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    於花🐽

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    魔女左馬刻×ぬいの一郎の第三話。
    サマイチャ2展示作品。ポイピクにも載せておきます。

    ##サマイチ

    魔女左馬刻とぬいと恋のおまじない 寝室に入るとロングシャツタイプのスリーパーを着て、ナイトキャップを被ったぬいがベッドの上で仁王立ちしていた。
     ぬいの服は卵から生まれた時の物しかなかった。
     精霊の衣に汚れなど付かないと思っていたが、ぬいの服は左馬刻の魔女専用のローブや手袋と同じように特別な生糸で編まれてはいても普通の衣類と変わりなく手入れが必要な物だった。
     精霊が身を清めに泉に浸かる話は聞いた事があったが、ぬいは左馬刻と同様に風呂を使った。人のように垢が出るわけではないが、ぬいは動き回って普通に汚れるのだ。土埃をくっつけてくる精霊とは何なんだろう。
     邪気もなく魔力で動いているから精霊だと思っているのだが、左馬刻は精霊に詳しくはない。左馬刻は魔女で様々な魔術に精通している。けれど得手不得手はあるものなのだ。
     ぬいが何であるにせよ、汚れるから風呂に入る必要はあって、着ている物も汚れて洗濯の必要性があった。
     風呂は湯を張った桶を二つ用意しておけばぬいは一人で入った。左馬刻が世話を焼こうとすると怒るぐらいである。
     服は洗濯している間が困るので、左馬刻が馴染みにしている魔女や魔法使いたち専門の仕立て屋に相談して作ってもらった。
     寝る時は左馬刻自身が何も着ない派なので、仕立て屋にはパジャマなど依頼していなかったが、依頼した物以上に今着てるスリーパーやその他数着の服が送られてきた。左馬刻が気が付かなくても仕立て屋はぬいの季節の服を作ってくれていて、その厚意でぬいはそれなりの衣装持ちになっている。値段など気にしないが、仕立て屋に払う金額は左馬刻一人の時の数倍になった。必要ないと言ってもいいのだろうが、仕立て屋は絶妙にぬいに似合う服を仕立て上げてくるので左馬刻は断れないのである。
     さて、その似合いのスリーパーにナイトキャップ姿で何故仁王立ちしているのか。
     普段なら絵本などを読んで左馬刻が風呂から上がるのを待っているのだがどうしたというのか。
     左馬刻はバスローブをハンガーに掛けながらぬいに「どうかしたか?」と声をかける。
    「ぬぬぬぬ」
     ぬいは神妙な様子だ。
    「ぬぬぬぬぬぬいぬぬぬ」
     相変わらずぬいはぬっぬ言っている。雰囲気から何を言っているか察しているが何を言っているかまでは正確には解らない。
     左馬刻はぬいを枕元に避けると上掛けを捲った。そこに横になってぬいが自分の上に来るのを待つ。しかし今晩はぬいが左馬刻の上に登ってくる事はなく、左馬刻の肩をぐいぐいと押してくる。
    「何だ、寝ねぇのか?」
    「ぬ・ぬ・い・ぬ、ぬぬ!」
     よく解らないが押されるまま少し横にずれる。ぬいはそのスペースに転がった。
     隣に寝転んだぬいは上掛けを自分の肩まで引き上げて上目遣いでこちらを見て満足そうに口元を緩ませる。
    「ぬぬぬぬ」
     ぬいが目を閉じる。
    「おやすみ」
     満足そうなぬいとは反対に左馬刻は不服である。何故上で寝ないのか。ぬいは何でも自分でやり過ぎだ。こんなに小さいのだからもっと左馬刻を頼ればいいのにぬいはすぐに一人でこなそうとする。
     眠る時は左馬刻に甘える数少ない時だった。
     無理矢理にでも左馬刻の上で寝かしつける事も出来る。体が小さいからといってぬいの意思を無下には出来ない。ぬいの意思は尊重すべきだ。
     左馬刻は横向きに寝転び直した。ぬいを囲うように腕を伸ばす。
    「もっと甘えろや……」
     左馬刻の呟きは眠るぬいには聞こえなかった。

