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    於花🐽

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    突然左馬刻に連れ出されるけど笑ってる一郎とそれに癒やされてる左馬刻のサマイチ

    ##サマイチ

    癒やしの笑顔 黒塗りの車に横付けされたと思ったらあっという間に車内に引きずり込まれた。一郎はまたか思った。
    「報連相とかないんすか、パイセン?」
     車の中にいた男は一郎を引きずり込む事に成功すると、一郎には見向きもせずに運転手に車の発進を命じて自分は煙草を取り出した。
    「出かけるぞ」
    「事後承諾だし! 俺の意思無視!」
    「……何か用あったんか」
     用という用はない。夕飯を作って食べて今買ってきたラノベを読むつもりだったくらいだ。ラノベより二週間音沙汰のなかった左馬刻との時間を優先させる。
    「別にねぇけど」
    「ならいいじゃねぇか」
     俺様だなぁと思う。
    「弟たちに連絡入れていい?」
     一郎はスマホを取り出す。前にこうやって連れ出されるところを地元住民に目撃されて、それが周って二郎の耳に入り「兄貴が拉致られた?!」と騒ぎになった。拉致されたのは事実だが犯人は俺様の彼氏様だから心配はないとメッセージを送る。
    「今晩は帰らないって言っとけ」
     一郎は耳を赤く染めながらリアシートに深く体を沈めた。抵抗する気はない。



     今日連れて来られたのは一件のビルだった。色々な店の入ったテナントビルで左馬刻は一郎を連れて最上階より上、屋上を目指す。
     屋上にあったのはプールだった。
     こんなところにプールなんてあったのか、一郎は呆けた。
     プールの周りはリクライニングのデッキチェアにエアソファ、二、三人寝転べそうなドーム型のソファなどが並んでいる。上には屋上全体を横断する何本もの線が引かれていてそこにLEDライトがぶら下がっていた。プールの大きさからも入れはするが泳ぐ事が主体のプールではないのだろう。
     それから人の気配はなく閑散としていてもしかしなくても貸し切りのようだった。
     入口の脇にはハンガーラックが置かれており、数種類の水着がかかっている。
    「着替えろ」
     左馬刻は適当に水着を選ぶとそれを一郎に押し付ける。
    「えー?」
    「更衣室は下の階な」
    「左馬刻は?」
    「俺はいい」
    「えー」
     一応声を上げてみるが異を唱えるつもりはない。こういう左馬刻には何を言っても無駄な事は解っている。けれどあまりにも素直に言う通り従うのも癪に障るので声を上げておく。
     左馬刻はプールサイドへと足を進めて行く。ブーツを脱ぐ気もないらしい。
     言われたままに着替えを済ませて一郎が戻ってくると左馬刻はプールサイドの一画のソファに寝そべっていた。
     西陽の中で淡くLEDライトが光っている。
    「遊んでろ」
     一郎に向かって浮き輪、続いてビーチボールを投げてくる。
    「えー」
     ここで一人で遊ぶのは難易度が高くないだろうか。
     渡された遊び道具は一先ず横に置いて軽くストレッチする。左馬刻は珍しくロングカクテルなんかを飲んでいた。
     左馬刻の後ろ、入ってきた出入り口からは死角のところにカウンターがあり、そこで飲み物をもらってきたらしい。完全に二人きりというわけでなく、従業員はいるようだ。
     一郎は浮き輪に胴体を通してプールに飛び込む。水は夏の昼の陽射しに温められていたからかぬるかった。
     とりあえずプールの端から端までバタ足で泳いでみる。
     左馬刻は眉間に皺を寄せてこちらを見ていた。
     二週間こちらからの連絡には返事もなく、急に人を連れてきておいてあんな顔をしているのだからいっそ清々しい。一郎は左馬刻の顔を見ていたら笑ってしまう。
     狭いプールで端から端の移動も飽きるので左馬刻の前まで行って派手に脚をばたつかせて水飛沫を飛ばしてやった。左馬刻が低い声で「おい」と唸る。
     こんな風にアンニュイな左馬刻は面白い。左馬刻の部下だったら縮みあがるところだろうが、一郎は笑ってしまう。
     本当に会いたくなければこの二週間のように連絡を断つだろうから、何したっていいだろうと一郎は笑う。
     ビーチボールでも遊ぶか、と浮き輪を置いた。腰より上ほどの深さのプールの中でビーチボールを落とさないように一人でトスして回る。
     陽は完全に落ちてライトの光だけに照らされ始めていた。
     一人で水をかき分けてボールを追った。ちらりと左馬刻を見るとさっきより眉間の皺が減っている。
    「なぁ、左馬刻。俺腹減ってきたんだけど」
     ビーチボールを腕にキャッチして左馬刻の元に寄る。
    「食い物なら何でもあるぞ」
    「何でも?」
    「下からデリバリー出来るからな」
    「おすすめは?」
    「知らね」
    「俺も初めて連れて来られてわかんねぇし」
     左馬刻はカウンター奥に控えている従業員を呼び出すと「適当に食い物」と雑なオーダーをした。
    「俺、コーラも飲みたい!」
     プールに浸かったまま一郎が叫ぶと左馬刻が「コーラも」と言い、従業員は「かしこまりました」と言って下がっていった。
    「今更だけど、ここ貸し切り?」
    「貸し切りっつうか営業は昨日までだからな」
    「へぇ。夏も終わるもんな」
     そういえば去年の夏は左馬刻に海に拉致された。まだ八月の半ば前だった。
     あの日は朝一で家に突撃されて海に連れて行かれた。
     あの時も左馬刻から返事はないがどの日がオフだなんだとこちらから一方的に連絡はしていた。それに合わせて会いに来てくれたようだが、やっぱり一言何かあってもいいと思う。
     何も聞かされず連れて来られたので何の準備もなく、去年も現地で水着を買っていたな、と一郎は思う。
     その一方で去年の左馬刻は準備万端だった。
     左馬刻は日焼けすると黒くならずに赤くなりひどいと腫れるから全身ラッシュガードを着込んでいた。頭はキャップにサングラス装備だ。それから一郎の水着を買った海の家で借りたビーチパラソルの下、そこから一歩も出なかった。
     今回と同様に「遊んでろ」と言われた一郎は「えー」と返しながら泳ぎを楽しんだ。
     遊泳エリアの端のブイまで泳いで砂浜に手を振ったら左馬刻が小さく振り返してくれたのが面白くて笑った覚えがある。
     海水浴場は貸し切りなどではなく、家族連れなどがちらほらいた。
     ファミリーの中でぽつんと座ってる左馬刻は目立っていて、一郎は海の中から左馬刻を見る度に笑ってしまった。
     適当に遊んで昼頃になると、左馬刻が「帰るか」と言うので、一郎は驚いた。
     本当にビーチパラソルの下から一歩も出ていない。海の家で何か飲み食いもしてない。
    「あんた何しに来たんだよ?」
    「あ? お前の笑ってる顔見に」
     左馬刻からさらりと出た言葉に一郎は面食らった。



