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    ぴわこべや

    ※実在人物とは関係ございません※
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    ぴわこべや

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    【bjyx】※実在人物には一切関係ございません※
    なんちゃって王朝後宮ものAU

    かつて国軍の精強さで名を馳せたかの国は、妃百余名、宮女数千人を囲う大後宮によって今やその名を別の意味で轟かせている。現皇帝は既に齢五十を超えており、後宮もさすがに整えるのでは、太子に譲位をするのではと囁かれつつも未だその後宮も、治世も揺らぐことなく今日を迎えている。

    その広大な後宮の隅に、ひときわ簡素な建物がある。
    塗もなく土壁も汚れ、周りを見ればいっそ畜獣を飼っている小屋のようではあるが。扉を開いてみればつくりはしっかりとして、調度も後宮の中央、妃たちの住まう場所に引けを取らない。常に香が焚き染められ、甘さのないその香りは、当地をよく知るものたちにはひっそりと高雅なものとして持て囃されていた。

    (優雅、淡麗、優柔、高潔な花の君)

    それほど長くもない廊下を歩き、念のため伺いを立ててから、その若い武官は扉を押し開けた。欄間の透かしには兎が数羽飛んでいる。昼の明かりを透かして、なんとも元気そうだ。

    (……春知らぬ君)

    その透かしを通り過ぎた陽の光を浴びて、長躯の男が長椅子からはみ出しながら眠っていた。腹にかけていたらしい布はずりおち、口はぽかんと開いている。適当に積み上げてある派手な色の衣や綿入れをぼんやりと眺め、武官、王一博は長く溜息をついた。

    「……起きなよ、昼だよ」
    「起きない……」
    「起きてんのかよ……」

    長椅子へ近寄り、もう一度溜息をつけば、しぶしぶと言った風で男は起き上がった。目の周りを擦ろうとするので慌てて手を抑える。

    「俺は目も擦っちゃいけないのか、かわいそうな俺……」
    「わかってやってるだろ、俺がこれ、手、握ってるの見つかったら切り落とされるのあんた知ってる?」
    「どこを落とされるの」
    「あんたも無いとこかも」
    「残念、俺はあるんだよなあ、見る?」

    見ない、と答えて手を離し、武官は懐から布を取り出した。傍にあった水差しから水を取り、軽く布を湿らせて目元を拭ってやる。

    「春知らぬ花の君」
    「なにそれ」
    「あんたのあだ名」
    「俺はまだまだ咲けてないってことか~」
    「冬に咲く花かも」
    「褒めてくれてる? もうちょっと褒めてよ博弟」

    いやだ、と言って廊下へ出る。控えていた宮女を呼び出して、朝の支度の準備をさせて自分は室を出た。男は女性たちには従順で抵抗しない。そのツケとばかりに王一博に毎度当たってくるのはどうも納得がいかないが、この脂粉まみれの場所に立ち入る立場と引き換えに与えられた試練なのかもしれなかった。
    そもそも、後宮に立ち入るというだけで胸躍ることもないのだけれど。

    王一博が護衛と世話をしている男。
    後宮の片隅に住まうその人は、番外の妃でもあった。

    当代の皇帝は色を好んだ。女色に限ったものではあるが、特に美しい女を好んだ。愛らしいより肉感があるより、顔の美しくて整ったもの。そのお眼鏡にかなってしまったのがこの男の運の尽きだった。すでに長じていたにもかかわらず、抵抗むなしく両親からも引き離され、秘密裏に後宮へ送られた。与えられた官職はかたちばかりで、古代の衣装などについての研究調査とはされているが、その実態はほとんど昼寝だ。
    皇帝は数か月おきにふらりと立ち寄っては、彼に実際の古い衣を着せ、何枚か脱がせて、また着せている。王一博も一度立ち会ったが、あまりに迂遠な見世物であくびをかみ殺すのが大変だった。性欲丸出しでも居心地は悪いだろうが。あまりに見え辛すぎると今度は理解に困ってしまう。

    彼曰く必死の抵抗で男根は守ったらしいが、なぜそれが許されたのかも理解できないところではあった。帝位はほぼ次の太子に譲られることが固まっているし、その後ろにも数十人の血族たちが列をなしている。いまさら血の繋がらない庶子ができても構わないのかもしれないが。

    宮女が桶や水を持って退出する。王一博は音もなく部屋へ入った。衣服を整えた男はなるほど美しい。髪も目も、そのかたちも整っている。けれどそれで人生を曲げられたとなると褒め称える気もしなかった。