     ■

    『これは恋の魔法、恋のおまじないだよ』
     そうだ、俺は魔法をかけられたのだ。
     ピンク色の髪の魔法使い。俺はこいつを知っている。
     こいつの名前は……。
    『大事な弟くんたちを心配させるなんて、めっ、だよ。弟くんたちから頼まれたし……僕が……から……』
     名前は思い出せないけれど、魔法使いの言葉が蘇ってくる。
     大事な弟……。大事……?
     周りが光る。
     魔法使いの姿は消えていて、現れたのは左馬刻だった。
    『お前、魔力はあるのに出力が出来てねぇんだよ』
     大事……あぁ、左馬刻の言葉。大切な左馬刻からの教え。
    『呪文を難しく考え過ぎなんだ。……そうだ。お前、歌は好きか?』
     孤児は魔法を覚えさせられる。簡単な魔法を一つでも覚えられれば働けて食べるのに困らないからだ。
    『歌う声はどこから出す? それと同じだ。息はどうやって吸って吐く? 力はどこに入れる? 考えろ』
     歌って魔力を創る。そうして俺は魔法が使えるようになって……俺は……何をしたんだ?
     解らないけれど左馬刻が教えてくれた事だから。
     俺は歌をうたう。俺は俺だと示す為に。
     俺は俺だと示して、そしたら……。

     ■

     ぬいが目を覚ますとベッドの上だった。
     ぬいはマットレスの真ん中で寝ていて左馬刻は今にも落ちそうな端で丸くなっている。
     左馬刻は寝相があまり良くない。一緒に寝ているとぬいが下敷きにされる事もままある。人体は割と凹凸があるので圧し潰されたりはしないが、夜中に這い出る事はそれなりにある。
     ぬいの力で左馬刻をベッドの中心に押し戻すのは難しい。このままでは落ちてしまいそうなのでぬいは左馬刻の肩を軽く揺さぶる。
    「ぬぬぬぬ」
     左馬刻の長い睫毛が震える。
    「ん……」
     薄っすらと目を開いた左馬刻はすぐに眉間に皺を寄せた。
    「お前……寝相悪過ぎだろ」
     ぬいは左馬刻の掌の中に握りこまれる。
    「何回俺様の鳩尾に頭突きかますんだよ」
    「ぬ?」
     ぬいが目を覚ました時、寝入る時に使っていた枕が頭の下にはなかったし、そもそも枕から随分離れたマットレスの中央に体はあった。
    「ぬぬぬ」
     左馬刻に迷惑をかけていたと解ったのでぬいは素直に謝った。
    「お前は俺の上で寝とけばいいんだよ」
     真ん中に戻った左馬刻は胸の上にぬいを下ろす。
    「ぬー」
     ぬいは左馬刻に甘え過ぎている気がしていて横で寝る事にしたのに、いつも通りになってしまった。
     ぬいは上を向いて左馬刻の表情を仰ぎ見た。
     左馬刻は何だか嬉しそうな顔をしている。
     左馬刻が嬉しそうならば良いか。
     左馬刻の胸の上はとくとくと優しいリズムが聞こえる。
     マットレスの上では何か夢を見ていた気がする。それは嫌な夢だった気もするけれど大事な夢の気もした。
     もし大事ならばまた思い出すだろう。
    「ぬぬ」
     左馬刻の心音は幸せのリズムだった。
     ぬいは思わず笑ってしまう。
    「何笑ってやがる?」
     左馬刻の指が頬をつつく。ぬいはそれがくすぐったくて左馬刻の素肌の上をころころと転がった。すると左馬刻も楽しそうに笑う。
    「もう寝るぞ」
     左馬刻が上掛けを引き上げて自分の体とぬいの体を覆う。
     ぬいは上掛けにくるまれながら目を閉じた。


     二人の幸せはもうしばらく続く。
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