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    りんりん

    @dadamore_rinrin

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    りんりん

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    ディア〆。人間パロ。BがLしてるお話なので苦手な方はご注意ください。

    #ディアシメ
    diasime

    主よ、人の望みの喜びよ 窓から差し込む春の柔らかな日差しを受け、彼の白い頬が輝いている。私はぼんやりとその美しさに見惚れていた。
    「うん、君のいう通りとても興味深い。借りてもいいのか」
    「もちろん。私はもう読んだし、君とこの本について語り合うのが楽しみだ」
     私が応えると、ルシファーは綺麗な微笑と共に本を閉じ、その本を愛おしげに眺めた。彼のこんな表情が見れるなら、この本を探した労力も、費やした金銭も、全く惜しくはないと思う。

     私がこの美しい青年と出会ったのは、二年ほど前。街中の古書店だった。
     神学校の学生だという彼は、知人に勧められた本を探していた。偶然客として店に居合わせた私は、彼と店員の会話を耳にした。盗み聞きなどと人聞きの悪い言葉で責めないでほしい。確かに私は一目で彼の美しさ、その佇まいに心惹かれてついふらふらと近づいたのだが、彼の探す本のタイトルが聞こえたのは、本当に偶々なのだ。そして、彼の探す本が我が屋敷の蔵書にあったことも、類稀なる幸運だった。
     私は可能な限り紳士的に、彼にその本の貸与を申し出た。
     すでに何軒もの書店を巡り、私たちが出会ったその書店にも求める本はないと知り、ほとんど諦めかけていたという彼は、躊躇しながらも申し出を受けたのだった。
     先代の集めた蔵書は、私にとってはただの暇つぶしの道具でしかなかったが、彼にとってずいぶん魅力的な宝の山だったようだ。
     私は本を口実にたびたび彼を呼び出すようになった。
     以来、ただ顔を合わせて本について語り合う、それだけの付き合いがもうずっと続いている。この生真面目で美しい青年と本について語り合う時間は本当に楽しかった。 


    「もうこんな時間か。そろそろ失礼しなくては」
     街から鐘の音が聞こえ始め、ルシファーが立ち上がった。
    「えっ、もう帰ってしまうのかい?」
     ぽろりと本音をこぼしてしまった私の顔を見ると、彼は困ったように眉を下げて微笑んだ。
    「また来るよ」
     子供に言い聞かせるように言われては、流石にこれ以上引き止めることもできない。それでも名残惜しくて、私は未練がましくエントランスで彼を見送ることにした。
    「ずいぶん日が長くなったな」
     一歩外へ出たルシファーは、降り注ぐ陽光に目を細める。
     明るい光を背に振り返った彼は、まるで彼自身が発光しているかのように淡い光をまとっていた。
     その姿が光に溶けてしまいそうに儚く見え、余計に寂しい気持ちになる。
     ルシファーは再び困ったような微笑を浮かべた。
    「本当に、君は……」
     そう小さな声で呟きながら、彼は光を纏う手を私の方へ伸ばす。だけどその手は私に触れる前にぴたりと止まり、降ろされた。
    「ディアボロ。本当に君は、困った領主様だな」
     その言葉と、どこか痛むように僅かに眉を寄せた微笑を残し、ルシファーは帰っていった。
     私はただ、薄暗い屋敷の入り口に突っ立ったまま、明るい日差しの中小さくなってゆく彼の背中を見送った。


