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    於花🐽

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    左馬刻様の一郎くんへの偏見。

    ##サマイチ

    ステイウィズミー 元ディビジョン代表メンバーで集まるとなってもいつも十七人だった。天谷奴が来た事はない。
     このメンツが集まったとしても現政権に意見しようとかそういう思想があるわけではない。ただの飲み会、食事会である。近いものは同窓会だろうか。一昔前を懐かしんで、近況を報告する。ただそれだけの場である。
     十七人居るのも最初の十五分だけだった。まず理鶯が抜ける。
     理鶯は所属する軍の部隊が再興してからは初めの乾杯をするとすぐに帰ってしまう。MTCのメンバーで集まるくらいならどうって事はないらしいが、ディビジョン代表メンバーがこれだけ揃っている中に参加するのは軍での立ち位置からして少しだけ危ういとの事だ。長居するだけ幹部から邪推され、そのしわ寄せは直属の上司に行くらしい。
     中王区がなくなって落ち着いたもののまだ何もかも整ったわけではない。壁を壊してから随分経ったように感じるが、それほどの時間は過ぎてはいなかった。
     それぞれにそれぞれの思惑がまだ渦巻いている。
     理鶯が帰るか帰らないくらいの頃に麻天狼のメンバーが席を移動し始めるのも思惑といえば一つの思惑である。
     この人数で、飲むのも食べるのにもこだわると小さめの店を貸切ってしまう事が多い。今日も創作イタリアンの店を貸し切って食事の提供はビュッフェスタイルだ。店内の壁際には各自で取れる料理が並んでいて、テーブルは各ディビジョンメンバーごとで六つ並べられている。皿を持って移動すれば席などあってないようなものだが、一番最初に移動するのは一二三と独歩なのである。
     一二三と独歩は寂雷に酒を飲ませたくないので未成年が二人いる山田三兄弟のところに行くのである。
     このメンツの中に本気で未成年に酒を唆すような人間はいないし、本人たちも例えば喧嘩とか、例えばハッキングとかそんなやんちゃをしていてもそういう面では厳格なのでアルコールを一切摂らないから、そこに寂雷を連れて行っておいておけば寂雷を酒類から遠ざけられる。
     問題は成人した一郎である。覚えたて一郎から酒を遠ざけるのは可哀想で、寂雷を未成年のところにおいた二人は一郎を連れてまた席を移動する。
     そしてMTCのところにやってくるのである。左馬刻はこれには何の思惑もないと思いたかった。
     思惑があるとしたらそれはきっと自分の気持ちを見透かしたお節介であるから、それほどまで自分はわかりやすくないと信じていたい。
     今度は銃兎が同い年で飲みましょうと一二三と独歩を誘って席を離れるのも、五人で卓を囲っているのが手狭なだけであると思いたい。
     一郎と二人残されて騒がしい酒飲みたちの騒乱を静かに眺める。
     飲み物は一番初めは店員がオーダーをとる。一郎はその時頼んだらしいハイボールを未だにちびちびと飲んでいた。
     初めの一杯以降は食事と同じく自分で取ってくる仕様なので左馬刻はデキャンタごと持ってきたワインを手酌で飲んでいる。
     一郎はハイボールを飲みながら一二三たちがこの席に来る時に持ってきた皿に盛られた料理をつまんでいる。
     自分の好きな料理を選びに行かなくていいのだろうか。一郎は律儀なのでこの皿を片付けてからとでも思っているのだろうか。
    「おい、いいのか?」
    「何が?」
     左馬刻は料理が並んでいるテーブルを指指す。そこにはちょうど空却が居て楽しげに料理を選んでいた。
     空却とも話したいだろうし、好きな料理もみたいだろうからこの席を離れる良いチャンスではないか。
    「俺はここでいいよ」
     一郎の言葉に左馬刻反射的に舌打ちしてしまう。
     一郎のこの悟ったような考え方は好きになれない。
     一郎は困っている人を放っておけない優しい性格ではあるが、人間自体にはいつもどこか不信感を持っている節がある。
     来る者は警戒し、去る者は追わない。というのが一郎の基本姿勢のように思う。
