「やっちゃったなぁ……」
口の中が苦い。いや、正しくは甘さが無いと言うべきか。手に持ったティースプーンをことりと置くと、グ・ラハは小さな溜め息をつきながら瓶の蓋を閉めた。貼られたラベルは艶消しの黒地で、金の箔押しの文字が上品に光る。
ピュアココア。純粋という言葉の通り、砂糖もクリームも入っていないククル豆百パーセントの粉末が、大ぶりなガラス瓶にぎっしりと詰まっていた。
時は週末。昨日のうちに集中して仕事を片付けた甲斐あって今日は半日で切り上げられた為、冒険者よりひと足先に家へと帰る事になったグ・ラハは、たまにはお茶の用意でもして迎えてやろうと思い立ったのだ。夕食はきっと「冒険者謹製」というグ・ラハにとっての最高級ディナーが供されると予想しているので、茶菓子はなるべく響かない軽いものが良い。そんな事を考えながらうきうきとした足取りで立ち寄った輸入食品を扱う行き付けの店で「今回は大層上等なものが入った」と薦められたのがこのココアだった。
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