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    Gym_the2nd

    うらひぎ学園のうちの子/うちよそ/よその子などなど

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    Gym_the2nd

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    初詣と兄弟とギムかんの話。

    ##ギムかん

    「どーすんの、今年」

    桐箪笥から取り出した着物を広げている後ろから、麦の声がかかる。一年に一度着るか着ないかというそれから立つホコリに噎せながら、牧は弟の投げた言葉の真意を捉えかねていた。

    「どう、って何が」
    「決まってんだろ、初詣だよ」

    初詣。葛木一族は例年本家の屋敷で新年を迎え、その年の事業成功を祈るのが通例である。
    しかし、両親の関係が不安定な葛木家は、今回その招待を受けなかった。まあ、招待を受けたとて、あの母親が受けるのかと言われたら甚だ疑問ではあるのだが。

    「今年は……どうなんだろう。母さん、何も言ってなかったよな?」
    「いや、まあどうせ今年も三人だろうけどさぁ……そうじゃねぇだろ」

    相も変わらず察しの悪い牧に呆れ顔を向けた麦は、はぁ、と大きくため息をついた後、少々大袈裟に耳打ちをする。

    「貴柘榴、誘わねーのかって聞いてんだよ」

    「……へ!?」

    麦から出た耳馴染む名前に顔を赤らめて、牧は思わず大きく後ずさった。

    「な、な、なんでそこでかんずめくんの名前が出るんだ!?」
    「いいか兄貴、よーく考えてみろ」

    人差し指を立てて子供に言い聞かせるようにはっきりと言葉を投げかける麦の顔は、心なしか楽しげに歪んでいる。

    「初詣ってのは一年の最初のイベントだ。しかも、多少寒い中で列で並ぶ時間もそこそこある。そして一緒におみくじやらお守りやらを買うわけだ。これ以上にいいデートのタイミングがあると思うか?」
    「た、確かに……でも向こうも御家族で行くかもしれないし……」
    「それを確認するためにも、まずは誘わなきゃ始まんねーだろうが」

    おどおどと考えを巡らせて頭を抱える。言葉に載せられるまま頭の中に浮かび続ける笑顔に思いを馳せながらも、この重要なイベントに果たして自分が誘ってもいいものなのか、というやり場のない不安と迷いが考えを曇らせていく。

    「見たくねーの? 付き合ってるやつのこと」
    「……みたい」
    「じゃあ早く誘ってこいよこの甲斐性なし兄貴っ!!」
    「いでぇっ!!」

    いつもの思考ループを嗅ぎとった弟の蹴りが、自己嫌悪にまで発展した兄の思考を思い切り断ち切る。臀部に直撃した鈍い痛みに悲鳴をあげながらも、牧は足元に転がり落ちたスマホを拾い上げた。
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    Gym_the2nd

    DONE異能編の野漆先生が自分語りをするそうです。昔話をしましょうか。私の昔話ですよ、つまらないかもしれませんけれどもね。

    当時はまだ異能力がようやっと世間に認知され始めた頃でした。
    どれほどの脅威なのか、どのような機序で、どのような人間に宿るのか、それが何者であるのか。それすらもわからず、持たざる人間共が勝手な妄想を振りかざして持つ者を弾圧する行為が正当化される。そんな愚かしい時代でした。

    とても幸いなことに、私は生まれた時から持つ者の側でした。あらゆる気体を、とりわけ構造的に不安定な気体を生成する力。私は、私の力を愛していました。それ故に、私は学生の折にこう思いついたのです。すなわち、「私の力を世に広めたい。持たざる哀れな者達に、この素晴らしき力を分け与えてやりたい」と。

    大学で解剖学を学び、国立の研究所に就職した私は、手始めに路地裏のチンピラを雇いました。
    私の研究に関わらず、異能力の研究は人間の検体が大量に必要です。何せ、地球上で異能力を扱うことが出来るのは一部を覗いて人間だけですからね。
    とにかく、当時の私には可能な限り損傷の少ない遺体、欲を言うなら生きた非異能者が必要でした。大概、こういう時に頼るべきは病院、葬儀屋、 2775

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    Gym_the2nd

    DOODLE麦と元カノと夢の話。事後表現注意。

    少し前に書いたIF日常編のギムかんの話と若干繋がってます。
    灰色の雲の中を、必死に羽を傾けながら飛んでいく。鳴り響く雷鳴の響きを頼りに、先の見えない嵐の雨雲を切り裂いていく。甲高い風切り音と激しい雷雨に混じり、身を掠めていく鋼の欠片が自分を包む黒い羽を一枚一枚剥がしていく。どうにかして乱気流に耐え続けていた羽は長く続いた逃避行に耐えかねて、ついには嵐の海を潜っていくように暗雲の下へと沈んでいった。

     火花、光、轟音と悲鳴。眼下で絶え間なく続く争いの波紋をその身で受けながら先を急ぐ。理由は分からない。ただ、急がなければならないという想いだけが、満身創痍のこの身を奮い立たせる。

     地の裂ける音と共に、高く高く昇る爆煙が視界を遮る閉じた瞬膜の向こう。その先に見えたシルエットが、すでに悲鳴を上げていた全身に久方ぶりの高揚を与えた。

    やっと、たどり着いた。█████。あそこへたどり着ければ――

     探し続けた明かりに、思わず意識が緩む。その緩みの隙間を縫うように、パン、と一発の破裂音が響いた。

    「――――――!」

     声が出ない。腹部から背中へと突き抜ける痛み。耐えきれず羽ばたきをやめた身体は、煙たい大気の中を真っ逆さまに落ちていく。

    鈍い衝撃 1734

    Gym_the2nd

    DONE異能編の野漆先生が自分語りをするそうです。昔話をしましょうか。私の昔話ですよ、つまらないかもしれませんけれどもね。

    当時はまだ異能力がようやっと世間に認知され始めた頃でした。
    どれほどの脅威なのか、どのような機序で、どのような人間に宿るのか、それが何者であるのか。それすらもわからず、持たざる人間共が勝手な妄想を振りかざして持つ者を弾圧する行為が正当化される。そんな愚かしい時代でした。

    とても幸いなことに、私は生まれた時から持つ者の側でした。あらゆる気体を、とりわけ構造的に不安定な気体を生成する力。私は、私の力を愛していました。それ故に、私は学生の折にこう思いついたのです。すなわち、「私の力を世に広めたい。持たざる哀れな者達に、この素晴らしき力を分け与えてやりたい」と。

    大学で解剖学を学び、国立の研究所に就職した私は、手始めに路地裏のチンピラを雇いました。
    私の研究に関わらず、異能力の研究は人間の検体が大量に必要です。何せ、地球上で異能力を扱うことが出来るのは一部を覗いて人間だけですからね。
    とにかく、当時の私には可能な限り損傷の少ない遺体、欲を言うなら生きた非異能者が必要でした。大概、こういう時に頼るべきは病院、葬儀屋、 2775