     ルシファーが去り、静まりかえった屋敷にため息が落ちる。
     街にほど近いこのこぢんまりとした屋敷は、先代が愛人を住まわせるために建てたものであり、私が幼少期を過ごした場所でもある。今はもう誰も住んでおらず、私もずいぶんと長い間遠ざかっていた。ルシファーの学校が近く、彼が立ち寄るのに都合が良いため、二年ほど前から時折ここで過ごすようになった。
     人が住まわない家は廃れてゆくと言うが、ここは手入れが行き届いており、いつ訪れても埃ひとつない。それでいて私がここを訪れるときは、必ず無人だった。おそらくはあの万事にそつのない執事頭が気を回してくれているのだ。
     私は一人の気安さから、ソファにだらしなく横になった。
     人嫌いを気取るつもりはないが、たまに一人になると、やはり気楽だ。
     今ここを訪ねてくるのは、せいぜいルシファーと……。
     鮮やかな青い瞳が心をよぎるとほぼ同時に、エントランスのドアの音がして、軽やかな足音が近づいてきた。
     “悪魔の話をすれば——”
     あまりのタイミングの良さに、「彼」には全く似つかわしくないそんな諺が心の中に浮かんできてしまったほどだ。
     足音は勝手知ったる様子で、迷わず私のいる居間に向かってくる。なんだか少しくすぐったいような気分でのんびりソファにくつろいでいた私は、部屋に入ってきた足音の主を見た途端、ぎょっとして飛び起きた。
    「どうしたんだ、シメオン、びしょ濡れじゃないか」
     シメオンはいつもと変わらない朗らかな笑顔を浮かべているが、頭からシャワーでも浴びたかのようにずぶ濡れだった。たっぷり水を含んだダークブラウンの髪から水滴がパタパタと落ち続け、白いシャツもすっかり濡れて肌に張り付いている。
     私は慌てて奥の部屋からリネンをかき集め、彼に次から次へと被せた。
    「早く拭きなさい、風邪をひいてしまう。すぐ暖炉に火を入れるから」
     頭から何重にもリネンを被せられた彼は、くぐもった笑い声をあげた。
    「近くでスケッチしていたんだけど、急に降り出したんだ。朝からいい天気だったからちょっと油断しちゃった」
     窓の方を見ると、外は明るく晴れたまま、さあさあと雨が降っていた。珍しい天気だ。降り注ぐ雨は太陽の光をたっぷり含んでいて、まるで光そのものが降り注いでいるようだった。
     天からの祝福だ。
     私は暖炉に火を入れるのも忘れてしばしその光景に見入っていた。
    「きれいだな」
     私の呑気な呟きを聞いたシメオンが小さく笑った。
    「残念だったね、もうちょっと早く降ってくれたら兄さんを引き止める理由になったのに」
    「何を言ってるんだ」
     そう受け流しながらも、ふとルシファーもこの雨に濡れたのだろうかと心配になった。
    「大丈夫だよ。降り出した頃には、兄さんは家についていたと思う」
     シメオンは私の心を読んだかのようにそう微笑む。
    「早く拭いて、火に当たりなさい」
     私は彼の言葉には直接答えず、足早に暖炉の前へ行き火を入れた。
     春とはいえ、水浴びには早すぎる。それに朝夕はまだ冷え込む。日当たりの良いこの部屋もじきに気温が下がってしまうだろう。
     徐々に安定し始めた火を見守っていると、シメオンが近づいてくる気配があった。振り返ると、彼は全ての衣服を脱ぎ捨て、大判のリネンだけを体にまとっている。つい気まずい思いで目を逸らすと、彼は小首を傾げ、小さな笑い声を上げた。揶揄するわけでもない、ただ絵本を面白がる子供のような笑い方だ。
    「どうして今更そんな反応するの」
     今更。
     彼に私を責める気持ちはなかったのだろう。だけど私は後ろめたくて、彼の顔を見ることができず、ただじっと暖炉の中の炎を見つめていた。
     
     ルシファーの弟であるシメオンが初めてこの屋敷を訪れたのは、ルシファーと知り合ってから半年ほど経った、夏の終わりだった。今日と同じように、ルシファーが帰っていった後に、突然ふらりと訪ねてきたのだ。
     そしてその日のうちに私は彼と、——ルシファーには決して打ち明けられない秘密を持ってしまった。
     なぜあんなことになったのか、今でもわからない。
     だけどそれから私たちの関係はずっと続いている。彼はいつもルシファーが立ち去ってから、ふらりとこの屋敷に現れる。今日みたいに。
     そして私はルシファーに何も告げることができないまま、シメオンをこの屋敷に迎え続けている。
     ルシファーにも世間にも決して知られてはならない関係。未来のない関係だとわかっていても、どうすることもできないまま。

     傍にシメオンの視線を感じながら、安定した火の中に薪をいくつか放り込み、火が移ったことを確認する。
    「熱い紅茶でも淹れよう」
     私は立ち上がってキッチンへ行こうとしたが、ちょうど進行方向にシメオンが立っていて、私の行く手を妨げるような形になった。
     ただ彼を少し避けて紅茶を淹れに行けば良い。
     それだけのことだ。
     それなのに、彼と正面から向き合ってしまった私は、動けなくなる。
     緩やかなウェーブを描く前髪の間から覗く青い目。じっと私を見つめるその瞳が、暖炉の火を映してきらきらと不思議にきらめいていた。 
     何度体を重ねても、シメオンが自ら手を伸ばすことは一度もなかった。彼はただこうして綺麗な青い目で私を見つめるだけだ。
     まるで人間が自ら堕落してゆく様を鑑賞する美しい悪魔のように。
     私は引き寄せられるように彼にくちづけた。
     唇は冷えているのに、そこから溢れる吐息は熱く、私はその熱を求めて彼を抱きしめ、腕の中に閉じ込める。
     本当は何もかも私の錯覚で、彼はこんなこと少しも望んでいないのかも知れない。
     私こそが、大切な友人の弟に自らの欲望を押し付け姦淫する悪魔なのだろう。
     それでも腕の中のしなやかな体は猫のように柔らかく私に寄り添い、容易く官能を揺り起こす。


