キバナがダンデの髪を切る話テレビで華々しいダンデの功績を描いた番組がやっている。
薄い液晶画面の向こうでは、沢山の歓声と紙ふぶきの雨を受けて紫色の長い髪がスローでたなびく。
ソレを、俺越しに見るキバナの手には、俺が手紙の封を開けるために使っていた鋏が握られている。
はぁはぁと荒い息を吐き、ギラついた目で俺を見下ろしているキバナが美しくて堪らない。
「何笑ってんだよ」
突然、髪を掴まれて、痛さに顔が歪む。
ブチブチと数本、髪が抜けたような気がして、声を上げそうになったが、耐える。キバナの声を聞き逃したくない。
見逃したくない。感じていたい。
「テレビのなかのお前は、綺麗だったよな。俺様がどうやったって追いつけなかった。
それが、突然子供にチャンピオンの座を引き摺り下ろされて。本当に追いつけなくなりやがって…」
掴まれた髪の束に鋏が入る。キバナの顔からその髪の束へと目をやった瞬間、ジャキっという音と共に、
キバナの手に長い紫が絡みつく。
俺が、無数にキバナにしがみついて縋りついているみたいで、最高に興奮して嫉妬した。
背後では、チャンピオンの俺に向けられる無数の歓声。明るい光りの象徴。
それに比べて、俺のこの心のなんて醜いことか。キバナに愛されたい…
「俺の髪…」
「あ?……お前、本当に、なんで笑ってんの?」
ああ、君の手に残る無数の髪の毛のように、俺もキバナに愛されたいんだぜ。