     そんな人間不信の男など人は頼りにしないだろうが、現に一郎が人から慕われている。それは皆一郎の顔の良さに騙されているのだ。
     くりっとしたアーモンドアイに口角の上がった唇で見せる笑顔はとても可愛い。
     昔『お前は笑ってた方がいい』と教えたのは左馬刻だが、その笑顔で本人も無意識のうちに他人を魅了するのはいただけない。
     罪作りな可愛い顔に人は騙されている。
     愛嬌のある笑顔のせいで皆、一郎は人に好意的だと勘違いする。確かに一見の人間を嫌うような狭量な人柄ではないが一郎は他者に無関心なのだ。
     そんな不信と無関心で覆われた一郎の分厚い心の壁を越えた者も少なからずいる。
     例えば左馬刻は勿論、空却に簓、乱数や寂雷。一郎が警戒もせず無関心でもない人間はいる。
     けれど去る者は追わないという姿勢がまた悪癖である。
     自分とは別の仲間がいるのならば、自分でなくても構わないだろうと思っているのだ。
     誤解も解けて中王区の支配政権もなくなってから左馬刻は一郎個人を何度か食事や飲みに誘った。その時まず出てくるのが『誰か他の奴でなくていいのか?』である。
     左馬刻は一郎を誘っているのだと言うのだが、一郎にこの『一郎は一郎だけで他に代わりはいない』という思いが伝わってはいなさそうだった。
     舌打ちの後で眉間に皺を寄せる左馬刻の顔を一郎が覗き込む。
    「悪い……左馬刻は俺がいたら邪魔か?」
    「あ? そんな事は言ってねぇだろうが」
    「そうか。良かった。俺はなんやかんやで左馬刻の隣が一番好きだからここにいれて嬉しいぜ」
     一郎はそう言ってはにかんだ。
     可愛い。
     元々可愛いのに可愛い事を言ってしまっては可愛いが爆発してしまう。
     左馬刻は一郎のうなじを左手で抑えて固定する。そして動かない一郎にキスをしていた。
     考えるよりも早く動いていた。
     弟以外には不信と無関心しかないと思ってた男から『一番好き』なんて言われてしまったのだ。
     自分は去って行っても追われない人間の一人だと思っていた。けれど違ったのだ。
     一郎は自らここにいると言った。
     ここでぶちかまさなきゃ男が廃る。
    「左馬刻と一郎がちゅーしてるー」
     乱数の声が聞こえてくる。危ない。このまま舌を入れるところだった。初心な一郎にいきなりそこまでするのはいただけない。
     唇を離すと一郎はぽかんとした顔をしていた。丸くなった目が可愛い。
    「いち、」
    ろうと続くはずが遮られた。今度は一郎からキスされていた。
     ちゅっと可愛く唇が一瞬合わさって離れていく。
    「なあ、左馬刻。俺の十七からの初恋諦めなくていいの?」
     一郎は左馬刻にしか聴こえない声で呟く。
     左馬刻は決意した。一郎を持って帰ろうと。
     それを阻む弟たちとそれを囃し立てる者たちの騒乱の夜が始まる。
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    へまをするつもりはないが、失敗すれば相手の術中にはまる可能性だってある。家族を――二郎や三郎のことを忘れてしまうなんて絶対に嫌だ。けれど、自分がそうなってしまう以上に左馬刻が最愛の妹、合歓を忘れてしまうことが恐ろしいと思った。
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     それが誤解の上の擦れ違いだったとしても、あの時左馬刻にされた仕打ちはやはり許せない。けれど、あの時左馬刻が世界でただ一人の家族と離れ離れになってしまったのだと思うと、なぜだかこの身を引き裂かれるように辛くなった。
     一郎がこんなことを考えていると知れば、きっと左馬刻は憤慨するだろう。一郎のこの気持ちは同情などではないが、それ以外の何なのだと問われても答えは見つからない。
     左馬刻は他人から哀れみをかけられることを嫌うだろう。それも相手が一郎だと知れば屈辱すら感じるかもしれない。「偽善者だ」とまた罵られるかもしれない。
     それでも左馬刻が再び家族と引き裂かれる可能性を持つことがただ嫌だと思 10000