であるトム…無論人間で「あった」トムが、いわゆるモンスター化した際の結果である。
何かしら問題が起きた時、そのきっかけというものは重苦しいものとは限らない。単なる口喧嘩であったり、日々のストレスなどといった誰もが経験しているであろう事が、案外重要な何かに作用することだってある。もし、トムがモンスター化したのが問題であったら、きっかけなどくだらないことであろう。トードが何かしたり、トードが関係したり、もしかしたらエッドやマットが関係したり、やっぱりトードが何かしたに違いない。しかし、今となっては関係ない。兎にも角にもトムを鎮めなければならないのだ。前は鎮めることに時間がかかり、家の中が大変なことになってしまった。その二の舞を踏むわけにはいかない。
幸い、トムは完全にモンスター化しておらず、手の肥大や角などを除けばいつものトムと変わらない。…とはいえ、人間とは言えないのは確かだが。
💚「ト...トム!!お前…!」
エッドは驚いて言葉がうまく出ない。エッドはトムに何かしただろうかと考えを巡らすが、何も出てこない。
💜「トム!!僕たちの事…わかる?トム…?」
マットは恐る恐る声をかけるが応答はない。ただトムは、真っ黒な目…?でこちらを見ているだけである。
💚「トード!!お前また何かしたのか?!」
❤️「は、はあ?!なんで俺なんだよ?!」
💚「トムがモンスターになる原因って大体お前しかいないだろ!」
エッドはトードに対して叫んだ。一見、トードが濡れ衣を着せられているように見えるが、割とトードが原因の時が多い。
💜「そ、そうだよ!だってエッドはともかく、僕は何にもしてないもん!!」
❤️「マット!お前まで!!…あー、でも確かにスーザン触って壊したし、手を滑らしてスミノフの瓶割っちまったけどよ…」
💚💜「完全にトードのせいじゃん!!!」
やはり、トードが原因の可能性がすごく高い。
❤️「じゃあ、俺が原因だとしてもどうすんだよ!!」
💚「そ、それは…」
そう、今は原因を突き止めることが目的ではない。トムの怒りを鎮めるのが目的だ。しかし、3人ともいい案が出てこない。
ーーーートードが考えたその瞬間、大きな手がトードを掴んだ。
❤️「…グッ…!!ガッ…」
💙「………」
💚💜「トード!!」
トムはトードの頬をガシッと掴んだ。人外であるトムの握力に生身の人間が勝てた試しがない。トードは精一杯トムの手から逃れようとするが、離れるどころかびくともしない。
💙「…絶対許さねえ…」
💚「トム!!離せ!トードが死んでしまう!」
💜「トム!トムってば!バカ!離してあげなよ!!」
2人がトムに叫ぶが一向に離す気配がない。よほどトードにイラついているようである。まあ誰だって好きな物を奪われるのはイライラするが。
しかし瞬間、パアァァンと乾いた音が聞こえた。
トムは叫ぶ。思わずトードから手を離した。トムは自分の身に何が起きたか分からなかった。トムの腹部からは…血が出ていた。
そう、トードが持っていた銃でトムを撃ったのだ。
トリガーハッピーで、銃を始めとした武器を持っている彼は、常備していたってなんらおかしくない。そもそも自分の身を守るためであるから使ったっておかしくはない…はずである。
💚「トード...お前馬鹿か?!?!」
💜「ちょ…エッド!流石にそれは…!」
❤️「うるせえ!!あのままじゃあ俺は…骨が折れたどころのケガで済まねえところだったんだぞ!!」
💚「だからってお前…!トムが…下手したら街中を暴れるんだぞ!!」
エッドはトードの行動に対し、凄まじく批判した。友であるトムが、モンスターとは言え撃たれたからか?
違う。トムが、この痛みやイライラで街中を暴れられてはどうしようもないからだ。完全にモンスター化してしまったトムではなかなか鎮めることはできない。もちろんそんなことは滅多に起きない。だからこそ、完全にモンスター化した際の対処が分からないのだ。一つ言えることは、完全に人外になった時に、ただの人間では対処できないということだろう。
💚「…!そうだ!トムは…?!」
エッドは弾かれたように振り向く。マットとトードもつられてトムを見る。トムは…
💙「…….zzzzz」
立ちながら寝ていた。
結局、トムはトードが撃った強力な麻酔銃で眠ってしまった。寝てしまった彼の体は徐々に人の姿に戻っていき、先ほどまで立派に生えていた角や、鋭い歯は引っ込んでいった。手の大きさも元に戻り、普通の男性の手であった。
💚「はあ…。ほんと怖かったよ…モンスター化したトムって半分人間でも怪力で図体が大きくなるもん…鎮まってよかったあ〜!」
💜「ね〜、ホントそうだよ!この前なんか壁どころかトード吹っ飛ばしちゃったしさ…」
❤️「あんときは俺じゃなくてエッドが原因だったけどな」
💚「だってくだらないゴミかと思ったらトムの持ち物だったもん…あれは正直しょうがないよ…」
💜「え?僕は、トムっていいセンスしてるなあって思ったけど?」
❤️「お前は土俵が違う」
3人が立ったまま寝ているトムを横目に談話を繰り広げている。3人はソファに座った。今回は運が良く、たまたまトードのところに強力な麻酔銃の弾が手に入ったそうだ。しかし高価であるから簡単には買えない代物だったそうで、トードは少し悔しがる。
❤️「ああ〜!!トムに使っちまったのもったいねえ〜!!」
💚「街が壊れて弁償するよりいいでしょ…」
💜「それより僕の顔が傷つかなかっただけいいじゃん!!!」
いつもの明るい会話が聞こえる。数分前まで地獄のような空間だったのが、嘘のように明るい。
💚💜❤️「やっぱ平和が一番だなあ〜!」
本当にそう思っている者と、別にそんなことは思ってない者と、全然違うことを考えている者の声が綺麗に重なる。トムは相変わらず寝たままだった。3人は仲良くテレビを見始め、いつもの日々が戻ってきた。
トードがトムにしこたま怒られ、スーザンの修理代を払わなければならなくなり、スミノフを奢らなけらばなくなったのは、また別の話である。