……ある日、百夜が同い年か、少し歳下に見えるくらいの子供を連れ帰ってきた。華奢で小柄であるため、いまいち判断がつかない。
左サイドがサラサラのボブヘア、右サイドがベリーショートと特徴的な髪型と、光の角度で青く見える、夜色の目をした……おそらく少年。
なんでも、自分の名前以外なにも覚えていなくて。身元のわかるようなものも、全く携行していなかったため、警察でも対処に困ってしまい、とりあえず居合わせた百夜が預かることにしたのだそうだ。
とはいえ、百夜は仕事で留守も多い。まあ、相手は乳幼児でもないし、そのあたりは自分がうまくやればいい話だ。
「 ……ってことで、今日からしばらくうちで暮らすことになった、浅霧幻くんだ。
幻くん、こっちは…… 」
紹介されて、なぜか少し居心地悪そうに、彼は口を挟んだ。
「 ……ゲン、でいいです……あ、ごめんなさい、遮っちゃって」
遠慮がちな口調に、百夜は屈託なく笑う。
「 それで、こっちが」
「 千空。……まあよろしく頼むわ、ゲン」
百夜の言葉を再度遮って自己紹介すると、夜色の瞳がこぼれ落ちそうなくらい見開かれた。はたはたと、頬に透明な雫が零れ落ちる。
「 せんくう、ちゃん…… 」
茫然とした声で、耳なれない呼ばれ方をして。怪訝に思って問い返した。
……なんだ?コイツ、俺のこと知ってる?
いや、俺は知らねぇぞ。記憶にもない。
「 あ"??????」
そんな疑問を凝縮した声に、萎縮したのか。
ゲンはおろおろと口を覆う。
「 え?あれ……?……ご、ごめん、…… 」
途方に暮れたような様子が、あまりに拠り所なく見えて。俯くゲンのあたまを撫でた。
「 別に好きに呼びゃいいだろ」
事情については落ち着いた頃に確認すればいいし、殊更怒っているわけでもない。
言外にそう伝えると、ほっと息を吐く音が聞こえて。緊張が解けたように、ふんわりとほほえんだ。
「 ……あ、ありがとう、千空、ちゃん……千空ちゃんは、やさしいね…… 」
そんなふうに言われると、なんだか逆に居心地が悪くて。フォローを求めて百夜の方を向くと、にこにこと満面の笑みで見守られているのに気付く。
「 ……あ"〜、とりあえず飯にすんぞ百夜。ラーメンでいいか?」
「 おっ!いいなラーメン!……千空のラーメンは美味いぞ〜!」
満面の笑みのまま、百夜はゲンを振り返った。ゲンの方もつられたように笑みを返す。
「 そういやテメーはなんか食えないもんとかねぇのか?逆に好きなモンでもいいが、一緒に住むんだしその辺言っとけ」
「 食べれないもの……はないと思う。好きなもの………… 」
「 なんかあるか?」
「 …………コーラ 」
ぽそりと返された言葉に、ほーんと頷く。
「 じゃ、風呂上がりだな。……知ってっか?コーラは1985年に、初めて宇宙で無重力を体験した飲み物だ。……唆るじゃねぇか」