    男は珍しく椅子に腰かけて、筆を執り、いくつかの書物を開いている。
    王一博はゆっくりと首を傾げた。

    「……肖大人、……なにしてるんですか」
    「え? 仕事」
    「昨日までやってなかった、っていうか今まで寝てたのに」
    「気が変わったんだよ、ううん……まあ、いつここを出ることになるかわからないし。それに弟弟に春知らぬ、なんて言われたら頑張りたくもなるだろ」
    「いや、そんな気があって言ったんじゃないけど」
    「わかってるよ、お前は悪いことを言うようなやつじゃない。俺が、がんばりたくなっただけ」

    なら、と頷けば声を上げて笑われて、言い返そうとしたら言いつけが飛んでくる。あの資料、この資料と言いつけられてかき集めるうちにすぐ陽は沈んだ。

    遠慮がちに扉を叩かれ、王一博は戸口へ向かった。夕餉を受け取って卓へ持っていく。夕食の時間には退出して、膳を見守った後は隣にある自分の部屋へ引っ込んでいることがほとんどだったので新鮮だった。先に箸をとって、毒見にと少しずつ摘まむ。

    「……おお」
    「なに」
    「いや、孕みもしない男を殺す奴はいないだろ」
    「普段あんたのお膳も警護してるんだけど、今日はできなかったから」
    「ああ、だからいつもはだいたいご飯の前に違う人に代わるのか……」
    「作ってる間はそいつ、持ってくるまでが俺。日ごとに細かく替わってる」
    「……ごくつぶしで、手間までかけさせてごめんな、老王」
    「いいよ、戦のない軍中ってめんどくさくて苦手だし。前線もそれはそれで面倒だし。金はいいし」

    はい、と膳を差し出す、使った箸をそのまま差し出せば、肖戦は少しためらってから受け取った。のつのつと食事を口に運び始める。朝からなにも食べていないはずなのにあまり食は進まないようで、王一博は軽く首を傾げ、立ち上がって宮女を呼んだ。程なくして、小さな包みを受け取って戸口の前へ座る。肖戦が不思議そうな顔で、手にぶら下げられた包み、粽を眺めてくるのを王一博は受け流した。ぺろりと竹の皮をむいて口に運ぶ。気の利いた娘だったようで、温かいのがありがたかった。何口かで平らげてふと前を見れば、肖戦はまだじっとこちらを見ている。

    「なに。食べなよ」
    「……いや、おまえ、うまそうに食べるな」
    「うまいもん。食べる?」
    「いや、いいよ。自分のあるし」
    「そっか」

    じっとこっちを見て、ちょっと食べてを繰り返すものだから。王一博も少々肖戦のお膳の具合を伺いながら調子を整える羽目になる。お互いに盗み見るようにして、揺れる灯火の中夕餉を食べ進めた。




    最初に出会った時は、もっとふっくらとしていた。
    もっと寒々しくなんの調度もない、官職の言い訳に使う衣装だけが畳んで置かれた樟脳くさい部屋の中。つねに怯えて嘆いて、悔し気で。いつ出られる、いつ自由になれると一日に何度も尋ねてきた。今はそれをすべて飲み込んでしまったような顔をしている。悟りきった顔をして。痩せて、痩せて無くなってしまいそうで。
    箸が動く。なんとか、ひとかけらの食物が口へ運ばれる。そのたびにじわりと腹の底で安堵が広がる。今度から、食事へ同席するのも悪くないように思えた。

    この肩入れの名前が恋だと、きっと王一博だけが気付いている。




    つづく
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    ぴわこべや

    DONE【bjyx】※実在人物には一切関係ございません※
    なんちゃって王朝後宮ものAU
    かつて国軍の精強さで名を馳せたかの国は、妃百余名、宮女数千人を囲う大後宮によって今やその名を別の意味で轟かせている。現皇帝は既に齢五十を超えており、後宮もさすがに整えるのでは、太子に譲位をするのではと囁かれつつも未だその後宮も、治世も揺らぐことなく今日を迎えている。

    その広大な後宮の隅に、ひときわ簡素な建物がある。
    塗もなく土壁も汚れ、周りを見ればいっそ畜獣を飼っている小屋のようではあるが。扉を開いてみればつくりはしっかりとして、調度も後宮の中央、妃たちの住まう場所に引けを取らない。常に香が焚き染められ、甘さのないその香りは、当地をよく知るものたちにはひっそりと高雅なものとして持て囃されていた。

    (優雅、淡麗、優柔、高潔な花の君)

    それほど長くもない廊下を歩き、念のため伺いを立ててから、その若い武官は扉を押し開けた。欄間の透かしには兎が数羽飛んでいる。昼の明かりを透かして、なんとも元気そうだ。

    (……春知らぬ君)

    その透かしを通り過ぎた陽の光を浴びて、長躯の男が長椅子からはみ出しながら眠っていた。腹にかけていたらしい布はずりおち、口はぽかんと開いている。適当に積み上げてある派 3007

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