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    Gym_the2nd

    うらひぎ学園のうちの子/うちよそ/よその子などなど

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    Gym_the2nd

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    異能編の野漆先生が自分語りをするそうです。

    ##異能編

    昔話をしましょうか。私の昔話ですよ、つまらないかもしれませんけれどもね。

    当時はまだ異能力がようやっと世間に認知され始めた頃でした。
    どれほどの脅威なのか、どのような機序で、どのような人間に宿るのか、それが何者であるのか。それすらもわからず、持たざる人間共が勝手な妄想を振りかざして持つ者を弾圧する行為が正当化される。そんな愚かしい時代でした。

    とても幸いなことに、私は生まれた時から持つ者の側でした。あらゆる気体を、とりわけ構造的に不安定な気体を生成する力。私は、私の力を愛していました。それ故に、私は学生の折にこう思いついたのです。すなわち、「私の力を世に広めたい。持たざる哀れな者達に、この素晴らしき力を分け与えてやりたい」と。

    大学で解剖学を学び、国立の研究所に就職した私は、手始めに路地裏のチンピラを雇いました。
    私の研究に関わらず、異能力の研究は人間の検体が大量に必要です。何せ、地球上で異能力を扱うことが出来るのは一部を覗いて人間だけですからね。
    とにかく、当時の私には可能な限り損傷の少ない遺体、欲を言うなら生きた非異能者が必要でした。大概、こういう時に頼るべきは病院、葬儀屋、刑務所辺りですが、生憎私にそんな大層なコネはございません。なので、金のないチンピラに飯を奢って、奴らの仕事で出た『絞りカス』を分けて貰い、それをちまちま使って研究を続けました。聞く限り向こうにとってもそういった「謂れの分からない仏」というのは処理に困るようでしてね。話をしたら快く約束してくれましたよ。

    彼らが運んできた死体と人間を自宅に持ち帰り解剖し、残りを明朝に大学でこっそりと処分する。そうした生活が、半年ほど続きました。
    しかし、若かりし頃の私は愚かでして、ある日うっかり死体を処理する現場を目撃されてしまったのです。

    案の定、私は留置所へと送られることとなりました。私の研究は、頭でっかちの愚かな持たざる人間たちによって阻まれるのだと、私は同僚と名のついた人間共を呪いました。

    しかし次の日、私の檻にスーツの人間がやってきました。黒いスーツに身を包んだ彼らは私を担ぎあげると、かつての職場の地下深くへと連れていきました。

    担ぎ込まれた先に掲げられた名前は「Colet」。そう、政府直属の人工異能力開発プロジェクト。その担当研究室でした。
    そこには、あらゆる場所から、あらゆる異能者が集められておりました。死刑囚、孤児、老若男女、あらゆる異能力を持ったあらゆる検体が使われていました。
    世間から隠れ、細々と研究を続けざるを得なかった私にとって、そこはまさに天国のような場所でした。何も気にすることなく、私の目的のための研究ができると。
    しかし、それと同時に私は私の考えの浅ましさを思い知りました。私の能力がちっぽけに思えるほど、この研究所には素晴らしい異能力がゴロゴロと転がっているではありませんか!私なんかでは無い。最も優秀な異能力を選別し、それを相応しい人物へと授ける。そうだ、これだけ優秀な異能力があるのだ。その方がよっぽどいいじゃないか!

    いつしか、私の研究目的は「自分の力を広げる」のではなく「全ての持たざる者に異能力を授ける」ことへと変わっていきました。

    政府はプロジェクトに多大な資金を投じました。異能力者が迫害される時代では、異能力者故に無実の罪を被せられた者や異能力を持った子を捨てる親がざらにいましたから、検体にも困りません。しかしながら、私の研究はその特殊性から大変に困難を極めることとなりました。惜しいところまでいった例はいくつもあったんですがね。

    ある例……私がA.Z……アズと呼んでいた例は摘出に適し、かつ大変に将来性のある力を有していたにもかかわらず、摘出手術の直前になって脱走してしまいました。
    あの瞳の美しさ、そしてその瞳が持つ束縛の力。彼以上に、先導者に相応しい異能力を持つ者は後にも先にもいないでしょう。なのに、それなのに!
    あぁ、今でも彼を逃がした警備の連中にホルマリンを飲ませて全身の血を抜きたい。それほど、彼は優秀だった。彼さえいれば、私の研究が何十年も混迷することなんてなかったのに!愚かしい!非異能者のくせに私の研究成果に眉を顰めて苦言を呈し、ただ突っ立って給料を貪りとるあの木偶の坊どもっ……グゥッ

    (咳)

    ……失礼。ともかく、私は数十年あまりをその研究所で過ごしました。そして、忘れもしない40年目の吹雪の日。ようやく、私は非異能者への異能力移植術に成功したのです!脊髄に病を持った子に、異能力者の脊髄を移植し、そこに制御装置を組み込んでトリガーとする。そうして初めて、彼は、K.Mは非異能者ながら、毒を操る異能者として生まれ変わったのです。
    アレこそ、私の集大成であり、願いの結晶。彼を筆頭とし、世界を異能力者で満たして完全な世界を作るのだと。私は彼の目の前で高らかに叫びました。

    しかし、論文と研究資料を提出して数日後。私は研究所の諮問会へと突き出されることとなりました。彼らが言うには、私は危険な人間なんだそうです。
    しかし、今だからこそ言えますが、随分と今更な話とは思いませんか?あれだけの人間を手段を選ばず秘密裏に集め、一般的に言うところの人道から大きく外れた手段で実験を行っていながら、これだけの研究成果をあげた私を「危険人物」呼ばわりなど、誰が見ても「責任転嫁」ではありませんか?
    まあ、私がここで何を言おうと、彼らが出した処分は変わらないんですがね、えぇ……。