     バターのように、触れた場所から溶けてゆく肌。
     シメオンの体は不思議だ。
     同じ男の体なのに、熱く柔らかく私を飲み込み、包み込む。
     体の上でゆらゆらと悩ましげに細い腰が揺れている。私は手を伸ばし、そこに掌を這わせた。彼の腰と同じリズムを刻んでいた息が、かすかに乱れる。手のひらをそっと滑らせ、薄く滑らかな肌の感触を味わっていると、シメオンの手が重ねられ、彼の胸元へと引き寄せられた。
     私は彼の誘導に従って素直に手を上へと滑らせた。
    「は……あっ……」
     手のひらに小さな突起を感じると、吐息にか細い声が混じる。同じ場所で何度も手のひらを往復させる。その度にシメオンの口から儚い声が漏れた。
    「あ、あ、……や、もう……」
     繰り返すうちにシメオンは子供のように首を横に振り、私の手を払おうとし始めるけれど、今度は従わない。執拗に指でそこを弄り続ける。
     彼の声が切なく高くなる。腰が機械仕掛けのように上下する。何かを追い求めるようにうつろに開かれた青い瞳を見上げながら、私も快楽へと追い上げられていった。
    「シメオン……」
     彼の名が口を衝いて出る。
     シメオンが大きくのけぞって、腹の上に温かなものがこぼれ落ちた。
     力を失った上体が、胸の上にゆっくりと倒れ込んでくる。
     彼を見つめるあまりタイミングを逃してしまった私は、もどかしい状態のまま、彼の荒い息が落ち着くのを待った。
     シメオンは私の頭の両脇に手をつくと、上体をわずかに持ち上げ、見下ろした。
    「……兄さんの名前で呼んでもいいって言ってるのに」
    「……シメオン」
     私が再び彼の名を口にすると、青い目が慈しむように細められた。
     ああ、いつもの彼の微笑だ。あの、全てを赦し、受け入れてくれるような。
     私は赦しを乞うように彼に手を伸ばす。指先が頬に届くと、彼がそっと目を閉じた。赦しを得た私は、そのまま彼を抱きすくめるようにして体勢を入れ替える。
    「シメオン、……シメオン」
     呪文のように彼の名を唱えながら、私は動いた。
     突き上げるたびに、腕の中に閉じ込めたシメオンの声がこぼれた。まるで楽器のようだと思う。
    「シメオン」
     私が彼の名を呼ぶたびに、腕の中の体が悦びを伝えてきた。
     私は何度も彼の名を繰り返す。
     初めて彼が自ら私の背に手を回した。
    「シメオン」
     背中に爪がたてられる。
     腕の中の細い体が痙攣する。
     私は彼の名を呼びながら、彼の腕の中で果てた。
     

    「シャワー借りたよ、ディアボロ」
     ほんのわずかな微睡の間に、シメオンは乾いた服と真新しい清潔な空気を身に纏っていた。
     私は慌てて起き上がりながら、手近にあったガウンを羽織る。
    「そろそろ帰らなきゃ」
    「えっ、もう帰ってしまうのかい?」
     図らずも数時間前、ルシファーに言ったのと同じ言葉が口をついてでた。
     シメオンは一瞬目を丸くして、それから困ったように微笑った。
    「俺にまでそんな顔しないでよ」
    「そんな顔?」
    「置いていかれた子犬みたいな顔」
     子犬だって?
     私が思わず自分の顔に手をやると、シメオンが楽しそうに笑った。
     彼の手がそっと私の頬に添えられる。
    「本当に、君は困った領主様だ」
     どこか痛むように眉を寄せて。
     それほど似てはいないはずの兄弟は、同じ表情で同じセリフを口にする。
    「エントランスまで送るよ」
     私が言うと、シメオンが小さく吹き出した。
    「そんな格好で俺を見送ったりしたらあっという間に領地中の噂になるよ」
     私はガウンを羽織っただけの自分の姿を見下ろし、途方にくれた。
     シメオンはまた笑うと、私を見つめた。全てを慈しみ、赦す聖者の瞳で。そして私の額にそっとキスを落とす。
    「また来るよ」という小さな囁きとともに。
     天使の祝福を受ける無垢な子供のような気分になった私は、変わらない寂しさを胸に抱いたまま、大人しく目を閉じた。





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