    『お前の笑ってる顔見に』
     この左馬刻の言葉が全てである。
     地獄の底に居たと思っていた。けれど地獄の底というのは広いものだった。見渡せば色々な地獄がある。
     左馬刻はこんな仕事だし、それなりの人生だった。それでも胸糞悪いものは胸糞悪い。その感性はまだ持っている。
     一郎を太陽だ何だと祀り上げるつもりはない。ただ左馬刻にとって一郎が清涼剤である事は確かだった。
     一郎は気付いてないが、決別中も外で仕事をしている一郎の姿をそっと遠くから見に行った事がある。
     この仕事に就いた事に後悔はないが、どうしようもない事もあった。
     あの頃は一郎を憎んでいたが、一郎が自分と袂を分かった事に一種の安心感があった。
     ただ見ているだけの距離感が心地良かった。
     自分の知らないところで一郎が汗水垂らして働いてる。それで笑っている。
     今はもう一郎を離せなくなってしまったけれど、自分なんかとは関係なく一郎に幸せでいて欲しい。
     嫌な仕事があるとどうしても一郎を避けてしまう。でも一郎が不足してくる。
     一郎を連れ出さなくてもいい。遠くから笑ってる顔を見られればいい。
     しかし左馬刻は知った。一郎は左馬刻の傍が一番、左馬刻の好きな顔で笑うのだ。



    「俺も腹減ってきたな」
     プールから上がった一郎がプールサイドで届いた魯肉飯をかき込んでいると、ぽつりと左馬刻が呟いた。
    「一口食う?」
     一郎はずいとスプーンを突き出す。
    「いや、いいわ。肉食いに行くか」
    「今から?」
    「今じゃなきゃいつ行くんだよ?」
    「俺、今食っちゃったんですけど?」
    「それぐらいじゃ腹膨れてねぇだろ」
    「まぁ、確かに」
    「さっさと食えや。行くぞ」
    「本当に横暴だな、あんた」
    「はっ。うっせ」
     鼻で笑う左馬刻の目に憂いはもうなくなっていた。
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