    その後は、語る必要も無いでしょう。『危険人物』が『危険な思想』と『危険な知識』を持って外に出るなど言語道断。私は命からがら研究所を去り、こうして路地裏の小さなビルで好き勝手している訳です。

    ……研究はどうなったのか?
    まあ、なんと言いますかね。こちらに居を構えてからまた、とは思ったのですが。
    K.Mが完成した時点で、私はきっと満足してしまったんでしょうね。まるで、風船に小さな穴を開けたように、私の中にあれ程あった熱意が音を立てて抜けていってしまったんですよ。えぇ、それはそれは酷く空虚でございました。
    まあ今ではこうして援助を受けながら開発ができますから、あれほど空虚な人間になることは二度とないでしょうがね。

    ただ、時々。時々、私の研究成果を見たくなることがあるんですよ。愛着、と言うやつです。例え失敗作でも、逃げ仰せても、一度世話を見たなりに、彼らが今どうなったのか位は気になるのですよ。会いに行こうにもどこも門前払いでしてね。あぁ、これが親心と言うやつなのでしょうか。

    ……随分と、長話してしまいましたねぇ。ここまで語るつもりはなかったのですが。

    さて、今日は何の御用で?
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    Gym_the2nd

    DONE異能編の野漆先生が自分語りをするそうです。昔話をしましょうか。私の昔話ですよ、つまらないかもしれませんけれどもね。

    当時はまだ異能力がようやっと世間に認知され始めた頃でした。
    どれほどの脅威なのか、どのような機序で、どのような人間に宿るのか、それが何者であるのか。それすらもわからず、持たざる人間共が勝手な妄想を振りかざして持つ者を弾圧する行為が正当化される。そんな愚かしい時代でした。

    とても幸いなことに、私は生まれた時から持つ者の側でした。あらゆる気体を、とりわけ構造的に不安定な気体を生成する力。私は、私の力を愛していました。それ故に、私は学生の折にこう思いついたのです。すなわち、「私の力を世に広めたい。持たざる哀れな者達に、この素晴らしき力を分け与えてやりたい」と。

    大学で解剖学を学び、国立の研究所に就職した私は、手始めに路地裏のチンピラを雇いました。
    私の研究に関わらず、異能力の研究は人間の検体が大量に必要です。何せ、地球上で異能力を扱うことが出来るのは一部を覗いて人間だけですからね。
    とにかく、当時の私には可能な限り損傷の少ない遺体、欲を言うなら生きた非異能者が必要でした。大概、こういう時に頼るべきは病院、葬儀屋、 2775

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    Gym_the2nd

    DOODLE麦と元カノと夢の話。事後表現注意。

    少し前に書いたIF日常編のギムかんの話と若干繋がってます。
    灰色の雲の中を、必死に羽を傾けながら飛んでいく。鳴り響く雷鳴の響きを頼りに、先の見えない嵐の雨雲を切り裂いていく。甲高い風切り音と激しい雷雨に混じり、身を掠めていく鋼の欠片が自分を包む黒い羽を一枚一枚剥がしていく。どうにかして乱気流に耐え続けていた羽は長く続いた逃避行に耐えかねて、ついには嵐の海を潜っていくように暗雲の下へと沈んでいった。

     火花、光、轟音と悲鳴。眼下で絶え間なく続く争いの波紋をその身で受けながら先を急ぐ。理由は分からない。ただ、急がなければならないという想いだけが、満身創痍のこの身を奮い立たせる。

     地の裂ける音と共に、高く高く昇る爆煙が視界を遮る閉じた瞬膜の向こう。その先に見えたシルエットが、すでに悲鳴を上げていた全身に久方ぶりの高揚を与えた。

    やっと、たどり着いた。█████。あそこへたどり着ければ――

     探し続けた明かりに、思わず意識が緩む。その緩みの隙間を縫うように、パン、と一発の破裂音が響いた。

    「――――――!」

     声が出ない。腹部から背中へと突き抜ける痛み。耐えきれず羽ばたきをやめた身体は、煙たい大気の中を真っ逆さまに落ちていく。

    鈍い衝撃 1734

    Gym_the2nd

    DONE異能編の野漆先生が自分語りをするそうです。昔話をしましょうか。私の昔話ですよ、つまらないかもしれませんけれどもね。

    当時はまだ異能力がようやっと世間に認知され始めた頃でした。
    どれほどの脅威なのか、どのような機序で、どのような人間に宿るのか、それが何者であるのか。それすらもわからず、持たざる人間共が勝手な妄想を振りかざして持つ者を弾圧する行為が正当化される。そんな愚かしい時代でした。

    とても幸いなことに、私は生まれた時から持つ者の側でした。あらゆる気体を、とりわけ構造的に不安定な気体を生成する力。私は、私の力を愛していました。それ故に、私は学生の折にこう思いついたのです。すなわち、「私の力を世に広めたい。持たざる哀れな者達に、この素晴らしき力を分け与えてやりたい」と。

    大学で解剖学を学び、国立の研究所に就職した私は、手始めに路地裏のチンピラを雇いました。
    私の研究に関わらず、異能力の研究は人間の検体が大量に必要です。何せ、地球上で異能力を扱うことが出来るのは一部を覗いて人間だけですからね。
    とにかく、当時の私には可能な限り損傷の少ない遺体、欲を言うなら生きた非異能者が必要でした。大概、こういう時に頼るべきは病院、葬儀屋、 2775